第十二話「いざ、忍者屋敷へ!」
「我が魔眼の力で、いざ忍者屋敷のダンジョンを攻略!」
忍者屋敷を前にしたミアが、大きな声を出して、ダンジョン攻略を宣言する。
「ふあー。朝から元気だな」
サトルは、大きなあくびをしながら言う。
「お前のことは、信用していないからね」
サトルの声を聞いたミアは、冷たい目をしてサトルのことを見る。
「あれは、スキルのせいだ。ミアも、俺の配信を見ればわかるはずだ」
「確認したから言っているの。スキル選択をする前に、サトルは私の胸を見ていた。スキルのせいだとしても、下心があったのは確実よ」
男性は、女性の胸に目が行ってしまうんだ。
サトルは、そう言おうとしたが、踏みとどまった。ここで、関係が悪化すると、ダンジョン攻略どころじゃない。
「忍者屋敷を管理している管理人からは、ダンジョン探索の許可を貰っている。さっそく中に入ってみよう」
「あ、置いてくな!」
忍者屋敷の中に入ろうと歩き始めるサトルを、ミアは追いかけた。
「待たれよ」
ダンジョンの入り口に辿り着いた時、背後から男性の声で話しかけられた。
「あなたは……」
サトルが振り向くと、そこには全身黒づくめで、背中に刀を背負っている人が立っている。
「に、忍者!」
ミアは、嬉しそうな声を出した。
「いかにも。拙者は、この忍者屋敷で修行していた忍。半蔵と申す」
「初めまして、半蔵さん。俺は、今回このダンジョンを探索する、サトルです」
「うむ。師範から話を聞いている」
ここの忍者屋敷を管理している人って、半蔵さんの師範だったのか。
「何か、緊急事態でもありましたか?」
話しかけて来たのは、何か理由があったはずだ。
「いや、緊急事態ではない。これは、拙者からの頼みなのだ」
「頼み?」
サトルは、首を傾げる。
「ダンジョン探索をした際、良ければ、最下層である五階まで行き、ダンジョンコアを破壊して貰いたい!」
「ダンジョンコアの破壊」
半蔵は、俺達にダンジョン攻略をして欲しいと、お願いしに来たのか。
「うむ。ダンジョンが出来る一年前までは、ここに観光客を招き入れて、忍術を見せていた。しかし、ダンジョンが出来てから、危険性を考えて、忍者屋敷を封鎖しているのだ。今は、仲間の忍びを頼って、外で忍術を見せているが、この忍者屋敷で、もう一度観光客を招き入れたいのだ。頼みを聞いてくれるか?」
半蔵の願いは叶えてあげたい。しかし、ダンジョンの下層に降りるってことは、命の危険が増していくってことだ。オペラ座の怪人が現れた、前のダンジョンでは、ミアが来てくれなかったら正直な所、危なかった。
「半蔵さんの、願いを叶えてあげたいと」
「その願い、魔眼を持つ、ミアが叶えよう!」
サトルが断ろうとした所で、ミアが割って入って来た。
「ミア。待て、その願いを勝手に」
「ミア殿! かたじけない!」
半蔵は、喜んだ声を出して、頭を下げた。
そんなに喜ばれると、断りづらい。
サトルは、半蔵の願いを断ることが出来なかった。
「サトル殿。ミア殿。ご武運を」
サトルとミアは、半蔵に見届けられながら、ダンジョンの階段を降りて行く。
「ミア」
「なんで、依頼を受けたかって?」
ミアは、サトルが言おうとしたことを、見透かしているかのように言った。
「困っている人がいたら、助けるのが当たり前でしょう? 私達、ダンジョン配信者とは言え、世間から見たら冒険者なのよ」
ダンジョン配信者という存在は、ここ数年で爆発的に増えた動画配信者のことだ。ダンジョン配信者を認知していない人も多い。世間から見ればダンジョン配信者と冒険者の区別はつかないのだろう。
「そうだが、死ぬのは怖くないのか?」
「怖いに決まっている。だからこそ、冒険者が勇気をもって、ダンジョン攻略をしなくてはならないと、私は思っているわ」
ミアは、ダンジョン配信者だ。しかし、心の根っこにあるのは、ダンジョンができて困っている人を助ける、冒険者としての信念がある。
サトルは、ミアの信念の強さに気づいた。
「死ぬのが、怖かったら帰ってもいいよ?」
「いや、帰らない。俺だって、冒険者の一人だ。依頼を受けたなら最後まで、やり抜く」
