第九話「スケベな配信者には、スケベなリスナーが集まる」

「ぐわあああ!?」


 オペラ座の怪人は、両手で顔を覆い隠して、サトルと距離をとる。


 オペラ座の怪人の顔から、黒い煙が出ている。仮面を剥がした影響か?


「よ、よくも、やってくれたな!」


「大人しく持っている本を、処分させてくれたら楽になるぞ」


 サトルは、オペラ座の怪人に近づく。


「くそ。この状態じゃ戦うことができない」


「なら、大人しく本を、こちらに渡してくれないか」


 サトルは、さらにオペラ座の怪人に近づこうとする。


「ん? サトル! これ以上、近づいたらだめ!」


 ミアの叫び声が、後ろから聞こえた。


 サトルは、オペラ座の怪人の足が動いているのに気づいた。


「ま、魔法陣!?」


 オペラ座の怪人は、自分の足を使い、魔法陣を描いていた。


「気づくのが遅い!」


 オペラ座の怪人が、足で描いていた魔法陣が光り始める。


 顔にばかり集中していて、足元を見ていなかった。しくじった!


 オペラ座の怪人の周囲が、煙で囲まれる。


「煙か!」


「ふははは! 自分の住処を放棄するのは心苦しいが、命あってこそだ。また、どこかで会おう! ふははは!」


 響くような声が聞こえる。


 煙が晴れた頃には、オペラ座の怪人の姿は、どこにも見当たらなかった。


「いなくなった」


 オペラ座の怪人が立っていた場所を見て、サトルは呟いた。


「オペラ座の怪人は、私とサトルの強さを思い知った。我が、魔眼の力が、ダンジョンボスを倒す所を見てみたかった」


 ミアは、勝ち誇ったような声で言う。


「ここに来た目的は、オペラ座の怪人を倒すためじゃない。撃退したのだから、勝ちでいいか」


 そうだ。リスナー達の反応は、どうなっている? 戦いに集中していて、コメント欄を見る余裕がなかった。



 :サトル。かっこよかったぞ!

 :オペラ座の怪人。悪役なのに、かっこよかったな。魅力もあった

 :神回確定



 リスナー達は、満足しているようなコメントを投稿している。


 満足してくれているなら、良かった。


「サトルが、ダンジョンコアを壊す?」


 ミアが、迷った顔で、サトルに聞く。


「ダンジョンコアは、ミアが壊してくれ。最初に、壊して良いって言ったからな」


「ありがとう。魔眼の力で、粉砕してくる」


 ミアは、ダンジョンコアに近づいて行く。


 ダンジョンコアの強度は、そんなに固くない。俺の力でも壊せるぐらいだ。ミアが使う魔法の威力なら、簡単に砕けるだろう。


「我が、魔眼の力を受けてみろ! ファイアーボール!」


 ミアが、魔法を唱え、火の玉がダンジョンコアに向かって飛んでいく。


 パリン!


 ガラスが砕けたような音と共に、ダンジョンコアは砕けた。


「転送が始まった」


 サトルとミアが、白い球体に包まれる。


 ダンジョンコアを破壊すると、ダンジョンは、ダンジョンの中にある異物を吐きだして自壊する。そういえば、この現象も、女神の誰かが加護を付与しているからと、噂されているな。ダンジョンに入る冒険者全員に、この魔法を付与している女神は誰なのだろう。きっと、強力な女神に違いない。


 サトルは、ふと思い出した噂話を考えていると、ミアが見えなくなるくらい視界は白くなった。




「外だ」


 白い景色が晴れると、目の前には紫色をしたサーカスのテントが建っていた。


「最後まで見てくれてありがとう。魔の力を感じたいと思った方は、ぜひチャンネル登録も、よろしく。次回の配信は、魔眼の力が抑えきれなくなったら。また会おう!」


 隣を見ると、ミアが生配信を締めていた。


 ミアは、配信を閉じると「疲れたー」と言って、肩を回したりして、ストレッチをし始める。胸を張った時、ミアの胸の大きさが強調された。


 ダンジョンに入っている間は気づかなかったが、ミアって、おっぱい大きいな。いや、待て、俺は配信中だぞ。一回、配信を閉じよう。ダンジョンをクリアできた安心からか、雑念が出て来た。


