第八話「実は、俺のスキルって最強かもしれない」

「なんて、心暖まる風だ! ジャグリングをしたくなったぞ!」


 オペラ座の怪人は、どこからともなく、手の平サイズの玉を取り出し、お手玉をし始めた。


「モモ。オペラ座の怪人ってあんなことしたか?」


『しないわね……。もしかして、死んだ人間の魂が混ざっているから、人格も変わっているかもしれないわ』


 ピエロの看板、オペラ座の怪人と言い、変わった場所に出来るダンジョンは、個性的な魔物が生まれやすいな。


「オペラ座の怪人」


 サトルは、オペラ座の怪人に剣を向ける。


「どうした? 人間?」


「俺は、ダンジョンコアを破壊しに来ただけだ。妨害しないなら、危害は加えない」


 フロア内は、静まりかえる。オペラ座の怪人は、ジャグリングをしていた手を止めた。


「せっかく、仲良くなれると思ったのに、君達は目標を変えるつもりはないのだね?」


「残念だが、ダンジョンができて困っている人がいる以上、ダンジョンコアは破壊する」


 オペラ座の怪人は、持っていたジャグリングの玉をマジックのように消して、先端が鋭く尖っている武器を取り出した。


 あの武器は、レイピア。オペラ座の怪人は、戦う気のようだ。


「ミア気を付けろ、相手やる気になったみたいだぞ」


「うん。わかっている」


 オペラ座の怪人は。レイピアを上に向ける。すると、オペラ座の怪人を照らしていた明かりは消えて、部屋全体が明るくなった。


「オペラ座の怪人の戦いは、美しく芸術的に」


 フロアの壁際に、楽器を持った、緑色の肌をした小人が大勢現れた。


 あれは、ゴブリン。楽器を持っている? 何が起きろうとしているんだ?


「今回の戦いで流すBGMは、『J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第三番』」


 大勢のゴブリンは、オペラ座の怪人が言った曲名を聞いて、演奏を始めた。


「これは、クラシック音楽!」



 :この曲知っている!

 :クラシック音楽良いね。コンサートに行ってみたい

 :心が浄化される



 コメント欄を見て見ると、俺の配信を見ているリスナーは、ゴブリン達の演奏を聞いていて、癒されていた。


 リスナー達は癒されているが、俺からして見れば、ダンジョンで魔物達が突然演奏を始めるクラシック音楽は、恐怖でしかない。


「ミア。俺の後ろに下がれ、相手が使う武器は近接武器。先頭は、俺が立つ」


「うん。我が魔眼に宿る魔竜ジェノスも、危険信号を発している」


 ミアは、サトルの後ろに下がる。


『サトルが、戦闘に集中できるように、会話を切るわよ。何か、助けになりそうな情報を見つけたら、連絡するわ』


「わかった」


 モモからの会話が途絶える。


「準備ができたようですね。では、オペラ座の怪人の攻撃をお見せいたしましょう」


 オペラ座の怪人は、レイピアを構え、戦闘態勢をとった瞬間、サトルの前まで高速で移動した。


 は、速い!


 サトルは、言葉を出す余裕もなく、反射的に剣で迎撃をする。


「お、なかなか良い目をしていますね」


 オペラ座の怪人のレイピアによる攻撃が再び繰り出される。


 サトルは、かろうじて、二度目のレイピアの攻撃を防いだ。


「それは、どうも!」


 サトルは、オペラ座の怪人に向けて、剣を振り下ろす。


「おっと」


 オペラ座の怪人は、軽い身のこなしで、後ろに下がった。


「サトル! 頭を下げて」


 サトルの後ろにいたミアが、サトルに声をかける。サトルは、とっさに頭を下げた。


「ファイアーボール!」


 オペラ座の怪人に向かって、火の玉が飛んでいく。


「はっ!」


 オペラ座の怪人は、ミアの魔法を避けようとはせず。レイピアの突きで、火の玉を突き刺して、サトルの方向に投げ返した。


「なっ!?」


 サトルは、とっさに転がって、火の玉を避けた。


「サトル! 大丈夫!?」


 ミアは、サトルの元に駆け寄る。


「大丈夫だ」


 サトルは、ふらつきながらも立ち上がる。


 なんとか、避けられたが、転がった衝撃で体を強く打ったな。所々痛い。


「サトル。あの魔物、恐ろしく強いわよ。私の魔眼でも太刀打ちできるか自信がないわ」


 サトルは、「そうか」と答える。


 あのオペラ座の怪人。原作通りの存在なら、弱点が存在しているはず。だけど、読んだのが昔すぎて、話の内容が全く思い出せない。


「どうするか」


 サトルは、思考をフル回転して、打開策を考える。


 目の前にいる、オペラ座の怪人の特徴は、仮面とレイピア。弱点には、ならない。


『スキル:リスナー選択権が発動されました』


 なに? このタイミングで?


