第十話「突然の来訪者」
「チャンネル登録者数、一万三千人!?」
見間違いだろうか、俺の登録者数は五百人程度だったはず。それが、一回のダンジョン配信で、一万人以上増えたのか?
「私が与えたスキル万能でしょ?」
サトルは、驚きで言葉が出ず、頷くしかなかった。
「俺のチャンネル登録者数が、一万三千人」
サトルは、まるで夢を見ているかのように、携帯の画面を眺めている。
も、もしかして、夢かもしれない。
携帯で開いているアプリを消して、もう一度立ち上げ、チャンネル登録者数を確認してみる。
「変わらない」
サトルは、何度もアプリを落として、開き、チャンネル登録者数を繰り返し確認した。
夢じゃない!
「夢じゃないわよ」
モモは、自慢げな顔で言う。
「このペースで行けるなら、百万人登録者数突破も夢じゃない!」
サトルは、目を輝かせ、モモのことを見た。
「そうよ。この調子で行けば、百万人登録者数は、手に届くってのが、わかるでしょ?」
モモは、折りたたまれた白い紙を取り出した。
「それは?」
サトルは、不思議そうな顔で、モモの持っている紙を見る。
「これは、次にサトルが行ってもらうダンジョンよ」
モモは、サトルに紙を渡す。
紙を開いてみると、紙には忍者屋敷と書かれていた。
「忍者屋敷?」
「そうよ。次に行ってもらうダンジョンは、忍者屋敷に出来たダンジョンよ。トリッキーな動きで相手を翻弄させる忍者。その忍者が住む屋敷に出来たダンジョンなら、撮れ高たくさん撮れるに違いないわ!」
もしかして、モモは、ゲーム感覚で、俺のチャンネル登録者数を増やすことに、楽しみを覚えているのではないか?
サトルは、モモが楽しそうな顔を見て、ふと思った。
「疲れているだろうから、休暇も含めて、忍者屋敷に行くのは、三日後よ」
モモは、そう言うと、転移魔法で、サトルを自宅に送り届けた。
俺は、家の中に入ったら、すぐに寝室へ行き、泥のように布団にへばりついて寝た。
次の日も、まだ疲れが取れていない気がして、夜の十時には布団の中に入った。
ピンポーン
「ん?」
サトルは、おもむろに携帯の画面を開いて、時間を確認する。
夜の十二時……。まだ、俺が寝てから二時間しか経ってない。
「アパートの部屋を間違えたんだろう」
サトルは、再び眠りにつこうとする。
ピンポーン。ピンポーン。
「しつこいな」
なにか、緊急事態なのか?
サトルは、寝ぼけている頭で、考えてみる。
「あ、もしかして」
近年、生配信者界隈と動画投稿者界隈で、話題になっていることがあったのを思い出した。動画の配信者と投稿者を狙った犯罪が頻発していると聞いている。
もしかして、同業者が犯罪者に狙われているのか?
サトルは、慌てて玄関まで駆け付ける。
ピンピンピンピン! ピンポーン!
チャンネルの連打が激しい。余程、切羽が詰まっていると見た。やはり、犯罪に巻き込まれた同業者か!
「今、開ける!」
サトルは、急いで玄関の鍵を開けて、扉を開く。
「犯罪者は、どこだ!?」
サトルは、扉を開けた先にいた女性に話しかける。
女性は、黒のスカート、中世ヨーロッパで見るような黒のマントと黒の服を着ていた。
この服装をした人、どこかで……。
「は、は」
女性は、震えるような声で、サトルを見る。
片方の眼には、眼帯をしていた。
「あ、確か、君はミ」
「犯罪者は、お前だー!」
「でやぁ!?」
サトルは、ミアによって放たれた強力な衝撃破で、自分の部屋の中まで吹き飛んだ。
「その叫び声。サトルは、もしかして、子供の頃ウルトラハンにでも憧れていた?」
うんざりしたような、口調でミアは、サトルが吹き飛ばされて入った部屋の中に入る。
「俺が憧れていたのは、ウルトラハンではない。仮面レイダーだ」
ウルトラハンは、巨大化するから将来なれない気がした。仮面レイダーなら、まだ可能性はあると、幼少期思っていたな。
「どっちも変わんない!」
ミアは、怒った様子で言う。
「ミアは、どうして俺のアパートが、わかった?」
俺のアパートを教えた記憶がない。
「我が魔眼に見破れるものはない!」
配信外でも中二病なんだ。
サトルは、つい言葉で言いそうになったが、これ以上怒らせるといけないと感じ、なんとか心の中にとどめた。
「その、魔眼に語りかけたのは誰だ?」
「スカイツ……日本で一番高い神殿に住む、女神モモ様から教えてもらった」
モモ、個人情報を簡単に教えるな。後で、モモに言っておこう。
「なぜ、住所を教えてもらってまで、ここに来た?」
「私に、モモ様がユニークスキルを与えてくれて、配信映えするダンジョンを紹介してもらおうとしたら、「一昨日、他の人に教えちゃった」って言った」
ミアも配信歴一年経った、ばかりだったのか。てことは、俺と同期ってことになる。
「なるほど、モモに『パーティーを組んで行ったら?』とでも言われて、来たら俺だったということか」
「まぁ、そういうところ。モモ様が、『ユニークスキルの影響で、奇行に走る時があるけど、安全な人』って教えて来てみれば」
ミアは、話すのを一回止めて、深呼吸をする。
「犯罪者だった」
「待て待て、俺が犯罪者なのは気のせいだ。それに、わざわざ言葉を止めてまで、強調しないでくれ」
「なにが、気のせい? 私の胸を揉んだくせに」
ミアは、人を見下すような目で、サトルを見る。
「それは、俺の意志じゃない。俺のスキル、リスナー選択権で、ミアの胸を揉むを選んだリスナーのせいだ。それに、胸を揉まれても減るものじゃないだろ?」
「最低。私が胸を揉まれたのは、初め……って何を言わせるの!?」
ミアは、持っていたステッキで、サトルの頭を殴った。
リスナー選択権で、チャンネル登録者数が増えたのは良いけど、失ったものが大きすぎる気がする。
「それで、ダンジョンに行くのは、いつ頃?」
ミアは、俺のアパートにあるリビングで、座ってお茶を飲んでいた。
「もう日付が越えているから、明日だな」
ミアは、頷いて「明日ね」と言った。
「そういえば、なんで、こんな夜中に訪れて来たんだ?」
昼間とかなら、わかるが、今は夜中の一時近くだ。
「……た」
「え?」
何も聞き取ることが出来なかった。なんて、言ったんだ?
