幼なじみくんチップス、男の子としてのささやかな尊厳がボロボロになる(素朴なプレーン)味

 問題です。(少し変わった意味で)気になっている男の子とお出かけすることになったTS美少女として取るべき行動はなんでしょう。


 そう、正解は、“これはあいつの為じゃなくて……”とか適当な言い訳を自分にしながら、かわいいと思ってもらいたくてオシャレをすること。自分は男だと心を偽りつつ、けれど想い人のことを考えてひとりでメス堕ちする、TSっ娘のお約束だね。TS転生者の自分は男だ発言は、翻訳すると私はメスです♡になる。りんごが木から落ちるのと一緒だね。


 さて、そんな万TSっ娘メス堕ちの法則に則れば、私も同様にオシャレをしながら顔を赤らめなければならないのだが、悲しいことに私は既に女の子である。そもそもが機能不全だったせいで男としてのアイデンティティもなかったし、ふにゃあと生まれて一年のうちに染まったよね。……その割には女の子が好きだなって?あのさあ、そういう目で見る見ない以前に、かわいいものが好きなのは当然でしょ?男の子だってプリキュアに憧れていいんだよ。これだから今どきのジェンダー論者は。


 個人の好みをなんでも性自認に結び付けやがって!と全く関係ないところに怒りを顕にしつつ、フリフリ系のかわいい格好でにっこりする。私は風情をわきまえていない系TSっ娘なので、TSっ娘っぽい言動は苦手なのだ。いいじゃない、かわいい格好すれば。うれしいじゃない、かわいいって褒められたら。


 私の少女っぷりは、元伴侶であった美保さんをもってしても作品を見るまで気付かなかったくらいなのだ。特に演じているつもりもなく、自然に振舞っていての少女らしさ。ともすれば本当にかつての自我が宿っているのか心配になるくらいだね。宿ってなかったらこんな美少女がこんな性癖になるわけないだろ。


 かわいい格好をして、ママ様に今日もかわいい!とお墨付きをもらう。ファッションチェックをしてくれたママ様にチェックし返して、ママ様もかわいい!と判定をし二人できゃいきゃい騒ぐ。妹ちゃんも合わせて姦しくしたかったけど、受験前だから邪魔しないように我慢だね。早く受験終わって遊べるようになればいいのに。


 妹ちゃんを味わうのを諦めたおかげで、純粋な気持ちで願えるようになった合格を願い、そのままお外に出る。わざわざ休日に出かけ、しかも朝からかわいい格好をしてのもの。最近あったことと照らし合わせれば、もう私がなんのために外出したのかはわかるだろう。


 そう、かしこいかしこい聡くんの生活に潜り込むべく、おデートでいい女アピールをするためだ。……なんて、普通ならそんな理由でお出かけするのだろうね。狙う相手を決めて、その方法まで目処が立っているのであれば、そうしないはずがない。まともに考えたら、そうする以外にないのだ。


 けれども残念なことに、私はTS転生者。とても普通とは言えないようなバックボーンの持ち主である。そのため、今日私がお出かけをする理由は、聡くんの攻略ではなく智洋くんのつまみ食いのためだ。……なぜわざわざおやつなんかのために危険を犯す、変な方向にこじらせたら本命聡くんがめちゃくちゃになりかねないのをわかっていないのかって?そんなの、わかった上で空腹に耐えられなかっただけに決まっているじゃない。


 大物聡くんにかかりっきりになると、その辺で小物をとって腹ごしらえが難しくなるのだ。これまでだったら当たり前のようにできていたネットでのキラキラ候補探しだって、これからのキャリア次第では満足にできない。そして私の主食は価値あるものが失われる瞬間の眩い輝きであり、それが取れないのであれば他のところで補充しないといけないのだ。そしてそんなところに都合のいい智洋くん。もう何をするかなんて決まっちゃうよね。


 少し長く言い訳を重ねたが、要は我慢できないから智洋くんに手を出す。それだけの話だね。何か言われたとしても幼なじみで昔からこうだったからとある程度なら言い訳できるし、言い訳をしてもなお嫌だと言われることがあれば、その時はあえて遠ざけることで私が真剣なのだというアピールにもなる。上手くいけば嫉妬もしてくれるかもしれない。


 逆に上手く噛み合わなかったら距離を取られる原因になるかもしれないので、基本的にはアピールせず細々と楽しむくらいでいい。そもそもまだ思いも確かめていない段階なのだから、隠れて仲良くしていたところで責められるいわれはないしね。もちろん付き合ったとしたら話は別だけど。


 となると、智洋くんは何かの間違いで私を落とさない限り、仲の良かった幼なじみ枠として距離を置かれることが決まったわけだ。初恋も人生設計もめちゃくちゃにされるだけされて、野に放たれる少年。ちょっとかわいそうだけど、人生ってそういうものだよね。私の人生は万事計画通りに進む予定だが。


 予め聡くんに告白する、あるいはされる日程を決めておいて、○○日後に失恋するおやつくんなんて呼ぶのも面白そうだと考えながら、お隣のインターホンを鳴らして、お勉強中だったらしい智洋くんを連れ出す。突然休日におしゃれをしてやってきて、今から出かけようっ!と言う美少女幼なじみとお勉強、どちらを優先するかなんて考えるまでもなく、智洋くんはほとんど着の身着のまま連れ出されることになった。そうやって遊んでばかりだから成績が上がらないんだよ。この調子じゃいつまでたっても私にふさわしい相手になんてなれないよ?


