第14話 影に潜む者たち
「矛をお収め下さい。勇者様」
忽然と黒霧が立ち込めるとともに、黒きローブ姿をし、立ち膝を突いた者が現れる。
「そんなに自殺志願者が多かったとはな」
疾くに案内人の首筋に、大剣の鋒を添える。
「此処での争いは無益です」
「不逞の輩に誅罰を下すまで。邪魔立てするなら、先ずはお前から血に染まることになるぞ……?」
「……貴方は勇者様に他ならないお方。このような場に於いて、私情に流されるまま誉高き剣を無闇に振るうなど、決してあってはなりません」
「あれが勇者に訊くべき、問い掛けか?」
空を切り裂くような怒号が飛ぶ。
「北諸国は、多くの民衆は貴方様を愛しております。どうか、矛をお収めください」
「……」
「……」
勇者は首筋に寄せた刃を渋々、退かせる。
「肩書きを愛でることを愛とは呼ばない」
「いやはや、流石は案内人。導くべき場所が解っているようですな」
「邪教信者風情が……ッッ!図に乗るなよっ!!」
案内人はフードから垣間見える血走った眼差しを、饒舌に口走り続ける一人の信奉者へと向けた。
「そう事を荒立てていては、これからの道行きに同行者様方が苦労するでしょう。まぁ、貴方の案内はもう時期、終わりでしょうが」
「貴様!」
「先の問い、特別にお答えしよう」
一触即発の寸前、静寂に亀裂が走っていく最中、勇者から零れ落ちた思わぬ一言が、その場をシンと水を打ったように静まり返らせた。
「俺は…親族だ。ただの血縁者に過ぎない」
「ノース家に次子は居られないと聞きましたが?」
「……。忘れたか?」
「ハハハ。流石は勇者様。ですが、貴方様は過去も然る事乍ら、私怨を燻らす者たちも蛆のように湧くでしょう。どうか五体満足で魔王城へと辿り着くことを祈っておりますよ」
「あぁ、言われなくともそのつもりだ」
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