第十七話「追って来る影」
その後、サトルは次々と部屋ごとにある試練を突破していく。
「ミア。俺が方位磁石を手に入れてから、何部屋突破した?」
「多分、五部屋よ」
サトルは、自分達が通って来た部屋の方角を見る。
おそらく、あいつらも俺等の後に続いて来ているはず。配信者潰しから逃げるために、俺が飛び込んだ竹の間には方位磁石があった。そう考えると、やつらも竹の間に入って、方位磁石を手に入れたに違いない。
「そろそろ。次の階層に繋がる階段に辿り着くはず」
サトルとミアは、方位磁石の赤い針が指す方角に向かって、次の部屋に進む。
「ここは……」
柑橘系の匂いが部屋中を覆っていた。
「良い匂い」
ミアは、匂いを嗅いでリラックスしている。
「この部屋の試練はなんだ?」
サトルは、机の上に紙が置いてあるのを見つけて、手に取った。
『ユズの間へようこそ! ここでの問題は、ユズの原産地はどこでしょう! いつものように、机の下に投票箱があるから、そこに投票してね!』
ユズの原産地か。
サトルは、考えながら机の下にあった投票箱を取り出して、解答用紙を見てみる。
『問:ユズの原産地は次のうちどれ?』
一:中国
二:韓国
三:日本
どれもありそうな選択肢だ。
『スキル:リスナー選択権が発動されました』
:お、来た!
:待っていました!
ちょうどいい時に、スキルが発動してくれた。ここは、リスナーの力を借りて突破しよう。
「リスナー頼む。正解を教えてくれ」
サトルは、リスナーに頼った。解答用紙に書かれている選択肢が、そのまま選択肢として表示され、投票が始まる。
コメント欄を見てみると、「楽勝」や「余裕」と言ったコメントが投稿されている。
『リスナーの投票が終わりました。投票結果は、一:中国に決まりました』
サトルは、投票用紙に書いてある中国に丸を付け、投票箱に入れた。すると、投票箱が開き、正解と書かれた紙があった。
「今回は、何もご褒美ないのね」
ミアは、残念そうに言う。
「先を急ごう。余裕があるとは言え、相手は確実に俺達を追って来ている」
サトルは、方位磁石を見て、赤い針が指す方向にある障子を開けようとする。
「くくく。お待たせ―」
サトルの背後から、男の声が聞こえた。
「なに!?」
もう追いついて来たのか!?
「さすがリーダー。方位磁石の方向にターゲットがいる、読みは当たっていますぜ」
リーダーの取り巻きである二人の男も部屋に入ってくる。
「くくく。なんで、こんなに早く追いついたのかって表情をしているな」
リーダーは、笑みを浮かべながら言う。
「同じルートを通って来たなら、こんなに早く追いつけないはずだ」
俺とミアが突破した試練には、パズルなどもあり、短時間で終わらせることが難しい試練もあった。
サトルは、試練の内容を踏まえた上で、余裕があると思っていたのだ。
「くくく。俺達には、それを簡単に突破する方法があったんだよ」
「なんだ、それは?」
サトルは、剣を構えながら距離をとる。
「これだよ。これ」
リーダーは、携帯を取り出して俺達に見せる。
「携帯で調べたのか? それなら、選択式の問題は解けるだろうが、パズルの問題は解けない。一体どうやって……」
もしかして、配信をしてリスナーと協力したのか? 配信してないって言ったのは、嘘か?
サトルの脳内は、様々な考えが巡っていた。
「くくく。俺にユニークスキルを与えてくれた女神は、頭が良くてな。助言通りに行ったら、ここまで辿り着いたんだよ。女神様様だ」
モモの言う通り、投稿者潰しと女神は共犯している。裏で糸を引いている女神が、こいつに入れ知恵をしたのか。
「携帯で調べることができても、パズルはどうやって解いたの?」
ミアは、杖を構えながら、リーダーに聞く。
「サトルとミアは、それぐらいもわからないのか。くーくく」
リーダーは、馬鹿にしているかのように笑った。
「お前達は、ダンジョン配信者だろ?」
「まさか」
サトルは、リーダーの言っていることを理解した。
「そうだよ。お前等の配信を見ながら、試練を解いていたんだよ。くーくく」
こいつらは、ダンジョン配信をしている俺達に試練を解かせて、配信を見ながら、答えをカンニングして突破して来たのか。
「リーダー。この部屋の答えは、なんですかい?」
「一:中国だよ。くくく」
子分は、解答用紙を取り出し、ペンで記入してから投票箱に投票した。
「くくく。これで、俺等も、この部屋を突破した。これ以上は、逃げられないなぁ」
追い込まれた……。どうする。
サトルは、解決策を見つけるため、考えを巡らせる。
「サトル。次の部屋、階段がある」
ミアが、サトルに耳打ちをして次の部屋を伝えた。
「本当か?」
サトルの返事に、ミアは頷いた。
ここのフロアだと。俺の剣は長くて振り回せないし、ミアの炎魔法も俺達を巻き込む可能性が高い。
戦うなら、下のフロアで戦いたい。
「おい、お前等! 俺達に聞こえないような声の大きさで、何話してやがる!」
リーダーの取り巻きの一人が、俺に向かって怒鳴る。
「お前達を倒す方法が思いついた」
サトルは、余裕そうな笑みを浮かべて言った。
「くくく。それは、面白そうなことを言うじゃねぇか」
リーダーは、サトルの方に近づいて来る。
「へへ」
「ヒヒ」
取り巻きの男二人も、リーダーの後に続いて行く。
「ミア。合図したら、次の階層まで全力ダッシュだ」
サトルの言葉にミアは、頷いて返事をした。
「俺達をどうやって倒すんだぁ?」
リーダーは、ナイフを取り出して、戦闘態勢をとった。
「今だ!」
サトルは、ポケットから魔方陣が描かれている魔法紙を取り出した。
「魔法!?」
リーダーが、魔法紙を見て、そう叫んだ。
「今更気づいたって遅い! エアロ!」
サトルが、持っている魔法紙は光出し、強烈な突風がリーダーと取り巻きを襲った。
「リ、リーダー!?」
取り巻きは、風に吹き飛ばされ、障子に叩きつけられた。
「くそ!」
リーダーは、悔しそうな言葉を言った。
三人とも動けないみたいだな。
「ミア。今の内に階段を下るぞ!」
「うん!」
サトルとミアは、階段を下り最後の階層である第五階層に向かった。
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