TS転生者さんの特殊行動(謎補正付き)

 コメディしか書けないのでラブコメは期待しないでね(╹◡╹)


 これはコメディだよ(╹◡╹)


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 美保さんに背中を押されて(本人曰く蹴っ飛ばされて)、私は自分が誰を選ぶか決めた。本当は言われた通り、相談なんてせずとも聡くんを狙うつもりだったんだけどね。だって私の目的は最初から、最高に価値があるものを貶めることなのだ。難しそうだからって妥協するようじゃ、なんのために生まれたのかわからないじゃないか。


 ちなみに、もしママ様に相談していたらきっと手頃なところで妥協するように言われていた。だってあの話って、客観的に聞いたら智洋くんか聡くんだもん。まだ赤ちゃんの頃から家族みたいに接していた智洋くんと、まともに会ったこともない聡くん。普通の親ならどちらを勧めるか、わざわざ言うまでもないだろう。だから美保さんに相談する必要があったんだね。……まあ、そもそも私の中で智洋くんは選択肢にも上がっていないのだけどね。


 君は最初から眼中にないんだよ、なんて智洋くんが聞いたら泣き出してしまいそうなことを考えつつ、いかにして聡くんを落とすか考える。……全部ひろちゃんが悪いんだよ。光、遅かったら他の人のところに行っちゃうって言ったもん。


 私にふさわしい相手になるべく、自分磨きを頑張っているはずの智洋くんに対して、頭の中で適当に言い訳をする。まあ、そんな言い訳なんてする必要ないんだけどね。だって私が智洋くんに求めたのは、私の価値を損ねてくれること。そして聡くんに求めていることは、私の前でキラキラ輝きながら落ちてくれること。求めるものが違うのだから、私は何もおかしなことも矛盾したこともしていないのだ。……客観的に見たらアウトだろ。反省しろっ!


 突然大きな声で怒鳴られて、びっくりして泣き出してしまう。声に出して怒鳴ったわけではないから客観的に見ればなんの脈絡もなくビクッとして泣き出した少女だね。かわいいね。かわいいけど、絶対面倒だよね。


 突然泣き出すような面倒な女のことはさておき、聡くんだ。挨拶がきっしょいことと、とても頭がいいことと、メガネなことくらいしか特長のない聡くんだ。数少ないお友達に対して、随分酷い認識だね。そんなんだから友達少ないんだよ。……突然の正論に打ちのめされ、私の目から涙があふれる。さっきからずっと溢れてたから、事実上ノーダメージだ。周りが見にくい。


 周りが見えておらずとも、私は聡くんのことを考えなければいけない。男のことで頭をいっぱいにするなんて、何が悲しくてそんなことしないといけないのかと思わなくもないが、警戒されず聡くんの生活の根っこに潜り込むためには、特別な関係になるのがいちばん早いのだ。それはつまり、恋人関係であり、その先も見据えた関係である。


 そしてそうなれば、聡くんが他の子のところに行くのは好ましくないので、私で満足させなくてはならない。私だけで満足できるくらい、需要を満たしてあげないといけないのだ。それはつまり、相手の好みに合わせて自分の振る舞いをコネコネして、作り替えるということ。彼色に染まった美少女状態になるってことだね。智洋くんの脳みそ破裂しそうだな。


 そのためには聡くんの好みの分析が必要であり、その第1歩として始めたのが……


「……真白、何か用があるなら言葉にしてくれ。俺はお前じゃないんだから、視線だけで意図をくみ取って会話を成立させられないんだ」


 聡くんの観察である。彼を知り己を知れば百戦して危うからず。私は既に十分すぎるほど自分のことを知っているから、あとは聡くんのことを知るだけである。そして相手のことを知りたいのであれば、観察するのが一番だ。


 ……なんて、おバカな発想をしているわけではない。もちろんその意図も若干はあるのだが、普通に考えればわかるように、突然一挙手一投足を観察されたりしたら一部の例外を除き忌避感を持たれるものだ。簡単に言うと引かれる。引かれたりしたら本末転倒だから、ただ観察するのはあまり賢い策とは言えないのだ。


 そこまで考えが及ぶのであれば、なぜ私は今そんなことをしているのか。それはもちろん愛しの聡くんのお顔を見たくなったから……なんて脳みそピンクな理由ではなく、聡くんの私への感情を把握しておくためである。さっき忌避感を持たれるって言ったけど、あくまでそれは多くの場合。聡くんにとっての私みたいに、好意を持っている相手から興味津々に観察されるのであれば、生まれるのは忌避感ではなく気恥ずかしさである。ストーキングされても嬉しいって、やっぱり恋は盲目だな。おそろしい。


「……聡くんなら、きっとわかるよ。三回だけチャンスをあげるから、私が考えていること当ててみて?」


 何がいちばん恐ろしいって、私はこれから聡くんに対して、そんな盲目になった人間として振舞って見せなければならないのである。恥ずかしすぎて火を吹きそうだ。なんだよ、当ててみてって。そんなキャラじゃな……私、そんなキャラだった。聡くんのことを困らせておちょくって、ニコニコ笑っているようなキャラだった。こう言うとめちゃくちゃ性格悪そうだね。あながち間違っていないけど。


