第六話「救世主の魔法少女だぞ。ドヤ」

「ごふー!」


「けるける!」


 オークとゴブリンは、サトルを追いかけて来る。


「この通路にも、いくつかギミックが置いてある!」


 サトルは、通り道にあった青いボタンを押す。


「ける!?」


 ゴブリンの悲鳴が聞こえた。振り向くと、ゴブリンの一体が白い粘着質の物体に貼り付けになっている。


「おっと、初めての当たりを引いた! とりもちの罠だ!」


 通路内に、ピエロの声が響き渡る。


「この調子で!」


 サトルは、次に見つけた紫色の紐を引っ張る。


「ぼふー!?」


「けるー!?」


 オークとゴブリンの悲鳴が聞こえた。


「まとめて倒したのか!?」


 サトルが、振り向いてみると、後ろの通路内は紫色の煙に包まれていた。


 毒の罠か。むごたらしいことをしてしまったが、生き残るためだ許してくれ。


「おい、ピエロ! 聞こえるか!? オークとゴブリンは倒したぞ! 約束通り、次の階層に通じる道を開けろ!」


 サトルは、心の中で謝罪をした後、どこかで聞いているだろう。ピエロに呼びかける。


「えー、なにを言っているの? よく、後ろを見てみな」


「後ろ?」


 サトルは、ピエロの言葉通りに後ろを向いた。


 紫色の煙が充満している。ん? 奥に生き物の影が……。


「あいつら、生きているのか!」


 じゃあ、一体何の煙だったんだ?


「ぼふー!」


 オークとゴブリンが紫色の煙から飛び出す。オークとゴブリンは、道化師が着るような紫色の衣装に身を包んで、ピエロの化粧を施していた。


「あの煙は、ピエロ化の罠! 紫色の煙に包まれるとたちまち、ピエロに仮装してしまうんだ!」


「そんな罠、いるかー!」


 サトルは、息を切らすほど、全力で通路を走った。


 背後から、ピエロの格好をしたゴブリンとオークが追いかけて来る。


「後ろにいる、魔物達をなんとかしなければ!」


 サトルの前方に、木製レバーが見えて来た。


「何か、わからないレバーはスルー!」


 さっきは、敵がピエロに仮装するという訳のわからない仕掛けだった。次の仕掛けは、あえてスルーする。


 サトルは、木製のレバーを触らないという決心をした。


『スキル:リスナー選択権が発動されました』


「なに!?」


 このタイミングで、そのスキルの発動するのか。でも、リスナーとは一致団結しているから、これから出される選択肢は何であろうと怖くない。


『前方にあるレバーをどうしますか? 一:レバーを引く。二:そのままにする。十秒以内に投票してください』


 選択権が提示され、リスナーの投票が始まった。


「リスナー! 二に投票してくれ!」


 サトルは、決死な思いで叫ぶ。



 :次こそは、大丈夫だ

 :ワンチャンあるかも



 サトルは、リスナーのコメント欄を見て、ぞっとした。何回にも渡る投票で、すっかりリスナーの脳内では、ギャンブル思考が出来上がっていてしまっていた。


『投票結果が、決まりました。九十パーセントのリスナーが、一のレバーを引くを選択しました』


「おいー! 俺のリスナー! 目を覚ませー!」


 サトルの体は勝手に動き、スルーしようとしていたレバーを引いた。その瞬間、何かが外れる音が聞こえた。


「何が、外れて……」


 サトルは、最後まで言い切る前に、何が外れたか理解した。


 前方から、巨大な丸太が真っ直ぐこちらに向かって飛んできている。


「うおおおお!」


 サトルは、雄叫びをあげて、横に転がり、飛んでくる丸太を回避した。


「ごふー!?」


 オークの悲鳴が、後ろから聞こえる。


 前を向いて走るんだ俺! このまま突き抜けるぞ!


