第十六話「配信者潰しとの遭遇」

 誰だ?


 サトルは、声が聞こえた方向に目を向ける。


「そうだな。まずは、何の間があるかを調べてみよう」


 障子の奥からは、男が会話している声が聞こえる。最低でも二人はいるな。


 サトルは、ミアの方向を見る。


「今の声聞こえたか?」


「うん。私達以外にも誰か来ているみたい」


 ミアは、声が聞こえた部屋の方向から距離をとった。



 :誰だ?

 :わからない

 :誰だろう?



 俺の配信を見ているリスナーも、投稿しているコメントの内容から見て困惑している様子だ。


「リーダー。ここだけ、名前が『無の間』になっていますぜ」


「何? 今までの部屋とは、違う部屋の名前だな」


 無の間……俺達がいる部屋だ。


 サトルも、ミアと同じ所に行き、声が聞こえてくる部屋から距離をとった。


 障子の奥から人影が見える。


「ミア。障子の奥にいる人物が、誰だかわからない。気を付けろ」


「わかった」


 人影が大きくなっていき、障子が開かれた。


「おっと、でかした子分。ビンゴだ」


 現れたのは、ぼさぼさの長髪に髭を生やした、ガラが悪そうな男だった。


「お前は、誰だ?」


 サトルは、剣を抜き、構える。


 外見で判断をするのは良くないが、善人には見えない。一体、何者だ? それに、ビンゴって言ったぞ、何を言っている?


「おいおい、いきなり敵対行動かよ。まぁ、明らかに悪役に見える風貌をしているか」


「リーダー。やっちまいますか?」


「やっちまいます?」


 男の取り巻きだと思われる、子分が言う。前歯がない者と、トラップに引っかかったのか、黒い汚れが体についている男二人だ。


「あなたは何者よ?」


 ミアが、部屋に入って来た男三人に、杖を向けて聞き出す。


「俺達も、動画投稿者だ」


 俺達と同じ同業者?


「動画投稿者なら、チャンネル名を教えてもらおうか?」


 サトルは、リーダーと呼ばれていた男に剣を向ける。


「残念だが、今俺達のチャンネルは休止中でね」


 男は、顔をにやけつかせながら言った。


「今は、冒険者なのか?」


「それも違う」


 サトルは、男の曖昧な返答に、嫌な予感がした。


「何者だ?」


 サトルは、剣を構えながら後ずさりをする。


 ミアも、サトルの動きを見て、杖を構えながら後ずさりをした。


 男達は、しばらく沈黙する。


「あんなに警戒してなかったら、楽に終わるかと思っていたのにな」


 リーダーは、ため息交じりに言った。


「楽に終わる?」


「俺達は、ちまたでは投稿者潰しって言われている」


 こいつが、投稿者潰し!