「迷子になっていたの」
ミアは、顔を赤くさせて言う。
「迷子? モモから、教えてくれなかったのか?」
「教えてもらったけど、地図が読めなかった」
確かに、今時地図を読むことないもんな。俺も、最後に地図を読んだのは、小学生の時にあった校外学習の時だった気がする。
「携帯のアプリで、住所登録しなかったのか? そうすれば、ナビ付きで誘導してくれるはずだが」
「あ……」
ミアは、豆鉄砲をくらったかのような顔で、サトルのことを見た。
「もしかして、気づかなかったのか?」
「うん」
まぁ、地図を渡されると地図を読んで行こうとするよな。
サトルが、そんなことを想っていると、携帯の着信音が鳴る。
「こんな時間に?」
サトルは、不思議に思いつつ携帯の画面を見る。
携帯の画面には、『女神モモだよ』の文字が表示されていた。
「いつの間に、連絡先を追加していたんだ? てか、こんな感じに登録した身に覚えがない」
「ん?」
ミアは、サトルの独り言を不思議に思ったのか、首を傾げた。
「ちょっと、電話出る」
サトルは、ミアにそう言うと、電話に出た。
「もしもし」
『あ、やっと出た。もしもしー、モモだよ』
「モモ……様。なんで、俺の連絡先がわかっているんですか? 登録した覚えがないですよ」
『今、呼び捨てで呼ぼうとしたでしょー。いけないんだー。私、女神だよー?』
なんだか、モモの口調が上機嫌だ。母親が酔っ払った時と似ている気がする。
「モモ様。もしかして、酔っ払っています?」
『あ、わかっちゃったー? 貢物で、お酒が来てね、久々に飲んだんだー。飲み慣れてないと、酔いが回るねー』
今度、巫女さんに頼んで、モモに対して禁酒令を出してもらおう。酔っぱらうと、面倒くさくなるタイプの人だ。
「それで、モモ様。なんで、俺の連絡先を知っているんですか?」
『一昨日、神殿に気絶した状態で来た時、しばらく起きそうになかったから、登録しといたんだよー』
思いっきり、プライバシー侵害しているじゃないか。
「パスワードをしていたはずですが」
『最近の携帯は、顔認証で解除できるからねー』
そうだった。俺、パスワード打つのが、面倒くさくて、顔認証にしていたんだった。
「女神じゃなければ、訴えているとこでした」
『ごめんってー。許してー』
「後、俺のアパートに、ミアが来ていますが」
サトルは、ちらっと座っているミアのことを見る。
『あ、辿り着いたー? 知っている人だから、いいかなって思って、サトルの住所教えちゃったー』
「もう過ぎたことなので、怒りませんが。次からは気をつけてください」
『はーい』
モモだいぶ酔っ払っているな。どれだけ飲んだのだ?
「モモ様。どうして、俺に電話したのですか?」
『あ、そうそう、それについて電話しようとしたんだったー。明日、ダンジョン行くでしょ? ミアちゃんも一緒に転移させていい?』
「大丈夫です」
『良かったー。それだけ、聞こうと思っていたんだー。わかったから良し、じゃあねー』
「たったそれだけのために電話を……え、モモ様?」
電話が切れていた。
「女神モモ様は、なんだって?」
ミアは、サトルに首を傾げて聞く。
「明日、転移魔法を使ってダンジョンまで、俺とミアを飛ばすらしい」
ミアは、それを聞くと立ち上がり、玄関に向かう。
「それだけ、わかったら十分。私は帰ることにする」
「帰るって、電車終電過ぎているぞ? 野宿する気なのか?」
「漫画喫茶で泊まるわ」
「なるほど、その手があったか」
ミアは、玄関の扉を開けて、サトルの部屋から出て行った。
ミア、終始怒っていたな。明日には、怒りは治まっているはずは……ないか。
サトルは、誰もいない玄関を、しばらく見ていた。
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