進学するとお友達が増える。けれどもコミュ障には作れるお友達の量が限られているから、増えて数人くらいなのだ。
将太くん、というのが誰なのか、きっと私自身であってもハイスペボディでなければ忘れていただろう。正直、そんなに印象的なタイプじゃないし、一般的な子供であれば10年後くらいに思い出話として出されて、“そんな子いたっけ?”ってなるタイプ。……そうやっていつもみんなから忘れられる人の気持ちを考えたことないんですか?かわいそうじゃないですか。かわいそうってことはつまりかわいいってことだね。忘れられっ子かわいいよ忘れられっ子。まあ私のかわいらしさには数段劣るがね。
私の方がかわいくて、将太くんの方がかわいくない、優劣は火を見るより明らかであり、ここに格付けは終了した。私が上で、将太くんが下。余程の何かがない限り変わることのない事実である。……あぁ、だからこの将太くんは、突然決闘なんてことを言い出したのか。かつて何を食べても感じてしまうくらいに敗北の味を染み込まされたから、それを拭うために、自分は負け犬じゃないと納得するために再戦を試みた。まぁ、私はさんざん勝って、そのまま勝ち逃げしたからね。何年もたっても忘れられないくらい楽しんでくれていたのかと、思わず私もにっこりだ。
「もちろん嫌だよ、そんな野蛮なこと。するわけないじゃない」
にっこり笑顔ですっぱり拒絶。決闘なんてやってもいい事ないからね。良き市民としては、当然そんなことをするわけがない。そのはずなのに、目の前の将太くんはまるで断られるのが以外かのように驚いている。さては悪いタイプの市民だな?
「……野蛮だと?あの真白光が、戦うことから逃げた?」
この少年の中で、私は一体どんな野蛮人になっているのだろう。ちょっと頭開いて調べて見たいね。しかしそんなことを考えながらも、私は立派な美少女なので表には出さない。1度確立したイメージは崩さない方がいいからね。特にそれがいいイメージであればなおさらに。
「……あのね、あなたがどんな勘違いをしているのかは知らないけど、間違いないのは、私はあなたが思っているような人じゃないよ。決闘なんて、考えただけでも怖いし、そういう危ないことはしたくないの」
実際には、何となく見当はついているけどね。私が人を倒すことで喜ぶバトルジャンキーだとか、人の苦しむ姿でよろこぶサディストだとでも思っているのだろう。完全に勘違いである。酷い誤解だね。
「……こわい?あぶない?ふざけんなよ、俺がなんのために空手でスポーツ推薦とったと思ってやがるっ!全部、お前に勝つためだ。地区で一番になって、県大会でもいい成績とって、全国でも戦った。全部お前に勝つためだ!」
なんか、私は知らないところで色々この子も頑張ってきたのだということだけは十分に伝わってきたが、それを伝えるには状況と場所が最悪である。なんで入学早々、半分が知らない人達の中でこんな見世物みたいなことしなきゃなんないんだよ。光ちゃん泣きそう。
「……つまり、何年も一途に磨き上げてきた力で、こんなか弱い少女を蹂躙したいってこと?武道は心·技·体揃ってのものなのに、道場で何を学んできたの?」
思わず素の疑問が漏れて、クラスの空気がひとつになる。だって、ずっと空手をやっていたという将太くんの立派なガタイと対照的に、私のママ様譲りは小さくてやわらかそうなもの。これでも多少のココロエくらいはあるが、全国大会に出場する選手に勝てるはずがない。
そんなことは一目瞭然なので、周囲から将太くんに向けられる視線は冷たいものだ。ちゃんとお友達ができるか心配だね。うぐっと言葉に詰まった将太くんに、再度決闘はしないと伝えて席に座る。迂愚は君だよ。せめてこんな場所じゃなくて、ちゃんと呼び出してくれればもう少しやりようはあったのに。
「……なんか入学早々災難だったね。あたし、
私にこれ以上取り合う気がないと理解するや、すごすごと引き下がっていった将太くん。そんな将太くんを見送ると、背中からつんつんと突っつかれて、後ろに座っていた少女が名乗る。なんだてめえ、見ない顔だな。外部組か?
まあねと曖昧に濁して、私もお返しの自己紹介。真白光、15歳です!
わー!苗字も名前も両方名前みたい!一緒だねっ!とキャッキャして、そのまま少し雑談をする。ところでこの子、将太くんとのやり取りの直後に何も気にせず話しかけてきたのよね。普通ならちょっと躊躇すると思うんだけど、メンタルお化けなのかな?