 サトルは、全速力で前を向いて走る。すると、前方に部屋が見えた。


「やっと、この通路から出られる!」


 サトルは、部屋の中に飛び込む勢いで入った。




「おかえりー」


 陽気な声が部屋中に響き渡る。


「なっ!?」


 サトルは、辿り着いた部屋を見て、驚きの声をあげた。


 ピエロの看板があった場所だ。一周して戻ってきたのか? いや、それにしては、ただ真っ直ぐに進んでいたような気がする。


「不思議そうな顔をしているね。まるで、『なんで、元の場所に戻ってきたのか?』って思っていそう」


 ピエロの看板は、見透かしたかのような口調で言う。


「なにをしたんだ?」


「冒険者。このフロアは、どこかわかっている? ここは、ワンダーフロアだよ。非現実的なことが平気で、起こる部屋だ。空間を繋げて、一本の道にすることなんて、造作もないのさ」


 空間を繋げる? チェーンを繋げるみたいに、空間をループさせるようにしたのか。ワンダーフロア、何でもありなのかよ。


「確かに、同じ部屋に辿り着いたのは驚いた。だけど、残念だったな。オークは、倒している。三問目を出題してくれ」


 サトルは、自信満々に言うが、ピエロは黙り込んで喋らなかった。


「おい、ピエロ何している? 早く、次の問題をだせと言っている」


「君こそ、何を言っているの? まだ、勝負は終わっていないよ」


「何を言って、オークは倒したって」


「ぼふー!」


 サトルの言葉に重ねるように、オークの叫び声が通路から聞こえた。


「あいつ、まだ生きて!?」


 サトルは、慌てて振り返る。


 あの勢いがある丸太のトラップを受けても、起き上がれるのかよ。オーク、なんて、耐久力をしているんだ。


「第二回戦ってことかな? 残るギミックも後一つ。果たして、無事に勝つことはできるかな?」


 オークは、通路から出て来て、サトルがいる部屋内に踏み込んでくる。


「諦めなければ、勝機はゼロじゃない」


 サトルは、剣をオークに向ける。


 部屋の中に残るギミックは、残り一つ。最初に見かけた、赤いボタンだ。


「ぼふー!」


 オークが、サトルに向かって走り出した。


「こっちについてこい!」


 サトルは、オークを引きつけながら、赤いボタンに向かう。


 赤いボタンが、なんのボタンかわからないが、オークとワンダーフロアで戦うことになった時、ピエロは「ハンデとして、オークを倒せる仕掛けを用意したよ」と言っていた。てことは、残っているあの赤いボタンは、強力な仕掛けである可能性が高い。


 サトルは、仕掛けを確実に当てるため、オークを遠くなりすぎないように、距離感を保ちつつ、赤いボタンまで走り抜ける。


「ぼふぼふ」


 オークは、サトルを射程圏内だと認識したのか棍棒を大きく振りかぶる。


「そんな棍棒を、上に振りかぶっていいのか? 上半身が無防備だぞ」


 サトルは、赤いボタンを押す。


「ぼふぅ。ふひゅぅ」


 オークは、不気味な笑みを浮かべながら、首を傾げた。


 何も起こらない!?


「けけけ! もしかして、俺が最初に言っていた、「ハンデとして、オークを倒せる仕掛けを用意したよ」って、言葉を信じていたやつ? 残念、あれ嘘だよぉぉぉん」


「な」


 サトルは絶句してしまう。


 俺は、ずっとあのピエロ野郎に遊ばれていたのか。



 :は?

 :ちょっと、それはないわ

 :友達いないでしょ?



 サトルの配信を見ているリスナーも、怒りのコメントを投稿する。


「ダンジョンで生まれた魔物の言う事を信じちゃいけないってことだよ。けけけ。良い経験になったねって言っても、ここで死ぬことになるんだけど」


 オークが振り上げていた棍棒を両手に握り直した。


 バックの中にある、脱出用の魔法を取り出す余裕もない。お、終わった。俺の人生こんなところで終わるのか。せめて、ダンジョンに来た段階で、すぐに魔法が展開できるように、ポケットに入れるべきだった。


 サトルは、自分の死期を悟った。


「じゃあねー」


 ピエロが陽気な声で言う。


「フレアストロング!」


 突如、女性の声が聞こえる。


 サトルの後ろから、何かが崩れるような大きな音が聞こえた。その後すぐに、巨大な火の玉がサトルの頭上を通過する。


 な、なんだ!?


「ぼ!?」


 オークは、巨大な火の玉に当たり、火だるまになった。地面に転がり、火を消そうとあがいていたが、動かなくなる。


 サトルは、後ろを振り向くと、壁が大きく崩れていた。


「お、新しい部屋だ! 私の魔眼の前では、ワンダーフロアなんて、敵じゃない! ドヤ」


 崩れた壁の奥から、眼帯をし、魔女の服装をしている女性が現れた。

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