「……光ちゃん、今日はどこに行くの?行く場所によっては、一回帰って着替えたいんだけど」


 ジャージの橋を引っ張りながらそんなことを確認する智洋くんは、きっと以前失敗したことを覚えているのだろう。どんな服装でも大丈夫だよと呼び出して突然芸術鑑賞に拉致られる経験があれば、ドレスコードを気にするようにもなるか。前連れていったのは私服でも大丈夫なところだったんだけど、それでもほんのちょっとだけ浮いてたからね。


 さて、今日はどうしようかと聞かれてから考える。私は基本的に計画的な行動をとるが、立てる必要のない計画は立てないタイプでもあるのだ。そして智洋くんとのお出かけは計画を立てるほど大切なものではないので何も考えていない。……計画的な行動はどこに行ったって?その辺で迷子になってるよ。


 いい意味で考えれば、それだけ智洋くんに対しては遠慮したり気を使ったりしてないってことだから……と慰めになっていない慰めを考えつつ、可哀想なものを見る目で智洋くんを見れば、哀れな少年は恥ずかしそうに視線を逸らした。恥ずかしがるような状況じゃないからその反応は間違いだよ、冷静になりなさい。


 何も気を使わなくていい智洋くん相手とはいえ、さすがに聡くんとのデートの下見に使うのもかわいそうなので博物館の毒展に行くのはなし。ああいうのは興味がある人と行くか、そうじゃなきゃ一人で行くべきなのだ。グループで行って、一人でも興味が無い奴がいたらゆっくり見れなくなってしまうからね。展示物はゆっくり楽しむためにあるんだよ。私は前世でそれを学んだ。……まだ学生で、科学を信仰していた時期の話だね。天啓を得てからはそんなことにうつつを抜かす暇はなかった。


 しかしそうなると、本当に智洋くんと行く場所ないな。行きたい所があれば基本一人で行くし、そもそも行きたい場所自体少ないからね。……なんのために私は智洋くんを引っ張り出したのだろう。早速だけどもう帰っていいよ。


 さすがにそんなことを言ったら私の人格が疑われてしまうので、何とかお出かけ先を絞り出す。お買い物に行くか、ただご飯だけ食べに行くか。……面倒だからお買い物でいいや。そろそろ木材がこころもとないから、それを買いに行こう。智洋くん連れていく必要?ないよ。


 かわいい幼なじみのわがままに付き合うのは男の子の誉だろ!とよくわからないことを考えながらショッピングセンター行きの送迎バスに乗り、まだ何もわかっていない智洋くんとしばしおしゃべり。……よくわからないとは言ったが、考えてみたらこれあれだ、前世の幼なじみちゃんに言われたことだ。つまりは美保さんの受け売りだな。美保さんがそうだと言ったんだからきっとそう、もし違ったら全部あの子が悪い。


 買い物に来て直ぐに目的を達成するのもなんとなく寂しいので、時間つぶしのためにウィンドウショッピングをする。せっかく連れ出したのだから、少しくらいは楽しい時間を過ごさせてあげたい幼なじみ心だ。幼なじみは親だったのかな?……朝起こしてあげたり、お勉強の面倒を見てあげたり、人格形成に影響を与えたり、親と言っても過言ではないほど関わってたね。智洋くんは私が育てた。おでこに私のシールを貼ってやろうか、みんな大好き生産者の顔シールだ。


 思い立ったが吉日ということで、シールを用意するために智洋くんとプリクラをとり、おでこはさすがに目立ってしまうので携帯に貼り付ける。かわいい私のシールを剥がすなんて、智洋くんにはできないよね。そのままつけたまま過ごして、お隣ママから生ぬるい目で見られるといい。大丈夫、あの人ならきっと喜ぶから。ほとんど捨てられかけていることなんて思いもせずにね。


 智洋くんへのサービスを済ませて、ついでに自分が好意を持たれているとの勘違いを補強するために部屋着を選ばせる。見て見てこれもこもこ。こっちはふわふわだよ。ひろちゃんはどっちが好き?……もこもこ?それじゃあ光これにするね。選んでくれてありがとうっ!


 こんな暑い時期にそんなもこもこパジャマ買うなんて正気かこいつ、とでも思っていそうな笑顔の店員さんにお会計をしてもらい、荷物を智洋くんに持ってもらう。私は作品作りのために引きこもることが多いから、熱中症対策のために部屋にエアコンをつけてあるのだ。いつでも室温は20度にしているから、暑い夏でももこもこが着れる。モコモコパジャマはかわいいからね。しかたがないね。


 時計を見るとほとんど時間が経過していなかったので、もう少し何かしようと映画館へ。ちょうど上映間近だったホラー映画を見て、ビビってぷるぷるしている智洋くんの手を引く。……私?幽霊さんがエッチだなって思ったよ。なぜ幽霊はあんなにエッチなのか。青白くて生気がないのとか最高だよね。色の白きは七難隠すんだから、ちょっと生きていないことくらい気にならないと思う。思わない?思え。


 まだこわがっている智洋くんと感想会を開くべく、適当なファミレスに入る。ちなみに智洋くんはお財布を持つ暇もなく連れ出されたわけだから、ここまで全部私の奢りだ。女の子に全部払ってもらって、さらにホラーにビビってるところまで見られるとか、男の子としての尊厳ボロボロだね。そのことを気にしている時の渋い顔がみたくて今日は連れてきたんだ。ちょっと薄味だけどどれだけ食べても飽きない味だからね。


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 そろそろマンネリ化してきた気がする(╹◡╹)


 20万ちょっとを目安に締めるかも(╹◡╹)ミテイ

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