幼なじみくんチョコレート、何もかもが上手くいかず、大切なものを自分のせいで失いかける瞬間(カカオ80%)味

 この辺の下りは書き初めから書きたかった数少ない内容のひとつ(╹◡╹)


 お口に合えばいいのだけど……(╹◡╹)


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 脳みそ再生中幼なじみくんプレゼンツ、上手くいかないデートプラン。実況は不肖私、真白光でお送りします。ダイジェスト版をね。


 さて、実況を始める前に、いかに私がエスコートしにくいやつかを解説しようか。まず第一に、私はかわいい。とてもかわいくて、放っておけば地面に落とした砂糖菓子のようにすぐ有象無象アリさんたちがよってくる。つまり、ちょっとここで待っていて。ができないのだ。ずっとそばにいてね。トイレ?ダメだよ。


 第二に、既に私たちの間で格付けは済んでいるのである。私が上で、智洋くんが下。智洋くんがちょっとかっこいいことをしたところで、私から向けられるのは背伸びした子供を褒めるような生暖かい言葉。もちろん私も直接子供扱いなんてしないけど、そういうのって伝わるものだからね。……そんなことも隠せないのかって?わざとだよ。言わせんなって恥ずかしい。


 第三に、私はお金持ちである。少ないお小遣いを必死にやりくりしている智洋くんが、いい所を見せようとなにか買おうとしたところで、むしろ申し訳なくなるから払わせて欲しいと正論で殴ってくるのだ。厄介すぎるな、この女。……プレゼントを貰うとき?あのさぁ、プレゼントは価格じゃなくて気持ちなの。私から見たら安っちいアクセサリーでも、智洋くんが欲しいものを沢山我慢して買ってくれたのなら素敵な贈り物だよ。そんなこともわからないとか、ちゃんと道徳の授業受けた?


 そう、そんな諸々の要因のせいで、智洋くんは私を上手にエスコートできないのである。……というかこの条件が揃っていてまともにエスコートできる人がいるのだろうか?いるのかもしれない。世界は広くって、その可能性は無限大だ。私のちっぽけな脳みそでは想像つかないことの万や億くらい、すぐに見つかるだろう。


 ……大変っ!ダイジェスト版にするつもりだったのに、ダイジェストにするまでもなく全てを語ってしまった!光ちゃんのつよつよな説明能力のせいだ。才能溢れるこの身が憎い。……うそうそ憎くない!大好きだから泣かないでっ!


 のほほんと不出来なエスコートを満喫していたにもかかわらず、突然泣き始めてしまった自分のことを頑張って慰める。必死にエスコートしていた智洋くんも、事態が読めずにオロオロしてしまった。私をエスコートしにくい理由に、四つめの理由が追加された。情緒不安定なところである。なんなんだこのめんどくせー女。私なら十秒で冷める……でもお顔がママ様だから全部許せるな。やはり最強はルッキズムか。


「ほら、真白さん。これ飲んで少し落ち着いて」


 泣き出した私をベンチに座らせて、落ち着かせるために飲み物を買ってきてくれた智洋くん。あーあ、智洋くんの大切なお小遣い、こんなどうでもいいことに3%も使っちゃった。かわいそうに。でも弱っている私のためならお小遣いをケチらないその姿勢は評価しよう。悔しいが、今日初めて智洋くんへの好感度が上昇した。一定に保つために後で下げとかなきゃな。


 さてどんな失敗をさせようかと、心配してくれる相手に最低なことを考えながら、買ってきてくれたジュースを一口。えへへ、りんごジュースおいしい。やっぱり甘味は大事だ。元気が出ない時は甘いものが一番効く。私はそう信じている。


 ありがとう、心配かけてごめんねと謝って、ひろちゃんが何かしたとかじゃないんだとフォローを入れる。するべきフォローをしないとほら、智洋くんは何もしてないのになにか悪いことをして私を傷つけたのではないかと誤解してしまうからね。そうして誤解が解ければ、今度は何故か私が泣いていたという謎が残るのだけど、そちらに関しては放置。わざわざ、私が情緒不安定な理由なんて、智洋くんに伝える必要はないのである。


 適当に話をはぐらかして、ベンチを後にする。私の心の内側は、まだ智洋くんに話すには早すぎるのだ。もっともっと、沢山時間を重ねて、何もかもが手遅れになってから。そういうのでいいし、そういうのがいいんだよ。


 そうひとりで納得しながら歩いていると、正面からやってきたのはちょっとばかりアソんでいそうなオニイサンたち。周囲のことを考えず横に拡がって、通行人を威圧しながら闊歩しているタイプの連中だ。私があまり好きではないタイプである。


「そういえば真白さん、この前教えてくれたテレビ、すっごくおもしろかった自分が将来どんな仕事をするのかはまだわからないけど、どうなったとしても参考になりそう」


 そして、私が苦手なタイプということは、本質的に似た者同士である智洋くんも同様に、苦手なタイプである。……私と智洋くんはどこも似ていない?純粋な智洋くんと比べたら私の中身は肥溜めに湧いた蛆?酷いこと言わないでくれ。でもそんなことは、今はどうでもいいのだ。


