取り返しのつかないくらい性癖をぐっちゃぐっちゃにされた少年は立派な姿になりました。感動で涙が出そうだね。

 智洋くんおもちゃで遊ぶ時に、気をつけなくてはならないことはなんだろうか。定期的にメンテナンスをすること?壊れないように付かず離れず見守ること?それとも、勝手に動き出しても逃げられないように、カゴの中に閉じ込めておくこと?


 どれも正解であり、間違いなく気をつけなくてはならないことである。常日頃からこれに気をつけていれば、おもちゃが突然壊れることも、いつの間にかなくしてしまうこともない。長期的に使おうと思うのであれば気をつけるべきことだね。


 けれど、私だけの智洋くんおもちゃで遊ぶ時は、それだけじゃなく気をつけなくてはならないことがある。それはズバリ、かけた負荷に合わせて適切な期間、休養を与えることだ。その辺で買えるおもちゃとは違って、とっても特別で平凡な私のおもちゃは、生きているのだから。ストレスが強い環境にずっと置いてしまったら、壊れなくても歪んでしまう。私は変わらないおもちゃで遊びたいので、そんなことを許すわけにはいかないのだ。……だって、何をしても反応しなくなった菩薩のような智洋くんで遊んでも、なんにも楽しくないでしょう?擦り切れてしまった智洋くんなんてカスだよ。極めて無価値だ。


 そんなわけで、ものを大切にするタイプの私は泣く泣く智洋くんを休ませることにした。まるで宝物みたいに扱って、定期的に磨く。あんなにしょっちゅうやっていた、勝手に勘違いをさせて誤解を解くこともやめて、私はまるで真人間である。……聡くんへの粉掛け?やめるわけないじゃん。キラキラの才能に唾をつけるのが私の目的で、智洋くんはあくまでおやつなのだ。キラキラ候補である聡くんはもちろん好感度を維持しているし、ほかの雌に目が行かないようにアピールしているよ。それを見た事で智洋くんがまた曇るのはまぁほら、つまみ食いだからしかたがない。


 私は価値が失われる瞬間の輝きで生きていて、智洋くんはそこまでじゃないけどじんわり暖かい光を放つ暖房みたいなものだ。私が真人間を装うためには、智洋くんの犠牲か、芸術品の犠牲、あるいはそれ以外の犠牲が不可欠なのである。そんな私から智洋くんを取り上げるのは、外道に落ちろと言うに等しい。やっぱり智洋くんは最高だね。ほかのキラキラが手に入ったらもういらないから躊躇なく捨てるけどね。


 というわけで、最低限しか栄養を取らずに長い時間を過ごした私は、たいへん飢えている。お腹と背中がくっつきそうだ。オオカミ耳としっぽをつけて、オナカスイターと叫びたい。……どこかに需要ありそうだな。まぁ、美少女はどんな姿でも美少女だから、需要が消えることはないだろう。……美少女は金塊だった?


 さて、私が智洋くんに擬似ネトラレを体験してもらって、そのお代として脳みそをちゅるちゅるさせてもらった時から、早いものでもう一年以上が過ぎていた。あれが中学二年の二学期中盤で、明日からが高校一年生のピッカピカの時期だと考えると、長いものだね。転生者の時間感覚ではあっという間だったが、一周目の子達にとってはきっと遡ることすら難しいほど昔の話だ。つまり智洋くんはもうすっかり過去のことは忘れて元気になっている。そういうことだね。そういうことにしようよ。そうじゃなければ、私の体が持たないからね。


 というわけで、可愛い制服に着替えた私である。中学二年の時と比べて、なんと身長が一センチも伸びた私だ。ちょうどママ様と同じサイズになって、不思議なことにスリーサイズまで一緒である。……なんで肌の質感とかも一緒なんだろう。ママ様って、パパ上が犯罪者でなければ私の倍以上は生きていて、三十路を超えているはずなのだ。そのはずなのに、親しい相手でなければ代わりに学校に行ってもバレないであろうレベルでそっくりなのは、やっぱりママ様がただの人間ではないからというのが一番しっくりくる説明だね。ところで、ママ様に追いついたということはつまり私もここで成長が止まるということな気がするのは気のせいだろうか?……うん、気の所為じゃなさそうだね。


