第38話 最期の共闘

 対比さながらの表情の二人の間に、瓜二つの一人の勇者が異様な玉に吹き飛ばされて、割り込んだ。


 そして、身を粉々に打ち砕かれて、飛び散った。


「ったく、舐めやがって馬鹿が!!」


 捥がれた片手を治癒して、勇者の傍らに佇む。


「お前、その腕……そうか。ハァ…すまなかった」


「お前に非はない。気にするな」


「あぁ、そうさせてもらうよ」


「……エルフは無事か?」


「今更か、残念だったな。アイツはもう守られるような存在ではない。あの馬鹿はアイシアだ。一度くらい、ちゃんと名前で呼んでやれ」


「あぁ、この戦いが終わったらな」


「戦略はあるのか?」


「最後に秘技を使わせてもらう」


「承知した。その時に周りの勇者と一瞬の隙だな」


「あぁ、頼むぞ!」


 ウェストラは徐に一瞥する。


 哀愁漂わせながらも泰然とした勇者の面差しを。


「これは使いたく無かったんだがな。やむを得ない」


 新たなる頁を開き、狂気を孕んだ黒き鎧を身に纏い、空いた片手に煌々とした白き刃を握りしめる。


「便利な代物だな」


「そうでもない。魔力が幾らあっても全ての頁を使える奴がいねぇくらいだからな」


「過去の俺ならあるいは、あったかもしれないな」


「そりゃ是非、見てみたいね」


「此処からは乱数調整をしつつ、勇者を片付ける。先ずは12代目を二人で仕留めるぞ」


「どれがどれだか皆目分からんが、了解した」


 二人は疾くに印を結び、嬉々として唱える。


「解!」

「解!」


 12代目らしき者の武器を運良く無に帰すが、瞬く間に蒼き半球なる物に拘束したが、再び勇者が同様の印を結ぶ最中、ウェストラは弓に鎖矢を番えて、殻から解き放たれるとともに放ち、其を叩き打つ。


 矢継ぎ早に眼下に巡らせた紫紺の陣に足を乗せ、瞬く間に眼前に迫りながら、三度、印を結ぶ。


「解」


 又も勇者の武器を霧散させたが、狼狽えるような焦燥の漂わせる表情に惑わされ、刃を振るう。


 しかし、触れる寸前に視界の死角であった、一打が丹田を食い込ませ、宙に飛びあがろうとするが、慌ただしく一本の鎖を自らの足からせり出し、12代目の爪先に繋ぎ留め、流れるように身を捩りながら右足を振り抜いた。


 あからさまな一足をあっさりと読んだ12代目は、眼前に翳した腕で防ぎ、掴み取らんとする最中、片足が頭上から振り下ろされる。


 地に突っ伏した勇者に殊更、印を結ぶ。


「解」


 大地の一部となりし12代目の傍、怒号を飛ばす。


「そろそろだ!!」


 恐らく、鎖の勇者であろう者の首を握ったウェストラが、勇者の傍らに佇んで、仲良く印を結んだ。


「我が肉体を屈強なるものにせよ、解」

「我が肉体を屈強なるものにせよ、解」


 勇者のみが大地を深々と凹ませて、ウェストラは相不変な様子であった。


「チッ、少なかったか」


「大分、数も減ってきた。もう時期だぞ」


「あぁ、分かってるよ」


 仁王立ちの二人に、掬い上げるように刃を振り上げた一人の勇者だったが、当代と競り合う間も無く刃諸共、葉野菜を切るが如くスッと真っ二つした。


「天の裁き」


 ウェストラは虚無なる天に掌を差し伸べ、忽然と現れた円なる扉から、槍の片割れを手繰り寄せる。


「地獄の鉄槌」


 勇者は大地に手を当てがって、再び扉から槍の刃部分を取り出した。


 ウェストラは持ち手部分を己の体にすり寄せて、槍とともに体を柔軟に撓らせ、傀儡を跪かせる。


 勇者は限りなく小振りであった一撃で、傀儡の胸部を深く削り取り、持ち手部分が宙に舞い上がる。


 そして、二つは一つになる。


 神々しき槍へと変形し、勇者は身を捩りながら、大きく振りかぶった。


 投擲。


 電光石火の如く、幹部に差し迫ったが、一人の勇者が堅牢無比なる大盾を忽然とせり出した。


 最強の矛と最高峰の盾がぶつかり合う。


 鋭い金属音が鳴り響き、槍は、その煌々とした一部が周囲に迸っていくが、傀儡は静かに微笑んだ。


 針に等しき姿となり、盾は破られる。


 それは勇者を貫き、幹部の眼前へと迫った。


 避ける間さえ無く、否応なく厚き剣で防ぎ、身を背から引き摺られるように渾身の一撃に押されながらも、かろうじて盾なる刃が勝利を喫した。


 そして、勇者は飛ぶ紫紺の斬撃を放つ。


 疾くに後ずさろうとした時、無数の光の矢が地面を貫き、アイシアが逃げ場を一瞬にして塞ぐ。


「この程度でっ!!」


 幹部は苦悶の表情で、斬撃を正面から受け止めて、

その場に留まりながら、禍々しき光波を迸らせる。


「この技の種は割れている!!」


「あぁ。だが、これはまだ見せてなかったな……」


 大地から降り注ぐ矢の雨が収まった時、既に勇者は眼前へと迫り、大地に剣を突き立てていた。


「喰え、棘の剣」


 幾重もの棘とともに紫紺の魔法陣がせり出して、その瞬間に僅かな強張りを見せる幹部に触れる。


「ドレインタッチ。だったかな」


 淡い紫の色を帯びた光が、瞬く間に掌に収束し、左手に明瞭に短剣が姿を現していき、刃を振るう。


 金属音が響き渡って、双方の破片が宙に舞う。


 そして、忽然と光の剣が右手に現れ、貫いた。


「……」


「強かったよ、でも、俺は勇者だからな。勝者でなくては、勇者にあらず。ってね」


「……彼奴は玉座だ。精々、抗うことだな」


 そう言い、霧散した。


「ハァ……」


「チッ、もう一歩も動けそうにねぇよ」


「げほ!げほっ!!」


 その場に静寂が訪れようとしていた。


 だが、忽然と黒霧が立ち込め、翁が姿を現す。


 それは暗がりで出会したコレクターに瓜二つ。


 勇者はその姿に瞠目し、再び、茫然自失。


「醜悪な御姿に成られましたな、ヒスロア様」


「セバス……か?」


 かろうじて自らの理性を保って、喉奥に押し込んでいた疑問を静かに零れ落とすかのように、声を小刻みに震わせ、囁くように問う。


「えぇ、左様です」

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