サブストーリー「近所に出来たダンジョン③」

「いてて」


 サトルは、起き上がって周りを見渡した。


 周囲には、猩々の攻撃によって瓦礫が散乱している。


「奥に光っている玉が見える。ダンジョンコアだ!」


 ここのダンジョンは二階層しかなかったのか。住宅の地下倉庫が、ダンジョンになったって聞いていたから、規模は小さいと思っていた。


「猩々は?」


 サトルは、周囲を見渡して猩々の姿を探す。


「見当たらないな。死んではいないと思うが、気絶して瓦礫に埋もれているかもしれない。今の内に、ダンジョンコアを破壊しよう」


 サトルは、ダンジョンコアに近づいて行く。


 基本ダンジョンコアを破壊すれば、ダンジョン内にいる魔物は死滅する。なぜ、死滅するかは原因不明だが、ダンジョン内にいる魔物と、ダンジョンコアは繋がっているらしい。物に命を宿していたオペラ座の怪人は、例外中の例外だ。


「猩々の目が覚める前に!」


 ダンジョンコアに向かう、サトルの足が早まっていく。


「え? 足が動かない?」


 ダンジョンコアに向かっていた、サトルの足が動かなくなった。


 何かに捕まれている。


「まさか」


 サトルは、足元を見てみる。


 地面から生えた赤い手が、サトルの右足首を掴んでいた。


「くっ!」


 猩々が、真下にいる!


 サトルは、とっさに剣を赤い手に向かって、突き刺そうとする。


「私の酒を返せー!」


 サトルの剣よりも早く、猩々はサトルの足首を持ったまま、瓦礫の中から這い上がってきた。


 サトルは、大きくバランスを崩す。


「魔法は、高いからあまり使いたくないけど!」


 サトルは、懐から魔方陣が描かれている紙を取り出す。


「インパクト!」


 サトルの叫び声と同時に、魔法陣が描かれた紙が光出して、猩々を衝撃波で吹き飛ばした。


「危なかった」


 地面を叩き割った威力で、地面に叩きつけられた時のことを考えると、背筋が凍った。


 あまり、マイナス的な考えはしないでいこう。


『魔法カードを持っているなんて、お金持ちね』


 モモが、感心した様子で脳内に語りかけてくる。


「そんな高級品は、持ってねぇよ。魔法紙に描いた、使い捨ての魔法だ。俺の収入じゃ、使い捨ての魔法が限界だ」


 一日に使用回数が決まっているが、半永久的に使える魔法カードは、数百万もする高級品。しかし、使用回数は一回のみ、使用すると効力が無くなる魔法紙は、安い物は数千円で手に入れることができる。


 インパクトが使える魔法紙は、一枚四千円だぞ。殺傷力は低いが、威力はある。ちゃんと効いてくれよ。


 サトルは、猩々が吹き飛んで行った方向を見る。


「今の内に、ダンジョンコアを破壊するか」


 サトルは、ダンジョンコアがある反対の方角を向き、歩き始める。


「それにしても、このダンジョン。壁の装飾が、木の棚に酒瓶って面白いな」


 最初来た時は、特に気にしていなかったが、改めて見ると初めて見るダンジョンの形だった。


『油断しないの。ダンジョンコアをさっさと破壊しなさい』


 モモが呆れたような口調で言う。


『せっかく、女神選択権にスキルを上書きしたのに、見せ場がなかったわね。そんな、選択肢になるような状況もなかった。一回しか発動してないわ』


「俺的には、ありがたいよ。モモに、選択権があると命がいくつあっても足りない気がする」


『そんな、私は鬼じゃないよ?』


 モモは、可愛い声で言う。


「これ以上は何もツッコまない」


 サトルは、剣を抜いて上に振りかぶる。


 これで、ダンジョン攻略完了だ。


 サトルは、剣をダンジョンコアに向かって振り下ろした。


「な!?」


 サトルの振り下ろした剣は、ダンジョンコアに当たる寸前で、弾かれた。


 ウーン! ウーン!


