第十三話「不幸なミア」
ミアの顔には、生クリームが塗りたくられたケーキみたいな物が、顔面につけられていた。
「顔面ケーキ?」
サトルは、何年か前に動画投稿やテレビ番組で流行った、顔面にケーキをぶつけるドッキリを思い出した。
ミアは、石像みたいに動かない。
「ミア、大丈夫か?」
サトルは、顔面を白く染めたミアに話しかける。
「大丈夫な訳ないでしょ」
ミアは、小さな声で言った。
サトルは、ミアの顔についた白い物体を取り払っていく。
「ミア。顔に付いているのって、生クリームか?」
「ぶつけられた時、口に少し入ったけど、甘かった」
サトルは、ミアの言葉を聞いて、手についたクリームを舐めてみた。
「甘い」
どうやら、ミアの顔についていたのは生クリームで間違いなさそうだ。
サトルは、ミアの顔面についたクリームを、あらかた取り終える。
「もう、許さないんだから!」
ミアは、怒った様子で、先に進んで行く。
中二病のセリフを言っていない、本当に怒っているみたいだ。
サトルは、ミアの後についていく。
その後の、ミアは散々たる結果だった。
とりもちに足を取られて、動きが取れなくなる。激臭のする風を浴びさせられる。虫の大群が押し寄せるなど、俺も巻き込まれて大変だった。激臭のする風は、二度とくらいたくないと思うほど、臭かった。
満身創痍の俺とミアは、分かれ道にぶつかった。
「わ、我が魔眼よ、道を示せ!」
ミアは、声を震わせながら、中二病発言をしている。声を聞くだけで、メンタルがボロボロだと言うのが、伝わった。
「邪竜は、右と見ている。我が眼に間違いはない!」
ミアは、そう言うと右に進み始めた。
「ミア、先頭を代わろうか?」
「だ、大丈夫だ。我は、邪竜から魔眼を与えられた。こ、こんなトラップ如きに、負けないのだ」
半分、涙声だぞ。ミアが、そう言うなら、ミアの言う通りに従おう。いざとなれば、代わってあげればいい。
涙声になりかけているミアが、進んで行くと、通路の途中で止まった。
「ミア、どうかしたか?」
サトルは、ミアが止まったのが気になり、話しかける。
「ここの壁だけ、穴が開いている」
ミアは、自分の近くにある壁を指さした。
「穴?」
サトルは、ミアが言っていた穴の場所を見る。
確かに穴が開いている。それも、指が入りそうな穴だ。
「ぐっ、魔眼が警告をしている。この穴の直線上には、入ってはいけないと」
ミアは、眼帯を抑えながら、壁の穴と自分が重ならないようにして進んだ。
何も起きないな。ただの欠陥か?
「ふっ、我が魔眼に従えば、罠など怖くない!」
ミアは、自信ありげに言った後、頭上から大量の水を被った。
「はは」
サトルは、笑いそうになるのを耐える。
:笑笑
:草
コメント欄も笑いに包まれていた。
最初の方は、ミアのことを心配するリスナーのコメントが多かった。しかし、ミアがトラップに引っかかっていく度、次第にリスナーのコメントは、笑の文字と、草で埋め尽くされるようになっていた。
ミアは、大量の水を被った後、静止している。
「大丈夫か?」
サトルは、心を落ち着かせてから、ミアに話しかけた。
「ねぇ、サトル?」
ミアは、泣きそうな顔で、後ろに立っていたサトルの方を振り向く。
「前を歩いてくれる? 私、このダンジョン嫌い」
今のトラップで、完全に心を折られたミアは、サトルを先頭に歩くよう、お願いした。
サトルとミアは、第三階層に辿り着いた。
このダンジョンについて気づいたことがある。トラップは、仕掛けられているが、どれもドッキリで見るようなトラップばかりで、危険なトラップがない。もしかして、観光目的で作られた建物だから、こういう仕掛けが多いのか?
