サブストーリー「近所に出来たダンジョン②」
「モモ様、何で会話ができているのですか?」
『前回のダンジョンの時、私の魂を分裂させたクシを、バックの中に入っているでしょ?』
そういえば、前回ダンジョンに入った時、ポケットに髪をとかすクシが入っていた。帰ってからバックの中に入れておいたんだった。だから、モモと会話できているのか。
「ダンジョン配信は、していませんよ? 何が起きているかとかわかりますか?」
『そこは、問題ないわ。あなたの視覚を共有して、今どんなダンジョンにいるか知っているわ』
女神の力、万能過ぎないか?
「もしかして、私生活も覗いて……」
『さすがに、そんなことはしてないわ。いや、できないが正解ね。視覚を共有する強力な能力と引き換えに、ダンジョンに入っている時でしか発動できないって縛りを付けているわ』
なるほど、能力が強いほど、縛りがあるのか。
『それよりも、目の前にある白い花瓶みたいなの、スルーしようとしていなかった?』
「え? はい、何もなかったら、最後に見ようと思っていました」
『それじゃ、ダメよ。つまらないわ。こういうのは、最初に見るべきよ』
モモが言うと、「モモの投票が終わりました」と脳内に、アナウンスが流れる。
「モモ様、もしかしてこれって」
『そうよ、今回見ているのは女神である私だけ。特別仕様として、リスナー選択権のスキルを、女神選択権に上書きしといたわ』
「なんでも、ありかよ!?」
サトルは、思わずツッコミを入れてしまう。
『大丈夫よ。ダンジョンから出たら、元通りになるわ』
モモは、神殿内が汚部屋化するほどのだらしなさと、酒癖の悪さがある。だけど、特別な力を持つ女神なのだ。
サトルは、モモが神であることを再認識した。
『さぁ、私を楽しませなさい。明日、大勢のリスナーが見に来た時の予行練習よ』
モモは、楽しげな口調で話した。
「投票結果は、白い花瓶の中にあるやつを毒味するです」
サトルの体が、勝手に動き出し、白い花瓶を手に取る。
「いただきます」
サトルは、花瓶の中にある液体を飲んだ。花瓶に入っていて、飲みづらい。中に入っていた液体が、サトルの服についてしまった。
「ん? 特に異常がない」
体にも異変がないぞ。ていうか、酒でもなかった。
『あら? なにもなかったわね』
「モモ様。そこは、良かったねとか言ってください」
『ふふ、今度言うことにするわ』
サトルは、周囲を見渡すと、通路が右と左の二つに分かれているのが確認できた。
おそらく、どっちかが出口に繋がる階段だな。
「迷った時は、右」
サトルは、右の通路を進みだす。
『私だけが、選択権あるのって面白いわね』
モモは、楽しそうに話す。
「モモ様のわがまま聞いているので、何かしらのお礼とかはありますか?」
本当は、普通にダンジョン攻略をするつもりだった。何か、お礼があっても良いはずだ。
『そうねぇ』
モモは、しばらく黙る。
『私のパンツの色を教えようかな』
サトルの心拍数は跳ね上がった。
女神のパンツの色。これは、思ってもいなかった報酬が提示された。だけど、ただパンツの色を教えてもらうだけだと、割に合わない。これ以上の報酬を要求しよう。
「モモ様」
報酬の交渉をするなら今しかない。
サトルは、真面目なトーンでモモに話しかける。
『な、なによ?』
モモは、少し驚いたような口調で返事をする。
「モモ様のパンツを直接、見させていただけないでしょうか?」
『私のパンツを直接?』
モモの声色から、動揺しているのがわかった。
「はい。それと、オプションで女子高生の制服を着た、コスプレでお願いいたします」
『わ、私。女子高生の制服なんか持っていないわ』
モモは、コスプレしようとするのを拒否しようとした。
「いえ、モモ様なら出来ます。俺、モモ様がワイシャツ姿から、白のロープに魔法で着替えた所を見ていますから。女子高生の制服にも着替えられますよね?」
『うっ』
モモの言葉が詰まる。
どうやら、図星のようだ。
「モモ様。あなたは女神です。そんな女神なら、俺のお願いを叶えることは、簡単ですよね?」
モモは、女神としての務めを大切にしている。そこを突いて、交渉すれば、俺の要求を承諾してくれるはずだ。
『わ、わかったわ』
モモが、小声で呟いた。
「では、俺の言った要求を復唱できますか?」
『じょ……女子高生のコスプレをして……パンツを見せればいいんでしょ?』
モモは、恥ずかしそうにして言った。
「はい。それで、お願いします」
女神のパンツが見える!
サトルは、心の中で大はしゃぎした。
『女神に、そんな願いをしてくる人間。あなたが初めてだわ』
「それが、俺です」
サトルは自信ありげな言葉で、そう言った。
『その分、ダンジョン配信を楽しませてくれないなら、報酬は取り消しだからね?』
「任せてください!」
サトルとモモが、念で会話をしていると、通路から抜けて、部屋に辿り着いた。
「階段がない」
部屋には階段がなく、行き止まりだった。
反対の部屋だったか?