 フロア内に警告音が響き渡る。


「なんだ!?」


『このダンジョンコア、守護魔法がかけられているわ! 』


「守護魔法!?」


『ダンジョンボスを倒さない限り、ダンジョンコアが破壊できない魔法よ!』


 サトルの背後で、爆発音が聞こえた。


「もしかして、ダンジョンボスって……」


 サトルが振り向くと、視線の先に真っ赤な猩々が立っていた。


「私の酒……」


「なぁ、モモ。あの猩々、再び怒ったと見て間違いないか?」


『確実に怒っているわね。一分間は逃げ続けなさい』


 猩々が、サトルに向かって走り出す。


「くっ!」


 サトルは、猩々の攻撃を避ける。


「モモ! 猩々の弱点はなんだ!」


 魔物には必ず弱点が存在する。オークは打撃や斬撃には強いが、魔法には弱い。オペラ座の怪人は、仮面が弱点だった。


『今調べているわ。もう少し、攻撃を避けて時間を稼いでおいて、ちょうだい』


 サトルは、猩々の攻撃を避けることに専念した。


 一発でも当たれば、すぐに終わりだ。


「私の酒!」


 サトルは、猩々の振り下ろされた拳を避けた。サトルに向けて振り降ろされた拳は地面に当たる。大きな揺れと共に、地面が大きく裂けた。


 なんて、威力だ!


「モモ。まだか!?」


 サトルは、焦燥感に駆られて、モモに聞く。


『今わかったわ。過去に猩々と戦った、ダンジョン配信者の映像に倒し方が載っていたわよ』


「倒し方はなんだ?」


『サトル。周囲を見渡してみて!』


「くっ! これで、合計八千円の出費だ!」


 サトルは、懐から魔方陣が描かれた魔法紙を取り出した。


「インパクト!」


 猩々が、フロアの壁まで吹き飛んだ。大きな音と共に、砂煙が上がっている。


 サトルは、モモに言われた通りに周囲を見渡した。


『あった! サトル! 壁にある白い酒瓶を見て!』


 サトルは、酒瓶が飾られている壁を見る。モモが言う通り、壁に飾られている酒瓶の一つに、白い酒瓶が目立つように置かれていた。


「あの酒瓶が、猩々を倒すアイテムなのか!?」


『倒すって言うより、猩々に渡すと、怒りを静めて大人しくさせる効果があるわ。私が見た動画は、大人しくさせて倒していたけど、ダンジョンコアを破壊した方が一石二鳥よ』


 モモの言う通りにしよう。他に方法は思いつかない。猩々に白い酒瓶を渡して、大人しくさせる。そして、ダンジョンコアを破壊だ。


 サトルは、脳内で作戦を組み立てた。


「よし、まずは酒だ!」


 サトルは、白い酒瓶に向かって走り出す。


「私の酒ー!」


 砂煙の中から、猩々が飛び出してきた。


「くっ!」


 予想以上に、猩々のスピードが速い!


