第十四話「ユニークスキル:不運の馬鹿力」

「それは、俺が聞きたい。どうすれば、俺の後ろを歩いているミアが、トラップに引っかかる?」


「あんたが、トラップを確認しながら進まないのが悪いわよ」


「的確に、トラップを踏み抜くミアがすごいよ」


 サトルは、泥にはまっているミアを引っ張って、救出した。


「もう最悪、泥だらけ」


 ミアは、スカートについた泥を払いながら言う。


「次、水トラップに引っかかって、綺麗に泥が落ちるかもしれないぞ」


「絶対に、もうトラップには引っかかりたくない!」


 ミアは、壁際によろうとする。


 カチッ。


 何かのスイッチが、押された音が聞こえた。


「あ」


 ミアは、その言葉を最後に、大量の水を頭から被った。


 さっき、ミアが引っかかったトラップと同じトラップだ。


 サトルは、大量に降り注ぐ水を被る、ミアのことを、ただただ見守っていた。


「ミア。俺が先頭で進むぞ」


 サトルは、水が降り止むのを見て、ミアに話しかける。


「うん。お願い」


 ミアは、顔を下に向けたまま言った。


 表情は分からないが、落ち込んでいるのだろう。


 サトルは、先頭に立って進む。


「それにしても、スキルが全然発動しないな」


 サトルは、歩きながら呟いた。




 :選択権の発動まだー?

 :早く早くー

 :何で発動しないん?




 俺の配信を見ているリスナーも、不満をコメントし始めた。


「モモ。配信を見ているなら、スキルが発動しない理由を教えてくれ」


 サトルは、配信を見ているのだろう、モモに語りかける。


『それは、サトルが仕掛けに気づいていないからよ』


 モモの声が、頭の中に響き渡る。


「俺が、仕掛けに気づいていない?」


『そうよ。スキル:リスナー選択権の発動条件は、選択肢があるのを認識することで、発動するのよ。今まで、スキルが発動した時って、脳内に選択肢が出た時じゃない?』


 サトルは、今まで、リスナー選択権が発動した時の状況を思い出す。


「確かに、スキルが発動した時、頭の中で、それをどうするかって考えた時だ」


『そうでしょ? 今、スキルが発動していないのは、忍者屋敷の仕掛けが巧妙すぎて、サトルが認識していないのが原因。さすがに、この事態は予想外だったわ』


 モモが言っている通りなら、スキルの発動は、俺がどうするのかを迷った時。今スキルが発動してないのは、仕掛けを認識していないからか。意図的に仕掛けを探すと、リスナーは不信に思うから、難しいな。


「今まで通りに進むか」


 その後も、リスナー選択権が発動することなく進んで行き、第三階層を突破した。




 サトルとミアは、第四階層に辿り着いた。


「なんだ、このフロアは……」


 サトルは、第四階層の異質さに気づいた。


 アパートの一室と同じくらいの広さの和室。その周囲は壁ではなく、障子で仕切られていた。



 :なんだ、この部屋?

 :雰囲気が変わったぞ

 :同じダンジョン?



 俺の配信を見ているリスナーも、第四階層の異質さに気づいたようだ。


「サトル。机の上に何か置いてあるよ」


 ミアは、和室の中央にある机を指さす。


 机があったのか、気づかなかった。下を見ていなかった。


 サトルは、机の上を見ると、半分に折りたたまれた手紙を見つけた。


「まさか」


 サトルは、脳裏によぎった悪い予感を感じつつ、折りたたまれた手紙を開く。


『ようこそ!試練の間へ。このフロアは、一つの大きな部屋で構成されているよ。それを障子で仕切って、いくつもの部屋として独立させている。各部屋に、試練が用意されているから、ちゃんと突破してね。どんな試練かは入ってからの、お楽しみだよ! 無事に次の階層に進める階段を見つけることができるかな?』


 サトルは、手紙を読んで、ミアに渡した。


「サトル。これって」


 ミアも手紙を読んで気づいたみたいだ。


「ここのフロアは、ワンダーフロアだ」


 滅多に現れることはないと言われている、ワンダーフロアを短期間に二回引き当てたのは、初めてだ。


「サトル。障子をよく見て」


 ミアは、正面にある障子を指さす。サトルは、ミアの言う通り、障子を見てみる。


「梅の間?」


 障子には、梅の間と書かれていた。


「右の障子には、『油菜の間』。左の障子には、『ハスの間』って書かれているわ」


「もしかして、部屋に名前が付けられているのか」


 これは、大事なヒントになるかもしれない。問題は、どっちにいけばいいかと言うことだ。


『スキル:リスナー選択権が発動されました』


 スキルが、発動した!


「ミア。俺のユニークスキルが発動した」


「え、本当?」


 ミアは、驚いた表情をし、距離をとった。


「そんな警戒しないでくれ、なんか避けられているみたいで傷つく」


「ごめん」


 ミアは、口で謝っているが、距離を一定に保っている。



 :スキルの発動がきたー!

 :待っていたんだよ。これ!

 :初めての投票だ!