こいつはやべー人材かもしれぬ……と考えつつ、お話が上手なのか、会話をしていてとても落ち着くのでそのまま続ける。なんだろう、カリスマとかそういうものなのかな?話していると警戒心が解けていくというか、ふしぎと懐かしい気持ちになるというか、とにかく落ち着くのだ。何この能力、人と仲良くなるのに最適じゃないか。私も習得したい。
仲良くなればたくさんの才能を間近で楽しめるっ!という転生者として当然な思考回路によって、私はこの少女、美保さんの話し方を学習しようとする。抑揚の付け方、声のトーン、たしかに少し癖があるものだが、かつて調べた資料と一致するものではない。高度なテクニックによるものではなく、天然物のタラシだということだろうか。それともなんだ、また1/fか。ゆらぎがそれほど高尚か。
内心若干荒ぶりつつ、完璧美少女のツギハギキメラネコを被った私は笑顔のまま話す。お話するの楽しいね。これは智洋くんにはわからない楽しみだろう。勿体ない。
なんかヒカリちゃんとは初めてあった気がしないなー、なんてナンパみたいなことを自然と口にする美保さん。距離の詰め方すごいね、それともこれくらいが自然な少女なのかと舌をクルクルしつつ、初めてあった気がしないのはこちらもだと返す。……本当にはじめましてだよね?私が知らないだけで昔会っていたなんてことは……ハイスペ脳みそにも残っていないからないのだろう。不思議だ。
ひょっとしてこの子が私の運命の相手……?なんて脳内お花畑みたいなことを一度考えて、私の運命ならもっとキラキラしているはずだと考え直す。うちの高校に入れた以上そこそこ優秀ではあるのだろうが、見たところなにかすごい才能を秘めているようには見えない。極端に仲良くする必要は、きっとないだろう。
それならばもっとそれなりの対応をするよう心掛けないと、向こうからズッ友認定されてベッタリくっつかれても面倒だ。私にはおやつくんがいるし、別のクラスにはなったが唾をつけている聡くんもいる。予想外の再会だったが、先程の将太くんだって、スポーツ推薦で来たということはそこそこ才能があったのだろう。ほかの外部組にだって才能は溢れているかもしれないし、時間と手が余ることはないのだ。オトモダチとの関係は、それほど固くない方がいい。
そうなるとどこかでこの心地良さを手放さなくてはならないのだなと少し残念に思いながら、話しているうちに時間が経って、やってきた担任の先生の話を聞く。まぁ、先生の自己紹介と、入学(進学)おめでとうの言葉、そして入学式について一つ二つお話があるくらいだね。なんだか妙に視線を感じるのは、私が絶世の美少女で驚いているから……ではなく、因縁のある数学教師だからだ。先生さぁ、女生徒のケツ追っかけ回して恥ずかしくないわけ?私ならそんな恥ずかしいことできないなぁ。
担任と、将太くんと、美保さん。進学そうそう不安なものが盛りだくさんだね。このやろう、一体私が何をしたって言うんだ。私がしたことなんてせいぜい、100点阻止問題を毎度正解したのと、幼少期の多感な時期にネッチョリ負け癖染み込ませたのと、その他有望な青少年の性癖をゆがませたことくらいだぞ。悪いことなんて何もしていないのに、なんでこんな目に……一番最後はともかく、上二つは本当に悪いことしてないのにね。なんでこんなに目をつけられたんだろう。とても理不尽だ。
正直なところ、恨まれるような心当たりなんて、家族と智洋くん、あと若干聡くんと、ネットのキラキラ未満くらいしかない。家族は私のことを恨むようなことはないだろうし、智洋くんは気にする必要も無い。聡くんだって同様で、キラキラ未満に関しては私のことを見つけることすら出来ないだろう。つまり心当たりは無いね。私は清く正しい優等生、みんなだってそう思っている。
やっぱり私は何も間違えていないなと再認識して、入学式のありがたいお言葉を聞く。半分以上定型文のツギハギな在校生代表挨拶に、毎年同じことを言っているであろうPTA、そして皆さん長話は飽きるでしょうから端的にと言いながら、やっぱり長い校長先生の挨拶。おそらくどこの学校でも見ることが出来る、入学式の定番だね。
そんなことを考えている私がどこにいるかと言うと、新入生代表の席だ。入学式の座席の一番前のど真ん中、本来なら中等部で生徒会長をやっていた子が座るべきだった場所で、なぜだか座らされてしまった。他の子が辞退しちゃったし、私は首席だったからね。外部生へのアピールという意味でもちょうど良かったし、これを逃せばこんな機会はもう来ないだろうから引き受けた。私はまだ才児だけれど、そろそろそれも厳しくなってくるだろう。予想よりも捗らないキラキラ探しに、私は危機感を持っていた。
少し待っているとお名前を呼ばれて、元気にはいっ!と返事をする。壇上に上がれば、渡されたカンペをポイッと置いてご挨拶。内容自体は先生が考えてくれたものだね。自分で考えて話すのもいいかもしれないが、当日突然任されたのだからユーモラスなスピーチの準備なんてしていないのだ。
無難に話し、唯一入れた個性はキラキラの才能を探していますアピールくらい。そんなものでも拍手が校長先生より大きかったのは、ママ様譲りのお顔パワーのおかげだね。やはりルッキズム。つよつよ顔面は全てに勝る。
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久しぶりに短編書いたよ(╹◡╹)
3/4に公開するよ(╹◡╹)
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