ミアは、サトルの返事を聞いて、「そ」って一言だけ言った。
平常時のミアは、中二病発言をし、明るく振舞っているが、怒っていると、言葉に冷たさが目立っている。
わかりやすい性格をしている。
サトルは、心の中で呟き、ミアの後に続いて、階段を降りて行った。
ダンジョンの一階層に、たどり着き部屋の中に入った。
「忍者屋敷のダンジョンって聞いて、予想していたが」
サトルは、周囲を見渡す。
木造建てのフロアだ。天井、壁、床、全部が木で作られている。一見なにもないように見えるが、忍者屋敷に出来たダンジョン。注意して進んで行った方が良い。
「配信、付けるわ」
ミアが、杖を取り出して、配信の準備を始めた。
「俺も、準備をする」
サトルも、配信の準備を始めた。
「ふふふ、みんな待たせた! 魔眼を持つミア参上! 今回訪れたダンジョンは、忍者屋敷に出来たダンジョン!」
ミアは、配信をつけると、挨拶を始める。
俺も、配信を付けよう。
「はい。みなさん、おはこんばんにちは、サトルです。今回探索するダンジョンは、忍者屋敷にできたダンジョン。一体どんな仕掛けがあるのでしょうか!?」
サトルは、挨拶をすませると、コメント欄を確認する。
:きたよー
:お、数日ぶりだ
: 炎に包まれて、配信おわったけど生きている!
リスナーが集まって来たな。
:初見です!
「いらっしゃい。ゆっくり、して行ってね」
新しいリスナーも来た。そういえば、俺のチャンネル登録者数は、一万人超えたんだよな。同接って、どれくらい増えるのだろう。
サトルは、同接の数字を確認してみる。
「六百人!?」
サトルは、驚きの数字に思わず声を出してしまった。
見間違いか?
サトルは、もう一度同接の人数を確認してみる。
「六百人だ」
見間違いじゃない。
前回の配信は、同接六人だった。そして、配信を開いたら百倍の百人になっている。
サトルは、もう一度コメント欄を確認してみる。
:初めまして!
:ショート面白かった!
:初見多いな!?
初めて配信を見に来た人のコメントであふれていた。前から見ていたリスナーは、新規のリスナーの多さに驚いている。
「これが、一万人登録者が見る光景か」
サトルは、多くの人に見られているプレッシャーを感じて、緊張する。
「サトル。大丈夫?」
ミアの声が聞こえて、サトルは我にかえる。
「あ、あぁ。大丈夫だ」
サトルが返事すると、ミアは先に進んで行く。
「魔眼が、こっちだと導いている」
サトルは、ミアが行く方向について行った。
サトルとミアは、何事もなく一階層を突破した。
忍者屋敷のダンジョン。てっきり、何か仕掛けが張り巡らされているかと思ったが、何もないな。忍者の仮装をした魔物とは出会ったぐらいだ。強さも、そんなに強くなく、他のダンジョンで会う魔物と同じ位の強さだ。
「我が魔眼の前では、敵はなし!」
ミアは、上機嫌で二階層のフロアを自信ありげに歩く。
「ミア、油断するなよ」
サトルは、無防備に進んで行くミアに、慎重な行動をするよう呼び掛ける。
「大丈夫。何か危険があれば、魔眼が伝えてくれる」
それは、設定の話だろ。
俺は、ツッコミを言おうと思ったが、ミアは、配信している。配信者の世界観を壊すようなことは、言ってはいけない。
サトルは、出て来そうになった言葉を飲み込んで、進んで行くミアの後ろをついて行った。
「忍者屋敷のダンジョンって聞いて、身構えていたが、恐れることはなかった!」
ミアは、そう言った瞬間、進むのを辞めて、止まった。
「ミア、どうした?」
サトルは、気になった様子で、ミアに話しかける。
「サトル」
ミアは、小さな声で、サトルの名前を呼ぶ。
「どうした?」
「なにか、仕掛けを稼働させちゃった」
サトルは、ミアの言葉を聞いて、「え」と呟いて、ミアの足元を見る。
ミアの右足が、何かしらの仕掛けを稼働させたのか、床に埋まっていた。
「あぶ!?」
ミアが、突然出した声に驚き、サトルは顔を上げた。
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