 サトルは、猩々の攻撃を紙一重で避ける。


「酒!」


 猩々が、サトルに向けて右ストレートを繰り出した。


 剣で受け止めるしかない。


 サトルは、猩々の右ストレートを剣で受け止めた。


「酒、酒ー!」


 猩々の力任せな右ストレートで、サトルは壁まで吹き飛んだ。


「いてて」


『大丈夫?』


「なんとかな。剣で受け止めていなかったらやばかった」


『相手、休ませるつもりは、ないみたいわね』


 サトルが、猩々がいた方向を見てみると、猩々は歩いてこちらに向かって来ていた。


「そうみたいだな」


 サトルは、剣を杖代わりにして立ち上がった。


『この位置……、サトル右を見てみて』


「右?」


 サトルは、右を見てみると白い酒瓶が、手に届く場所にあった。


「酒ー!」


 猩々が、サトルに向かって走り始める。


「お前が、欲しがっている酒は、ここにあるぞ!」


 サトルは、白い酒瓶を手に取り、猩々に向けて投げる。


「酒!?」


 猩々は、目を丸く見開き、白い酒瓶を手に取った。


「どうなる?」


 サトルの心拍数が高まる。


 猩々は、白い酒瓶の蓋を開けて、中身を飲む。


「私の酒。酒。酒ー」


 猩々の赤かった肌が、元に戻り人間の姿に戻った。涙を流しながら、白い酒瓶に頬づりしている。


「本当に、大人しくなった」


『サトル。早くダンジョンコアを破壊しなさい』


「あぁ」


 サトルは、ダンジョンコアの前に立ち、剣を振り下ろした。


 ダンジョンコアは、粉々になって消え去り、ダンジョンは消滅する。


 サトルは、依頼主のオカダから、報酬を受け取り、依頼を完了させた。





 サトルは、モモがいるスカイツリーにいた。


「モモ、約束を果たしてもらいに来たぞ」


 サトルの目の前にいるモモは、女子高生の制服を着て、コスプレをしていた。


「女神に、こんな恥ずかしい服装させるなんて、人間は欲深い生き物だわ。そう思わない?」


「そうでありますね」


 サトルの後ろには、モモの仕えている巫女が答える。


 そんなことを言うモモの表情は、頬が赤かった。


「モモのわがままを聞いてあげた報酬だ」


「わかっているわよ」


 モモは、スカートのすそを握りしめる。


「サトル」


「どうした?」


「本当にスカートを上げないとだめ?」


 モモは、恥ずかしそうに言う。


 モモの恥ずかしそうにスカートを握りしめている姿を見て、「可愛い」と、サトルは思ってしまう。


「スカートをあげてくれ」


 サトルは、猩々と戦った時よりも、心拍数が上がり全身に巡る血液が速く巡るのを感じた。


 スカートを恥ずかしそうにあげる、モモの姿を見る事ができ、モモのパンツを拝むこともできる。幸せの時間まで、もう少しだ。


「スカートをあげるね」


 モモは、ゆっくりとスカートをあげる。


 ついに、パンツが見える!


「え?」


 スカートの中にあるパンツを見るという、サトルのそんな願望は打ち砕かれた。


 モモは、黒いスパッツを履いていたのだ。


「てへ」


 モモは、いたずらな笑みを見せて、舌を少し出した。


「な、なんで……」


 サトルは、膝から崩れ落ちて落ち込んだ。


「女神である私のパンツを、簡単に見れると思った?」


「そ、それは、あんまりだ」


 サトルは、悔しそうに言う。


 もう少しで見れると思っていたのに、なんでこうなる。


「ちなみに、モモの今日履いていたパンツは何色だ?」


「ふふ、黒よ」


 良いパンツを履いているじゃないか。スパッツさえなければ、見れたのに……。


「スパッツさえ無ければ?」


 サトルは、ふと思考が巡った。


 スパッツさえ、脱がせればパンツが拝めるじゃないか。


「モモ」


「ん?」


 モモは、勝ってやったと笑みで、首を傾げた。


「ス」


「ス?」


「スパッツを、ぬがせろーい!」


「な?」


 サトルは、モモに向かって走り始める。


 モモは、サトルの狙いに気づき、身構えた。


「や、やめて……」


「モモが、男心をもてあそんだのが悪い!」


 サトルは、モモに飛びつこうとする。


「なーんてね」


 モモは、ブレザーのポケットから魔法カードを取り出す。


「エアストライク」


 強烈な突風が、サトルに直撃した。


「なぁ!?」


 サトルは、後ろに吹き飛び、地面を転がる。


「諦めなさい。百万人突破したら、胸を揉ませる約束は守るから、それまではチャンネル登録者数を伸ばすことに集中することね」


「あ、あきらめて」


 サトルは、ふらふらしながら立ち上がろうとする。


 モモのやつ、なんて強力な魔法を俺にぶつけたんだ。


「やば」


 サトルは、ふらついてしまい、後ろによろめいてしまった。


 後ろに倒れてしまう。壁に手をつかないと。後ろに壁あるか? いや、あると信じるしかない。


 サトルは、慌てて手を後ろにやって、体重を支えようとした。


「ん? やわらかい?」


 後ろに手をやって、当たった感触が柔らかかった。


 こんなに、壁って柔らかかったか? それに、なんか丸みを帯びている。


 サトルは、不思議に思い、もう一度手に力を入れてみる。


 やはり、柔らかい。それに、この風船のような感触、以前にもどこかで……。


「あ」


 モモが、声を出したので、見てみると青ざめた表情をしている。


「なんだ?」


 サトルは、不思議に思い後ろを見てみる。


 そこには、モモに仕えている巫女さんの姿があった。


「この感触って」


 サトルは、自分の手が巫女さんの胸を触っていたことに気づいた。


「サトル様?」


 巫女は、笑顔でサトルに話しかける。


「はい」


 サトルは、心が冷えていくのを感じた。


「一回、死んでください」


 巫女は、サトルに強烈なパンチを繰り出した。


「ごめんなさぁぁぁい!」


 サトルは叫び声をあげ、巫女の強烈なパンチをくらい気を失った。




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