第41話 大地に縛られし英雄
「エルフの回収は必要無いのか?」
「あれは俺の仕事じゃありませんよ」
二人は道すがらに、淡白なる言葉を交わす。
「ならば、何故、お前は彼処にいた?」
「まぁ、ちょっとしたフライングですかね」
「そうか」
唐突に静寂が訪れる。
「ちょっとの間、何か語ってくれません?」
「これ以上、俺に何を求める?」
「別になんも。むしろ俺に何を求めてるんです?」
「……」
「……」
「…」
「は、はは。あぁ、ここ最近、何度も過去語りをせがまれるな。俺は、俺はな、ただ…」
「はい」
「己の在り方さえ理解できぬ幼き頃に、兄にアーサー・ノースドラゴンという名の勇者に命を救われた。あの時の温もりが忘れられなかった。兄の築き上げた道を、栄光を、国を、壊したく無かった。その為に大勢殺してきた。けど、俺は、俺は……何も守れなかった」
案内人が膝から崩れ落ちて顔を覆い隠した勇者の肩に手を添えんと、徐に腕を伸ばす。
だが。
「いつまで隠れているつもりだ!!さっさと出てきたらどうだ!?」
怒気の籠った一言が、その歩みを止める。
ようやっと、彼等の前に私は姿を現す。
「すまない、盗み聞きをするつもりは無かったんだ」
フードで隠れていても尚、不満げな様子を頻りに感じさせる案内人と、狂気を孕んだ突き刺すような眼差しを向ける勇者であった。
「自己紹介が遅れてしまったね。私は、大賢者の使者の末裔……」
「訊いてないんで、大丈夫ですよ。つーか、俺たちの動向を逐一、確認なさっていたんですか?」
「あぁ、水晶でね」
「へー」
「君に、勇者に用があってね」
「消えろッ!もうこれ以上、俺に関わるな」
「そういう訳にも行かないんだ。……君の選択によっては、魔王も、君の兄も救えるかもしれない」
「は?」
「夢物語を随分と恥ずかしげもなく仰いますね。でも、もう壊れかけのヒスロア様に突きつけるのは、意外と親切心に欠けてるんですね、末裔様」
「訳あって、私はこの地に縛られていてね。思うように君たちに接触する事が叶わなかったんだ」
「……その理由をお訊ねしても?」
「この大地の呪いに縛られてね、魔王城付近以外の場所に立ち入ると、強制的に呪いが発動する」
「それは13年前からですか?」
「……」
「……」
「さぁ、どうだったかなぁ」
「俺はてっきり、正義面した馬鹿が四大国の王の御前で、世界救出だ何だと宣って、あっさり投獄された脱獄犯かと思いましたよ」
「そのような同志が居たのか」
「類は友を呼ぶと言いますからね。もしかして、あんた一人じゃないんじゃないですか?」
「いいや、私一人だけだが?」
「周囲に視線を感じるような気がしますけどね?」
「……。それは恐らく、私の分身だろう」
「へぇ。分身ですか、そりゃ凄い」
周囲に配備していた数体の傀儡を容易に見抜き、剰え、その本質さえも勘付くとは、この案内人、慧眼の持ち主のようだ。
「……私の施設まで案内しよう」
「えぇそりゃどうも。さぁ立ってください、ヒスロア様。小汚い牢獄に案内してくださるそうですよ」
「……」
勇者は案内人に肩を支えてもらいながら、渋々、その牛歩の如く歩みを進めていった。
「で、その魔王を救う方法ってのは何なんです?」
「詳しくは追々説明するつもりだが、そうだな……簡単に言えば、体内に循環する強大な毒の魔力を浄化し、生前の姿に完全に戻す。これが第一段階かな」
「その第一段階もまだ終えていないってことは、ヒスロア様を待っていたみたいですね」
「先代と深い間柄の彼の方が確率が上がると思ってね。加えて、私にできるのはあくまで救出の補助であって、その仲介の域を出ない」
「結局、一人じゃ何一つ成すことのできぬ、憐れな末裔様って解釈で合ってますかな?」
「あぁ、好きに捉えてもらって構わない」
案内人の毒舌をあしらい続け、ようやっと着く。
「やっぱ、ボロい」
我が家兼研究所に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます