第四話「俺のユニークスキル、もしかしてクソスキル?」

 :一コメ!

 :こんにちは!

 :お、今日もやっているね!


 配信の通知がリスナーに届いたみたいだ。コメント欄に、コメントが投稿されていく。


「あー。あー。声は大丈夫そう?」


 設定はいじってないから大丈夫だと思うけど、念のため、チェックしてみる。


 :大丈夫だよ!

 :問題ないぞ!


 大丈夫そうだ。


 サトルは、同接を確認してみると、六人と表示されていた。


 いつも、配信を見に来てくれている人達は揃った。ダンジョン配信を始めるぞ。


「はい。皆さん、おはこんばんにちは、サトルです!」


 :始まった!

 :こんにちは!

 :(グッドスタンプ)


「今回やって来たのは、サーカス会場にできたダンジョン! 何が起きるか、探索をしていきたいと思います!」


 サトルは、流れるコメントを確認して、ダンジョンを進み始める。


「さすが、サーカスのダンジョン。テント型の広い部屋が、いくつもあります」


 魔物の姿が見当たらない。


 魔物は、ダンジョンコアの周りで生まれていると考えられている。さすがにできたばかりのダンジョンだと、ダンジョンコアから一番距離がある一階層目まで、魔物は来ていないのか。


「次の階層に続く階段を探したいと思いまーす!」


 サトルは、ダンジョン内を探索すると、石で造られた階段を発見した。その前には、白い紐が垂れ下がっている。


 なんで、こんな所に紐があるんだ?


『スキル:リスナー選択権が発動されました』


 サトルの脳内に、スキルの発動を知らせるアナウンスが流れた。


「ま、まさか!?」


 モモ様から、付与されたユニークスキルは、自分の意志で発動できるマニュアルスキルじゃなくて、自動で発動するオートスキル! なにか、やばい予感がする。早く次の階に進もう。


 サトルは、駆け足で次の階層に進める階段を下ろうとするが、白い紐を通り過ぎようとした瞬間、体の動きが止まった。


 か、体が動かない! どうなっている!?



 :画面に『リスナー選択権』発動って、表示されたぞ。

 :なんだ?

 :何が起きているの?



 リスナー達にも、リスナー選択権の発動がわかっているみたいだ。コメント欄が、困惑している。


『リスナーの皆さん。これから上げる二択のどちらかを選択して下さい。一:紐を引く。二:紐を引かない』


 サトルは、選択肢を見て、脳内思考をフル回転させた。リスナー選択権が、どんなスキルなのか予想をする。


 このスキル、恐らくリスナーに俺の行動を決めさせる権利を与えるやつだ。てことは、この白い紐を引くか、引かないかは、リスナーの選択にゆだねられているのか!


「リ、リスナー! 頼む! 二を選択してくれ!」


 サトルは、必死な思いで、リスナーに呼びかけた。



 :ねぇ、一にしてみない?

 :うん、面白そう!



 サトルの配信を見ているリスナーは、サトルの言葉に耳を貸していなかった。


生主なまぬしの話を聞けー!」


『リスナーの投票が終わりました。投票結果は』


 サトルは、唾を飲んだ。


 大丈夫だ。配信当初から見てくれた古参リスナーもいる。話を聞いていないように見えたが、実は話を聞いていて、二:紐を引かないを選択しているに違いない。


『十対零で、一:紐を引くに決まりました』


「裏切り者―!」


 サトルは、叫びながら白い紐を引いた。


 紐を引いた瞬間、部屋は真っ暗になる。


「な、なんだ!?」


 サトルは、体を動かし周囲を見るが、真っ暗で何も見えない。


 体が動くようになっている。スキルの発動が終わったから、効力がなくなったのか。それにしても何も起きない。もしかして、ただの電気を付けたり、消したりするただの紐だったんか。