「……わざわざ真白が他所の教室に来ているんだから、なにか理由があるはず。そして理由があるのにこんなことをしているのだから、それは緊急性のあるものではない。となるといちばん無難なのは、なにかに誘いに来たとかか?そうなると今考えていることは、“いつになったらそのことに気づくの?”か?」


 自分の頭の中を整理しながら、その考えに至る理由まで説明して答える聡くん。これは聡くんが普段から思考を周囲にダダ漏らしているわけではなく、答え自体は違ったとしても部分点が貰えるようにという策である。相手の気持ちを考えましょう問題で満点の回答は不可能に近いから、答えの妥当性をアピールすることで少しでも点をあげようというみみっちい策だね。私は好きだよ。


「その笑顔ってことは違うんだな。でも的はずれな時の笑い方でもない。それなら真白がたまに面倒になる時のことを考えて、“私の言いたいことくらいすぐ察してよおバカっ!”とか?」


 ……私の思考パターンとしてはあながち間違っていないのが悔しいな。しかしそうか、聡くんから見ても私はたまに面倒なのか。まあ私自身が一人称的に省みても面倒な女なのだ。客観的に見て面倒じゃないはずがない。特に脈絡もなく泣き出すところとかね。本当にめんどくせー女。……ごめんうそうそ泣かないでっ!面倒なのは嘘じゃないけど私はそんな私のことも好きだからっ!


 自身が面倒な女扱いした直後に泣き出した私のことを見て、ちょっと慌てたようにオロオロし始めた聡くんに慰められる。こうやって突然泣き出しても優しくしてくれるから、私は周囲の人たちが好きだ。まあ私はとっても美少女だから、泣きだしたらつい慰めたくなっちゃうよね。私もママ様が泣いちゃったらガラガラ振ってあやすもん。


 自分で考えて、ガラガラで泣き止むママ様を想像して笑顔になる。どこから見ても美少女なママ様が半泣きになりつつ、ガラガラで泣き止む赤ちゃんみたいなところを見せてくれたら、光ちゃんも笑顔になること間違いナシ。むしろママ様にあやされたくなるな。赤ちゃんの頃甘えきれなかったぶん、甘えたい。ただ寝てるだけで褒められたい。


「なんだったんだ、いまの……それじゃあ、ないとは思うけど“聡くんが元気そうでよかった”とか?」


 突然泣き出した情緒不安定な私に対して、狐につままれたような表情になる聡くん。ついでに三つ目の答えを出してきたのだが、ここで私は一つ困った。なぜって、“聡くんはこれでも喜ぶんだろうなー”以外には特に何も考えず聡くんのことを見ていた私は、今からなんかそれっぽい理由を考えなければならないのだ。私が本当に考えていたことをそのまま伝えてしまったら、聡くん攻略作戦が初手から躓いてしまうからね。なぜ私はこんなにも何も考えず発言してしまったのか。そんなのはいいからうなれピンクの脳細胞。


「正解は、聡くんが好きそうなイベントがあるんだけど一緒にどうかな?だよ。なにか理由がある、用があるって所まではあってたから、一番最初のが惜しかったね」


 36点、廊下の掲示板を確認するようにしましょう。口から出まかせ言った割にはなんかそれっぽい内容になったね。いきあたりばったりで何とかなってしまう自分の才能が恐ろしい。……こうして何とかなっちゃうから学習しないんだよ。反省しろ。


 私からの突然のお誘いに対して、聡くんは一度話を聞き、本当に自分の興味のあるイベントかを確かめる。誰とは言わないけどおやつくんだったりしたら、興味のうむよりも私とお出かけできるかどうかを優先しそうなものだが、聡くんはそういうタイプじゃない。自分の行動指針に一本筋が通っているんだね。お誘い一つでもしっかり考えてからしないといけないのは少し面倒だ。智洋くんがちょろすぎるとも言えるな。


 そんなちょろくない聡くんは私の言ったイベントを軽く調べると、面白そうだと言ってお誘いに了承した。元々そんなつもりは無かったのだが、いつの間にかお出かけが成立していたのである。私にも何が起きたのかわからないのだから、きっとわかる人はどこにもいないだろう。


 そして、ここは学校で、私の教室ではなく聡くんの教室である。今の私はなんの脈絡もなくよそのクラスに遊びに来て、友達のいない堅物メガネとおしゃべりして、デートの約束を取り付けたよそのクラスのマドンナだ。あっ、前告白してきた子が人を殺せそうな目で聡くんを睨んでるっ!聡くんどんまい、私は関係ないからがんばれ。


 なんか予想外の収穫があったところで、私は聡くんにとって針のむしろになりつつある教室から一足先に抜け出す。逃げたんじゃないよ。ただ次の授業が始まるから帰っただけ。ただ引っ掻き回すだけ掻き回して、自分は何食わぬ顔で教室に戻る。なんてやつだ。美少女じゃなかったら許されない所業……美少女だから許されないのか、聡くんが。


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 脈絡もなく他所の教室に訪れ、何をするでもなく観察しながら泣き出し、場を乱すだけ乱して帰っていくタイプ(╹◡╹)コナイデ

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