 スキルの発動を聞いて、警戒しているミアとは反対で、俺の配信を見ているリスナーは歓喜の声をあげていた。


『リスナーの皆さん。これから上げる三択のどちらかを選択して下さい』



 一:ハスの間に入る

 二:油菜の間に入る

 三:梅の間に入る



 今回は三択なのか、意見が割れそうか?


 サトルは、選択肢を見てから、リスナーのコメントを確認する。



 :梅の間気になる!

 :最初は冒険せず、スタンダードな部屋を選んだ方がいいか

 :みんな、投票する所はわかっているだろ?



 リスナー盛り上がっているな。


『リスナーの投票が終わりました。投票結果は、「三:梅の間に入る」に決まりました』


 梅の間か。


「ミア。梅の間に入るぞ」


「わかった。何かあったら、魔眼の力を使う」


 サトルは、梅の間と書かれている、障子を開けて部屋の中に入った。


 梅の間に入ると、梅の花で飾られた部屋になっている。


「ん?」


 障子が勢いよく閉まる音が聞こえた。


「ミアが閉めたのか?」


「ううん。閉めていないよ。勝手に閉まった」


「なるほど、これが試練の間。試練を突破しないと先に進めないし、戻れないのか」


 梅の間を見渡してみるが、試練っぽい物はない。


「この部屋を調べよう」


 サトルとミアは、梅の間を調べ始める。


「梅の花の良い匂いがする」


 ミアは、梅の花を手に取り、匂いを嗅ぐ。


「この部屋は、梅の花だけか?」


 サトルは、タンスにかかっていた梅の花が咲いている枝をどかしてみる。


 ん? 梅の枝で隠れていて、タンスの扉に紙が貼り付けられている。


「なんだこれ?」


 サトルは、タンスに貼られている紙を取り、裏面を見てみる。


『タンスの中に梅干しが二個入っているよ! この内一つは、超すっぱい梅干し! どれか一つ選んで、食べたら次の部屋に進めるよ』


「二択問題か」


 サトルは、タンスの引き出しを開けて、中身を確認してみる。


 ミアも、サトルの行動が気になったのか、覗きに来た。


「梅干し?」


 ミアは、タンスの中に入っており、皿の上に乗っていた二つの梅干しを見て、首を傾げた。


「一つの梅干しは、外れらしい。どちらか一つ食べれば先に進めるみたいだぞ」


 サトルは、皿の上に乗っていた梅干し二個を、机の上に置いた。


「どれにしようか」


 サトルは、どれを食べるか考える。


「待って」


 ミアが、サトルの肩を叩く。


「どうした?」


「魔眼が私にやれと訴えている。変わってほしい」


「わかった」


 サトルは、ミアと場所を変えた。


 サトルと場所を変わったミアは、梅干しを目の前にして、固まっていた。


「ミア。やっぱり、変わろうか?」


「大丈夫。私には、モモ様から付与されたユニークスキルがある」


 そういえば、前にモモからユニークスキルを貰ったって言っていた。その時は、ミアが怒っていたから、聞こうにも聞けなかったが、今なら教えてくれるか?


「ミア。モモから付与された、ユニークスキルってなんだ?」


 サトルは、ミアにスキルの内容を聞き出す。


「私のユニークスキルは、『不運の馬鹿力』よ。不幸になる代わりに、魔法の威力が上がるスキル」


「不運になる代わりに、魔法の威力が上がるスキル……って、梅干しを選ぶ二択は、まずくないか!?」


 だから、あんなにトラップの餌食になっていたのか。どおりで、ミアだけトラップに引っかかっていた訳だ。


「魔眼の力さえあれば、不運は取り消せる。それを今証明してみせる」


 ミアは、スキルのデメリットを打ち消すつもりなんだろう。そんなこと、できるのか?


 サトルが、考えている間に、ミアは皿に乗っていた梅干しの一つを手に取る。


「この梅干しが、すっぱくないって魔眼が伝えている」


「本当に大丈夫なのか?」


 サトルは、ミアを心配する。


 ミアは、サトルの方を見て首を縦に振った。


「いただきます」


 ミアは、梅干しを口の中に入れる。


 梅干しは、ただでさえ酸っぱいのに、さらに酸っぱいなんて、どんな酸っぱさになるんだ……。


 サトルは、ミアのことを心配しながら見る。


「魔眼の力に、敵わない物はない。それが、自分のスキルのデバフだとしても」


 ミアは、サトルの方を見て、グッドサインを手で出した。


 凄い、本当にスキルのデバフを打ち消したのか。


「さすがだ。ミ」


 サトルは、ミアの名前を呼ぼうとしたが、止まった。


 ミアの目が涙目になっている。そして、体も震え始めた。


「すー、すー、すっぱぁぁぁぁぁいぃぃぃ!?」


 ミアの叫び声が、部屋の中に響き渡った。


「水、水!」


 ミアは、急いで梅の間から、次の部屋に行く。


「お、おい。待てよ!」


 サトルは、ミアの後を追う。


 ミアの開けた障子には、『リンゴの間』と書かれていた。

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