 サトルは、身構える。


「リーダーは、『クラッシャー』ってあだ名も、付けられているんだぜ」


 前歯がない取り巻きの一人が、自慢げに言う。


「サトル。この人達、今朝ニュースに乗っていた」


「あぁ、モモが言っていた、女神と結託している投稿者潰しの『クラッシャー』だ」


 サトルは、周囲を見る。


 この部屋で戦闘は、あまりにも狭すぎる。


 俺の剣は長すぎるし、ミアの魔法は、自分達も巻き込んでしまう危険性がある。


「くくく。俺の異名が、今朝のニュースで広まっているみたいだ」


「さすがですぜ。リーダー」


 投稿者潰し達は、笑いながら言う。


「お前たちの狙いは?」


「お前のチャンネルをアカウントごと消すことだな。持っている携帯と、アカウントのログインに必要な情報を教えろ」


 リーダーは、サトルに携帯とアカウントの個人情報を要求してくる。


「『嫌だ』って言ったら?」


「くくく」


 リーダーは、サトルの言葉を聞き、笑い声をあげる。


「そうだな。そう答えるなら……」


 リーダーは、自分の背中に手を回す。


「力づくで、奪っちゃおうかな!」


「ミア!」


「へ? きゃぁ!?」


 サトルは、ミアの腕を掴み、障子を開け、隣の部屋に飛び込んだ。


「くくく。逃がすか!」


 リーダーは、背中に隠していたナイフをサトルに向かって投げた。


「くっ!」


 サトルは、剣で防ごうと構えるが、ナイフがこっちに届く前に、障子が自動的に閉まった。


 障子にナイフが刺さる音が聞こえる。


「なに? 貫通しない?」


 障子越しに、リーダーと呼ばれていた男の声が、聞こえる。


「なんて、頑丈な障子なんだ!?」


 取り巻きの男だと思われる、驚いた声も聞こえた。


「さすが、ワンダーフロア。俺のナイフが通らない障子があるとは。持ち帰って素材を調べたいものだ」


 リーダーの発言を聞く限り、ナイフがあいつの武器か。隣の部屋に避けて良かったな。ここのフロアだと、武器の相性的にあっちが有利だ。俺とミアの武器は、小回りが効かない。


「リーダー! 障子が開きません!」


「ここの部屋が開く条件は?」


「えーと、十って書いていますぜ!」


「そうか、お前、漢字読めないんだったな。どれ……十分休憩か。サトル、試練の間の仕組みに救われたな。待っていろよ、お前のチャンネル消してやるからな。くくく」


 十分の間に、出来るだけ、あいつらと距離をとって、追いつかれる前に、最終フロアへ繋がる階段を見つけないといけない。


「ミア。あいつらは、十分間あの部屋から出られない。俺達は、先に進んで、次の階層を目指すぞ」


「わかった」


 この部屋は、何の間だ?


 サトルは、飛び込んだ部屋の周囲を見渡してみる。


「葉っぱで装飾されている。なんだ、この葉っぱ?」


 葉の先になっていくと細くなっている。どこかで、見たことがある葉っぱだ。思い出せない。


「サトル。手紙が机の上にあった箱と一緒に置かれていた」


 ミアが、サトルに手紙を渡す。


 サトルは、ミアから受け取った手紙を開いて、中身を確認してみた。


『竹の間にようこそ! 日本ではお馴染みの竹ですが、その葉っぱには殺菌効果があるのは知っている? 新潟では笹団子って名前で特産品にもなっているよ。問題は、その笹団子を考案した戦国武将は誰でしょう? わかるかな? 正解したら、階段の方角を指してくれる方位磁石をプレゼントだ!』


 階段の方向を指してくれる方位磁石。これは、なんとしても手に入れたいな。そういえば、さっきミアが「机の上にあった箱」って言っていたな。どんな箱だ?


 サトルは、机の上にある箱を調べてみる。


「投票箱って書かれている」


 箱の側面に、解答用紙と書かれている紙とペンが付いてあった。


「サトル。笹団子を考案した戦国武将ってわかる?」


 サトルは、ミアの質問に頷いた。


「あぁ、わかる。俺は、歴史だけは得意だからな」


 高校時代は、歴史以外の教科は赤点すれすれだった。歴史だけが、点数は良かったな。


「本当!?」


 ミアは、サトルの言葉を聞いて目を輝かせた。


「答えは、上杉謙信うえすぎけんしんだ」


 サトルは、上杉謙信と書いて投票箱に紙を入れる。


 すると、箱が開き中には方位磁石が入っていた。


「サトル。すごい!」


 ミアは、感動したように拍手をする。


「はは。そんなに、すごいか?」


 サトルは、ミアの拍手に口角を緩ませながら、箱の中にある方位磁石を手に取った。


「赤い矢印の方向に、次のフロアに続く階段があるみたいだな」


 サトルは、方位磁石の赤い針が、指している方角にある部屋の障子を開く。


「そういえば、ミアが得意な教科は、なんだ?」


 サトルは、足を止めてミアの方を向いた。


 この先、その特異な教科が役に立つ時が来るかもしれない。


「えーとね。算数!」


「それ、小学生の教科だぞ」


 自信満々に答えるミアに、サトルは苦笑いをした。


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