「サーカスは、一見すると危険な技とか多いからな。火の輪とか、空中ブランコとか」
「サトル。何を言っていの? くしゅ!」
「このダンジョンに出て来るトラップ、危険性がないやつが多いなって思ってさ。ミア、寒いのか?」
サトルが振り向くと、ミアは両腕を組んで寒さで震えていた。
「魔眼を持つ私が、水を被ったぐらいで凍える訳……くしゅ!」
さっきの水トラップで、大量の水を被ったのがまずかったのか。
「ちょっと、待てよ」
サトルは、カバンの中を漁り、魔法陣が描かれた紙を取り出す。
「魔法陣が描かれている紙……魔法紙……くしゅ!」
「この紙に描かれている魔法は、異空間に物を収納する魔法だ」
サトルが、持っている魔法紙は、光を放つ。
光が消えると、黒のダウンジャケットが、サトルの手の上に現れた。
「寒いなら、これを着ていな」
「あ、ありがとう」
ミアは、お礼を言うと、ダウンジャケットを着た。
サトルは、ミアが着たのを確認すると、先に進み始める。
「ねぇ、サトル」
「どうした?」
「さっき、コメントしてくれたリスナーが教えてくれたけど、昨日、動画投稿者の一人が投稿者狩りにやられたみたいだよ」
「朝のニュースで見たな。確か、その人はクラッシャーにやられたとか証言していた」
「それは、投稿者狩りの異名らしいわね」
クラッシャーの異名を持つ、投稿者狩りか。会いたくないな。
「配信を見ているリスナー、俺達に何かあったら通報頼んだ」
サトルは、何かあった時のために、リスナーに助けを頼んだ。
:任せろ、骨は拾う
:最近、樹木葬流行っているみたいだから、それにしてあげようか?
:葬式の予約はしておくぞ
「もうそれ、俺が死んでいるんよ。できれば、そうなる前に助けてほしい」
サトルは、コメントを見て苦笑いしながら言う。
リスナーは、「任せて」など肯定的なコメントをしてくれたから、大丈夫だろう。
『そのクラッシャー、私も気になるのよね』
モモの声が、頭の中で響き渡る。この会話、いつやっても慣れない。
「モモ様の気になるのですか?」
サトルが返事をしようとした時、ミアが先に返事を返す。
「ミアも、この声聞こえるのか?」
「モモ様から、もらった」
ミアは、嬉しそうに、モモの魂の欠片だと思われる、クシを見せる。
そうか、ミアもモモがいる神殿に行ったのだったな。
「モモ。話がそれてすまない。なんで、女神のモモがクラッシャーを気にするんだ?」
『これは、前に他の女神から聞いたんだけどね、投稿者狩りに女神が加担しているらしいの』
「女神が、投稿者狩りに加担?」
サトルは、一度では信じきれず、もう一度モモに真実なのかを聞いた。
『本当よ。被害者の証言を聞いていると、女神の力じゃないと、説明できないことがあるのよ。動画投稿者が現れる場所に待ち伏せ、動画投稿者や配信者のスキルを対策してから来ていたとかの証言があるの。こういうことができるのは、女神の力で情報を入手している可能性があるわ』
「女神って、そこまでできるのか?」
『危険をかえりみず、頑張ればできると思うわ。だけど、動画投稿者のユニークスキルに関する情報なんて、厳重に守られている個人情報なのよ。しかもそれを悪用するなんて、女神の地位を捨てるのにも等しい、重い罪だわ。よほど、動画投稿者を恨んでいるのね』
「仮に、女神が加担しているなら注意しないとだな」
いつもとは違う、モモの真剣な話に驚いてしまった。モモも、動画投稿者狩りのことは重く見ているのだな。
「ミア、先に進むぞ」
「う、うん」
今は、ダンジョン攻略に集中しよう。
サトルとミアは、第三階層を進んで行く。
「な、なんで」
ミアの悲痛な声が聞こえる。
「なんで、私ばっかりトラップに引っかかるのよ!?」
サトルの目の前には、腰まで泥に埋まっているミアがいた。
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