第十一話「投稿者潰し、クラッシャー」

「おい、見ろよ。一日で、チャンネル登録者数を、一万人増やしたダンジョン配信者がいるぞ」


 廃墟化した旅館で、男三人がたむろしている。


「は、まじかよ。こいつ調子乗ってない?」


「俺等のチャンネル登録者数は、六千人。一日で抜くとか、腹立つわー」


 相変わらず、騒がしい子分二人だ。


 子分二人が、話している中、リーダーの男は小型のナイフを研いでいた。男が向いている方向には、壁にスプレーで描いた的がある。


「なぁ、リーダー? どう思うよ?」


 前歯が欠けている子分の一人が、ナイフを研いでいるリーダーの男に話しかける。


「そうだな」


 わざわざ、俺に聞かなくてもわかるのにな。


 ナイフを研いでいたリーダーは持っているナイフを壁に向かって投げる。


 ナイフは、壁に描かれた的の真ん中に突き刺さった。


「潰すかしかないだろ」


「へへへ」


「そうこなくちゃ」


 男三人は、立ち上がる。


「そいつを潰す前に、廃墟探索に来る、動画投稿者を痛めつけるぞ」


「へい」


 男三人は、部屋を出て、動画投稿者を来るまで、待ち伏せをした。




「はい! どーもー! レンでーす!」


 廃墟化した旅館の内に、若い男の声が響き渡る。


「来たな」


 物陰から覗くと、若い男と、カメラを持った男が立っていた。


「へい。情報通りです」


 さすが、女神の情報だけあって、的中率は凄まじい。今まで、渡された情報は、外れがないな。


「あいつ、レンと言っていた。情報はあるか?」


「もちろんですぜ、リーダー」


 子分は、懐に入れていた紙を取り出す。


「オカルト系動画投稿者レン。主に、廃墟探索と心霊スポットに行ってみた系の動画を投稿していますぜ」


 リーダーは、子分の話を聞いて、「なるほど」と返事をした。


「チャンネル登録者数は、二万人。女性人気の高いルックスに、ユニークスキル『念力』の組み合わせで、人気の波に乗っているらしいですぜ」


「かー、女性人気が高いだ? こんなやつは、たいてい裏では女遊びが激しいのが相場だぜ。人間に会うのが怖くなるまで、痛めつけてやらねぇとな」


「そうだよなぁ。俺も思った」


 子分二人が、意気投合し談笑する。


「お前ら、そんなことをしていると足元救われるぞ」


 リーダーは、子分二人にナイフを向ける。


「す、すまねぇ」


「めんぼくねぇ」


 子分二人は、冷や汗を流す。


「わかればいい。スキル念力の強さは、どれくらいだ? 女神は何か言っていたか?」


「えーと……、あ、書いてありましたぜ。『片手で持てる物を動かす力』と書いているですぜ、リーダー」


「そんなものか」


 リーダーは、物陰から出て、レンと撮影者の前に姿を現した。


「レンさん!」


「ちょ、今撮影中だろ。喋るなって」


 レンは、俺に背を向けていて気付いてないみたいだ。


「後ろ見てください! 後ろ!」


「は? 何言って……」


 レンは、リーダーの姿を見て、硬直した。


「よぉ」


 リーダーは、笑顔でレン達に挨拶する。


「レンさん。知り合いですか?」


「いや。スドウは、知っているか?」


「いいえ、俺も知りません」


 レンは、カメラを持っているスドウの返事を聞くと、敵意を持った目で、リーダーを見る。


「誰だ、あんた?」


「動画投稿者潰しって言えばわかるか?」


 レンは、驚いた表情をする。


「クラッシャーか!?」


「へぇ、そんな異名で呼ばれているのか」


「投稿者潰しって言いづらいからな。最近では、お前たちみたいな悪者をクラッシャーと呼んでいる」


 それだけ、投稿者潰しが有名になったってことだな。もっと、名をあげたくなってきたぜ。


 レンは、警棒を取り出した。


「それは、護身用か?」


「あぁ、こういう廃墟を探索するからな。何が起きても大丈夫なように、装備は整えてある。相手が俺で悪かったな」