サトルは、部屋をくまなく捜索する。
「何もないな」
『反対の部屋じゃないの? 戻ってみたら?』
これ以上探しても何もないみたいだ。モモの言う通り戻って、もう片方の通路に行って見るか。
サトルは、出て来た通路を引き返して、白い花瓶があった部屋に向かった。
「うぅぅ」
白い花瓶があった部屋に戻ると、白装束を着た、長髪の人物が花瓶の前で泣いている。
「誰だ?」
オカダさんの家には、こんな人はいなかった気がする。てころは、ダンジョンで生まれた魔物か?
サトルは、剣を抜いて警戒した。
「私の酒がー……」
白装束の人は、女性の声で嘆いている。
酒? あの花瓶に入っていたやつか? でも、あの中にあったのは、ただの水だった気がする。通り過ぎて、後ろから襲われるのも嫌だ。距離をとって、話かけてみるか。
「どうしましたか?」
サトルは、白装束を着た女性に話しかける。
「私の酒がないのです」
白装束の女性は、顔を上げてサトルの方を見る。
顔色が少し赤味がかっている泣いていたのか。
「何の、お酒が入っていたのですか?」
「
御神酒……初めて聞く名前の酒だ。
「それは、どんな酒ですか?」
「私のために、供えられていた酒です」
供えられた? この女性偉い人なのか?
『サトル。何だか嫌な予感するわ』
モモが、サトルの脳内に語りかけてくる。
見た感じ、そんな嫌な予感はしない。
「大丈夫だ、モモ」
「え?」
白装束の女性が、不思議そうな顔で、サトルのことを見る。
「あ、気にしないでください。立てますか?」
サトルは、白装束の女性に手を伸ばす。
このまま地面に座らせるのもあれだ。立たせて、あげよう。
「あ、ありがとうございます」
白装束の女性は、サトルの手を掴んで立ち上がる。
さて、これからどうしようか。このまま、女性を置いて行くのも気が引ける。
サトルは、これからの行動を、どうするか考える。
「あの」
「な……なんです……か……」
サトルは、女性の顔を見て硬直してしまった。
女性の目は丸く見開き、黒目を真っ直ぐサトルの目に向けて、話しかけていた。
人間ができる表情じゃない……。
サトルは、恐怖を感じて一歩後ろに下がる。
「あなたの服についている液体は、なんですか?」
液体?
サトルは、顔を下に向けて服を見る。サトルが着ている服には、乾燥してきていたが、濡れていた。
確か、あの白い花瓶の中に入っている液体を飲んで、ついてしまった汚れだ。
「花瓶に入っていた御神酒を飲んだのですか?」
「俺が飲んだのは水で、御神酒ではないです」
「飲んだのですね」
女性は、顔を下に向けて、聞き取れないぐらい小さな声で、何か呟き始めた。
何を言っているんだ?
サトルは、女性に近づき何を話しているのか聞き取ろうとした。
『サトル! 近づいたちゃダメ!』
モモが、大きな声を出して、サトルを止める。サトルは、耳鳴りに近い症状が脳内で起きた。
「いっ……何するんだよ、モモ!」
さすがに、これには頭に血が上った。
サトルは、怒り気味に言った。
『何しているのは、こっちのセリフよ! ここは、ダンジョン! 女性のことをよく見なさい!』
サトルは、モモの言う通り女性のことを注視する。
顔の表情がわからない以外には、おかしなとこが見当たらない。黒の長髪に、白装束、足には草履を履いている。ふと、手を見てみると、近くで見なくてもわかるぐらい爪が長かった。
爪、長すぎないか?
「よくも」
何か、やばい。
サトルは、本能的に危機感を感じて、一歩後ろに下がった。
「私の酒おおおおおお!」
女性が顔を上げると、顔が真っ赤に染めあがり口から鋭い牙が出ていた。
「なんだ!?」
『赤い肌に、鋭い牙。そして、酒を好む。この特徴に共通する魔物は、一種類しかいない
「猩々!? 中国から来た魔物か!?」
「私の酒を返せー!」
猩々は、サトルに向かって走り、右腕を大きく振り上げた。サトルは、剣を抜き、その攻撃を受け止めようとする。
『避けて!』
モモが、サトルに避けるように助言をする。
受け止めたら、まずいのか!
サトルは、猩々の攻撃を避けた。
猩々の攻撃は、サトルに当たらず地面に当たった。
「な!?」
猩々の攻撃が地面に当たると大きく地面が割れた。
『猩々は怒ると、最初の一分間、大きく攻撃力が上がるの。まさかダンジョンの床を割るほどだとは、思わなかったわ』
「冷静に分析している場合かー!」
サトルは、猩々と共に下の階層に落ちていった。
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