 特に二択の選択肢とかないぞ。


『リスナーの皆さん。これから上げる二択のどちらかを選択して下さい。一:オペラ座の怪人の仮面を剥がす。二:オペラ座の怪人が持っているレイピアを強奪する』


 なんだ、この二択は?


 今までの二択と毛色が違う。



 :どっちにする?

 :何が正解だ?



 コメント欄のリスナーも困惑しているようだ。


『サトル、考えているとこ失礼するわ。投票中に喋れなくなる縛りは、無くしたわよ。オペラ座の怪人のまねごとをする、魔物を倒してちょうだい』


 モモが、脳内に語りかけてきた。


「わかった」


 喋れるようになっている。確か、原作通りに、具現化したオペラ座の怪人なら、醜い容姿を隠すために、仮面を付けていたはず。もしかして、仮面が弱点か?


「リスナーのみんな。俺が、言う選択肢に投票してくれ」


 サトルは、リスナーに自分が指定した票に入れるように頼んだ。



「どうした人間? 怖気ついたか?」


 オペラ座の怪人は、攻めてこないで、サトルとミアを挑発する。


「いや、作戦を立てていただけだ」


 サトルは、オペラ座の怪人に言う。


「作戦を立てていた? ただ、独り言を、ぼそぼそと言っているようにしか見えなかったが」


 オペラ座の怪人は、笑うかのような口調で言う。


『リスナーの投票が終わりました。投票結果は、「一:オペラ座の怪人の仮面を剥がす」』


 サトルの脳内に、アナウンスが響き渡った。


「ミア。援護を頼んだ!」


「え? うん! わかった!」


 サトルは、オペラ座の怪人に向けて走り出す。


「正面から来るか!」


 オペラ座の怪人は、正面から向かって来るサトルに向かって、レイピアの突きを放つ。


 サトルは、その突きを反射的に避けた。


 危ない。さっきより、レイピアの突きが速くなっている。これ以上速くなったら、避けられない!


「俺の突きを避けるか!」


 オペラ座の怪人は、間合いを取りつつ、突きを連続で繰り出した。


「くっ!」


 これは、避けきることはできない! なら、急所だけは避けて、突きを受ける覚悟で進むしかない。


 サトルは、捨て身の覚悟で、突きを連続で放つ、オペラ座の怪人に向かって突き進む。


 あれ? なんだ? 体が勝手に、反応して突きを避けている!?


 オペラ座の怪人が、放った連続の突きは、サトルに当たることはなかった。サトルは、人ばれした動きで、突きを避け、避けきれない攻撃は、持っている剣で防ぐ。


「なぜ当たらん!?」


 オペラ座の怪人は、驚いたような声を出す。サトルも内心、自分が反応できないであろう、オペラ座の怪人による突きを避けられていることに驚いた。


『私が与えたユニークスキルのおかげよ』


 サトルの脳内に、モモが語りかける。


「モモ、どういうことだ?」


『私が与えたユニークスキル:リスナー選択権は、「必ず、選択で決定された命令が実行される」スキルなのよ。サトルは、何回も決定された選択肢からあらがおうとしていて、失敗しているでしょ』


「確かに、必ず体が強制的に動いて、実行しようとしていた……まさか」


『そうよ。その命令に反抗する敵がいたら、その敵はスキル発動の邪魔者として、認識する。この効果で、オペラ座の怪人による攻撃は、自動で避けるように、なっているわ』


 確かに、選ばれた選択肢は、自分の意志とは関係なく、必ず実行されていた。使い方によっては、最強のスキルじゃないのか?


『ついでに言うと、選択肢が選ばれて実行されている間は、スタミナも無限。実際に息切れもせずに、私と会話できているでしょ』


「本当だ」


 言われてみれば、こんなに激しく動いているのに全然疲れていない。自分の体なのに不思議だ。


「なにを一人で、ぶつぶつと……! オペラ座の怪人をなめるな!」


 オペラ座の怪人は、さっきよりも速い速度の突きを連続で繰り出した。サトルは、その突きを、演奏されているクラシック音楽のリズムの如く、華麗に避けて、オペラ座の怪人との距離を詰めていく。


「オペラ座の怪人。勝負ありだ」


「くそぉ!」


 オペラ座の怪人が放った突きを、サトルは避ける。そして、オペラ座の怪人の仮面に手をかけた。


 バリバリ。


 仮面をとるような音ではない、異質な音と共に、オペラ座の怪人の仮面は剥がされた。

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