 格闘技経験者か? 戦闘が起きても、大丈夫だと言う自信で満ち溢れている。


「その余裕、後悔することになるぜ」


 リーダーは、ナイフを取り出した。


「レンさん!」


「大丈夫だ。安心しろ」


 カメラを持っているスドウは、ナイフを見て、焦った表情をする。しかし、レンはナイフを見ても焦らなかった。


 レンは、警棒を構えて、戦闘態勢をとる。


「言い残すことは?」


「お前を、刑務所に送る」


「じゃあ……な!」


 リーダーは、レンに向かってナイフを投げた。


「遅い!」


 レンは、警棒で、飛んできたナイフを叩き落とす。


「まだあるぜ!」


 リーダーは、ナイフを、もう一本投げた。


「無駄だ!」


 レンは、再び警棒でナイフを叩き落とす。


「今度は、俺の番だ! 念力!」


 レンの近くにあった複数の小石が浮かび上がり、リーダーに向かって、飛んでいく。


「おっと!」


 顔に小石が当たらないように、両手でガードする。


 情報通り、そんな強力なスキルじゃない。なんなく、ガードできる。


「勝負ありだ!」


 リーダーが両腕のガードを解くと、目の前まで、レンが接近してきていた。


「あぁ、勝負ありだ。俺の勝ちだな」


「なに……」


 リーダーが不敵な笑みを見せると、レンの動きが止まった。


「レ、レンさん!?」


 レンの後ろで、状況を見守っていたスドウが、顔面を白くさせて驚く。


「どういう……ことだ……?」


 レンは、警棒を手から落として、地面に倒れた。


 倒れたレンの背中には、二本のナイフが刺さっている。


「ユニークスキル『百発百中』だ。俺の視界に映っている人や物は、確実に狙った場所に当たるようになっている。大丈夫だ安心しろ、命には別条はない。殺人犯で、捕まりたくないからな」


 リーダーは、レンに向けて、手を差し出す。


「な……なにを?」


「携帯だよ。携帯。お前のチャンネルをアカウントごと、消させろ」


「!?」


 レンは、苦痛の表情を浮かべながら、リーダーの顔を見る。


「それは無理だ」


「そんな、甘いこと言える立場か? おい、お前達」


「へい」


 レンの仲間であるスドウの後ろに、二人の子分が現れる。


「うわ!?」


 子分の一人が、スドウを蹴り飛ばす。


「どうした、スドウ!?」


「俺の子分は、俺みたいに力の下限が出来なくてね」


「おい! 俺の仲間に手を出すな!」


 レンは、声を荒げる。


「人間の頭でサッカーだ! どーん!」


「ぐわぁぁぁ!?」


 子分が、スドウを痛めつけ始める。


「このままだと、仲間が社会復帰できない体になっちまうぞ?」


「リーダー! 指の関節外して、指がどれくらい長くなるか、試して良い!?」


「止めろ!」


 子分の会話に、レンが割って入ってくる。


 あぁ、やっちまったな。俺の子分は、話をさえぎられるが嫌いだ。怒るぞ。


「うるせぇ!」


「ぐほぉ!?」


 子分は、怒りながら、近くで転がっていた、スドウの腹を何度も蹴り始めた。


「おい! やめてくれ!」


 レンの怒鳴り声が、旅館内に響き渡る。


「レン落ち着け。お前に三秒やろう。三秒以内に携帯を渡せば、これ以上仲間に危害を加えない」


「ふっー……!」


 レンは、息を荒げて、リーダーのことを睨みつける。


「三」


 リーダーは、カウントダウンを始めた。


 さぁ、どこまで黙りこむことが出来るかな?


 レンは、唇を噛んで、リーダーのことを睨みつける。


「二」


 リーダーは、レンのことを見下すような目で見る。


「一」


「俺の右ポケットの中だ!」


 リーダーは、レンの右ポケットから、携帯を取り出した。


「ありがとよ」


 リーダーは、笑みを浮かべた。

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