 大事なのな、目の前のオニイサンたちに、智洋くんはまだ気がついていないこと。もし気がついていれば、向こうの意識に入るよりも先に距離をとって、絡まれることがないようにしていただろう。智洋くんは賢い子なので、自分が逆立ちしても勝てない相手とはそもそも戦おうとしない。……それじゃあ智洋くんは何と戦うのかって?あのさぁ、智洋くんは平和主義なの。誰とも戦ったりしないよ。


 そうであれば、今のこの状況は、智洋くんにとってはどう考えても望ましくないよね。こんなふうに、彼らの進行方向に無防備に立って、完全にロックオンされてしまっている状態。うん、よくない。とてもよくない。何が最悪って、まだ智洋くんが気付いていないことだ。


 さて、この場合、私がとるべき行動とはなんだろうか。普通なら、智洋くんに気付かせて、一緒に進路を譲るべきだ。煽り運転や厄介な人には、目をつけられないように、つけられたとしても最低限で済むようにするのがベストである。それならば当然、今回だってそうするべきなのだ。


 そう、わかっているにもかかわらず、私の行動は違うものだった。智洋くんに知らせずに、自分も気付いていない振りをする。おかしいことをしているのはわかっている。視界の端に映る、美味そうな獲物を見つけたように舌なめずりするオニイサン。ろくでなしの気配がぷんぷんするぜ。私といい勝負ではなかろうか。


 そんなろくでなしたちの前に出る。智洋くんがようやく気がついて、びくりと小さく震える。体が大きいわけでもなく、力が強いわけでもなく、武術を修めているわけでもない智洋くん。そんな智洋くんがガラの悪い連中に囲まれて、怖くないはずがない。


 実に、実にかわいらしい事だ。震えそうな足で、それでも後ろを向いて逃げ出さないのは、すぐ横に私がいるからか。守りたい人がいるから、逃げられない。どう頑張っても智洋くんでは守れなくても、それがわかっていても、それでも智洋くんの中で私は守りたい相手ということだろうか。そう考えると、なんだかうれしいね。私がこの状況になるのを避けなかったのが、申し訳なくなるくらいだ。


 でも、仕方がないじゃないか。智洋くんが、目の前で大切な私を守れず、奪われてしまう時の顔を想像したら、我慢できなかったのだから。わかっている、私の価値はまだ、こんなところで失うにはもったいないものだ。こんなことをするべきではなかった。でも、まだまだこれから価値が高まるものを貶める、そんな潜在的な価値の喪失もまた、興奮してしまうのだ。完成したトランプタワーよりも、完成直前のトランプタワーを崩した方が気持ちいい。それと同じことだ。


 そう考えれば、今のシチュエーションもそれほど悪くないのである。私を守ろうと前に出た智洋くんが、オニイサンたちに因縁をつけられて、肩に手を回されている状況。そんな智洋くんを守るためと理由をつけて、この身を捧げてしまえば、きっとそれは智洋くんにとってこの上ない傷になる。この先、私が何をしてもはなれられなくなるような、飛びっきりの傷だ。


 私が思い描いていた最高の瞬間とは比べ物にならないが、それはそれで幸せだろうなと思った。私のこれまでの努力が全て無に帰すことも含めて、興奮できるものだ。


 だから、私は、智洋くんに絡んでいるオニイサン、もうヤカラでいいか。ヤカラたちに自分が出来ることならなんでもするから智洋くんに酷いことをしないでと頼む。その瞬間の智洋くんの、絶望に染まった表情と、対照的なヤカラたちの喜色の笑み。そりゃあ彼らからすれば、私みたいな極上の美少女を好き勝手できるのだから、喜び浮かれて当然だよね。私が逆でも同じ表情になるもん。まあ、私は美少女に絡んだり因縁つけたりしないけどね。ものの例えだ。


 こんな上玉と〜、とか、ラッキーだわ〜、とか仲間内で嬉しそうに話しているヤカラと、私の方に回される汚い手。離せとか、ダメだとか言って必死に止めようとしてくれる智洋くんが、力のパワーで抑えられて、何も出来ない様を見る。だめだよ、そんな無駄に自分が傷つくことをしたら。この状況から止めようとしたところで、自分の力じゃどうしようもなくて、無駄に殴られたりするだけなのがわからない智洋くんでもないだろうに。


「ひろちゃん、私なら大丈夫。ちょっとお話してくるだけだから、いい子で待っててね」


 智洋くんを安心させるための、明らかに無理した笑顔。引きつった表情。そして、“いい子”という、あくまで庇護対象に対して向ける言葉。そこに込めた意味は、智洋くんに十分伝わる。しっかり思春期を迎えた智洋くんには、このまま私が連れていかれて、本当にお話するだけで済むはずがないことも理解出来る。


 けれど、理解できるけれど、理解したところで何かができるわけではないのだ。そう考えると、理解できるのとできないのなら、どちらの方が幸せなのだろうね。世の中には絶望しか産まない悲しい知識も存在するのだ。汝この知識を持つもの全ての希望を捨てよ。


 しかしまあ、智洋くんには悪いが、このシチュエーション自体はそこまで悪いものではない。少なくとも私にとってはね。だから大人しく連れていかれるわけだ。ただ。


 智洋くんを馬鹿にしながら下品に笑う彼らに触れられた肩が、ひどく不快だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る