『スキル:リスナー選択権が発動されました』


「え?」


 ここに来て、スキル発動する? もう、ダンジョン攻略が終わったぞ。


『リスナーの皆さん。これから上げる二択のどちらかを選択して下さい。』



 一:配信を終えたミアに、お疲れさまと声をかける。

 二:配信を終えたミアに、マッサージと称して、おっぱいを揉む。



「なんだ、その美少女ゲームみたいな選択肢は!?」


 サトルは、思わず、声を荒げてしまう。


「ん? サトル?」


 その声を聞いていた、ミアは不思議そうな顔をして、サトルの方を見る。


「あ、いやなんでもない」


 いや、焦る必要はない。ここまで、一致団結して切り抜けた俺と、配信を見てくれたリスナーだ。健全な選択肢を選んでくれるはず。



 :俺、女性が不意な行動された時に、小さい悲鳴あげてくれるの好きなんだよな

 :拙者、ミア様の胸は、デーカップと見た

 :なんだよ、デーって、そこはディーだろ

 :頑張ってくれたから、サトルのサトルを元気にしますか



 コメント欄の会話内容が、危ない方向に進んでいた。サトルは全身から、冷や汗が流れ始める。


「一を選べよ」


「一?」


 ミアは、サトルの言葉に首を傾げて、近づいて来る。


『リスナーの投票が終わりました。投票結果は』


 脳内に、投票が終わったアナウンスが流れる。


「ねぇ、サトル」


 ミアは、更にサトルの近くに近寄る。


 サトルは、引き下がろうとするが、さらにミアは近づいて来る。


「ねぇ、なんで」


『二:配信を終えたミアに、マッサージと称して、おっぱいを揉む』


「え」


 やわらかかった。おそらく、おっぱいの大きさは日本人女性の平均よりは大きかっただろう、ミアのおっぱいは、風船以上に、やわらかかった。


 サトルは、両手でミアの両方の胸を包み込む。


「胸の疲れはとれたか?」


 サトルは、かっこつけた声で言う。


「ふ、ふ」


 ミアは、顔を赤面させて杖を両手で持つ。


「ファイアーストーム!」


 サトルは、ミアと一緒に炎の竜巻に巻き込まれた。


「あっちいいいいいい!?」


 サトルは、そのまま熱さで意識を失った。




「生き———」


 女性の声が、聞こえる。


「意識———」


 頭が、ガンガンする。何が起こったんだっけ?


 眼を開けて見ると、視界がぼやけている。人影が二つ。


「だ……れ?」


 だんだん焦点が合って来た。


 白い天井が見える。顔を覗かせているのは……スカイツ……神殿を案内してくれた巫女さん?


「目が覚めましたね」


「ここは?」


 サトルは、体を起こして周りを見渡す。


 汚れ一つもない真っ白な部屋。部屋の中央には、白い椅子に座り、白いロープを着た、桃色の髪をした女神モモの姿があった。


「私がいるってことは、どこかわかるでしょ?」


「えぇと、神殿の中ですか?」


「正解」


 モモは、椅子から立ち上がり、サトルに近づく。


「ダンジョン攻略、おつかれさま」


「散々でしたよ」


 サトルは、自分の頭を掻きながら言った。


「そんなことないわ。リスナー選択権のおかげで、普段のダンジョン配信だけだと、撮れることがなかった、ショート動画がいっぱい撮れたわ」


 モモは、そう言うと携帯を取り出す。


 女神でも、携帯を持つんだ。


 サトルが、そんな風に思っていると、モモは携帯の画面をサトルに見せる。


「え」


 サトルは、その画面を見て、驚いた。


 スキル:リスナー選択権は、選択肢が決まってから、一分間以内の行動が、オートでショート動画に投稿される。


「私が付与したスキルで、投稿された動画は、どれも十万回以上、再生されているわよ」


 自分が編集して投稿した動画はどれも、良くて一万回超えるか、超えないかのショート動画の内容しか作れなかった。それが、あっという間に、どれも十万回以上は再生されている。


「一番再生されているのは、三百六十万回再生で、『巨乳魔女の胸を揉んでみた』ってタイトルね」


「ダンジョン配信関係ない!」


 サトルは、頭を抱える。


 ダンジョン配信者なのに、一番再生回数の多いショート動画がダンジョン攻略ではない唯一のショート動画なんて。


「そんな、落ち込むことはないわよ。チャンネル登録者数も見て」


 サトルは、モモに言われた通り、自分のチャンネル登録者数を確認してみる。

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