「はは、そういうことか、もう一度、紐を引けば元に」


 サトルが、最後まで喋る前に、ダンジョン内の明かりが元に戻った。


「ぼっふ」


 誰かが、げっぷをした音が聞こえた。


「え?」


 サトルは、げっぷが聞こえた方角を向く。すると、目の前に緑色の肌をした肥満体型の腹と胸が見えた。



 :あ

 :あ……



 コメント欄は、『あ』で埋め尽くされる。


「ぼふふ」


 サトルは、緑色の体型をした者の顔を見上げる。大きさからして、二メートル以上ありそうな者は、下の歯にある犬歯が発達して、鼻と同じ所まで伸びていた。


 こんな特徴している魔物を俺は、知っている。確か名前は……。


「オーク」


 厚い脂肪に覆われているオークは、並大抵の斬撃だと、薄皮しか傷つけることができない。俺の剣術だと、オークに傷すらもつけられない。


「に」


 サトルは、一歩後ろに引きさがろうと足を動かす。


「ぼ」


 オークは、背中に手を回すと、大きな棍棒を取り出した。


「にげろー!」


 サトルは、階段がある方向に向かって走り出した。


「ぼふー!」


 サトルの背後から、オークの叫び声が聞こえた。


 なんで、オークがいるんだよ。ここは、できたばかりのダンジョンだろ!? もしかして、あの白い紐、オークを呼び寄せる罠だったのか?


「リ、リスナー!」


 サトルは、自分の配信を見ているリスナーに呼びかけて、コメント欄を見る。



 :笑

 :草



 コメント欄は、笑いに包まれていた。


「お前らが、選択したからだろー!」


 サトルは、次の階層に向かう階段を全力で駆け抜ける。


『あら、なかなか楽しそうね』


 サトルの脳内に、女神モモの声が響き渡った。


「モモの声!?」


『様を付けなさい。様を』


 脳内に直接話しかけられている感じがして、頭が痒く感じる。


「モモ様も、配信を見ているのですか!?」


『えぇ、ゲームするの、飽きたから配信を見ていたわ。今、紅茶を飲んでいる』


 優雅だな!


 サトルは、そうツッコミを入れようとしたが言葉を飲み込む。


 ここでツッコミを入れたら、話が脱線する。


「ぼふー!」


 サトルの背後から、オークの叫び声が聞こえた。


 こいつ、階段を下って次の階層まで追いかけて来るつもりだ。


「モモ様。なんで、声が聞こえるのですか!?」


『サトルのズボンにあるポケットの中身を見なさい』


 サトルは、走りながらポケットの中を確認すると、手の平サイズの小さなクシが入っていた。


「このクシが、関係している?」


『そうよ。それは、私の魂の一部を形にした物よ。これを持っていると、女神である私と念能力で、会話することができるわ』


 このクシに、そんな能力があるのか。


『ちなみに、この念による会話だけど、私が特別に配信上でも声が聞こえるようにしているわ。大サービスよ』


 サトルは、モモに言われて、配信のコメント欄を見る。



 :この声、女神なの?

 :初めて聞いた

 :存在していたんだな



 どうやら、本当に聞こえているらしい。コメント欄が、モモの声に困惑していた。


「てか、なんですか。あのユニークスキル! 本来スキルは、自分の利になる能力であるはずのなに、自分の身に危険が及んでいる!」


『気に入ってくれた?』


「リアルで寿命が縮んだ気がします!」


『でも、悪い事だけではないのよ。あなたのさっきの場面は、あなたがダンジョン配信をしている動画投稿サイトで、ショート動画として公開されているわ』


「ショート動画で公開されている?」


 一体どういうことだ? てか、さっき『悪い事だけではない』って言ったよな。このスキルは、良くない所もあるって自覚しているんかい。


『私が付与したユニークスキル、リスナー選択権。その効果には続きがあるのよ、投票が終わった直後から、一分間の映像をオートで、サトルのチャンネルで、ショート動画に投稿されているわ』


「そんな効果が、意外とショート動画って動画の構成比を変えたりしないといけなくて、手間だったから便利―! って命賭けての行動にしては、何か割に合わない!」


『ほら、文句を言わない。次の階層が見えて来たわよ』


 サトルは、正面を見ると。階段を降りた先に、部屋があるのを見つけた。


『じゃあ、私は配信を見ながら、見守る事にするね。ちなみに、この念による会話は、私からでしか出来ないから。それじゃー』


「え、ちょ、まだ聞きたいこと、いっぱいある!」


 サトルは、モモがいなくなる前に止めようとしたが、モモからの返事は来なかった。


「さっさと、ダンジョンを攻略して、配信を終わらせる!」


 サトルは、サーカスダンジョンの第二階層に足を踏み入れた。

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