 ということは、パパ上はギリギリJKな見た目のママ様を手篭めにして二人分も種を仕込んだということになるわけだ。ロリコンさんかな?……15歳はロリじゃない!って?うるさいなぁ、ロリータ原理主義者は黙ってろよ。こっちは定義ではなく俗語の話をしているんだ。由来的には〜と少女特有の下品さを求めるのも、突然話をニンフェットに移行するのも、ナンセンスである。


 結局大切なのは、私が変わらずロリロリであり、ママ様もロリロリであり、妹ちゃんもロリロリであるということ。この家にはもう、男成分がないのかっ!Y染色体がありません。やっぱりママ様か、それか私たち姉妹って遺伝子がどこかおかしいよね。それかそういう星の元に生まれてきたのか、……どっちでもいいやっ!


「光っ!お弁当のふりかけ、鮭とのりたまどっちがいい?」


 ちょうどよく、下から声をかけてくれたママ様に、のりたまっ!と元気にお返事をする。私の生まれはどちらでも良くても、お弁当のふりかけは大切だ。私の通う学校では、高校からは給食はなくなって、お弁当になる。最初は完璧美少女としてお弁当も自作しようと思ったのだが、ママ様たっての希望でお弁当保作ってもらうことになった。普通ならお弁当作りって面倒くさがってなるべく避けようとするもののはずなのだが、愛しのママ様は娘のためにできることが少なくて悩んでいるらしい。ちょっとはお母さんらしいことさせて!との事だ。ママ様はにこにこしているだけで十分なのにね。健気なママ様愛おしいよママ様。


 朝からママ様が愛情を込めて作ってくれたかわいいお弁当を、宝物をしまうようにカバンに入れる。えへへっ、お米の一粒も残らないくらい、舐め回すみたいにピカピカにして返すからね。……冗談だよ。美少女が食器を舐めるはずないじゃない。はしたない。


 なお、舐め回すのは冗談でもピカピカにして返すのは本当だ。食べ終わった後そのままだとカピカピになっちゃうから、軽く水道ですすいでおこうと思っている。光ちゃんは家庭的で親孝行なのだ。本当に親孝行なら性癖捨てろよ、外道。



 さて、ママ様に行ってきますを言ったら、そろそろお家を出る時間。ホームルームまでだいぶ余裕がある時間に出るのは、以前から変わらない習慣だね。元々智洋くんを起こして学校に連れていくために始めたことで、幸いなことに高校も一緒になったから継続することになった習慣でもある。朝美少女が迎えに来て、家でくつろいでいってくれるだけでも、血反吐を吐く思いで受験を頑張った甲斐があったのではなかろうか。まあ、一番頑張っているのは変わらず残業祭りなお隣パパかもね。智洋くんが私の幼なじみにならなければ、普通の公立の中高に通っていれば、彼の日常はもっと家族と穏やかな時間を過ごせるものだっただろう。かわいそう。


 いつも通りピンポンを鳴らして上がり、今日は珍しく起きていないらしい智洋くんの部屋に向かう。起きてこないなら、起こしてあげなきゃだもんね。これは幼なじみの責務なのだ。


 音を立てないように扉を開けて、少年の部屋にしては綺麗に整理整頓されている部屋を、抜き足差し脚で歩く。ちなみに智洋くんにお片付けの習慣が着いたのは、いつ幼なじみが凸ってくるかわからない緊張感によるものである。朝ごはんをちゃんと食べるのも、無遅刻無欠席なのも、ワイシャツに自分でアイロンをかけるのも、全部私の影響だから、智洋くんが要素だけ見たら好青年なのは私のおかげだね。


 やはり美少女幼なじみにふさわしい人間になろうとすることは、少年の健全な生育に好影響を与えるのだなと再認識したところで、たまには不健全な影響を与えるべく少年のベッドに乗る。子供の時からずっと使っている、少し古くなったベッドは、羽のように軽い私の40kg弱で軋んだ音を立てる。なるべく軋ませないように重心を移動させつつ智洋くんの上にマウントポジションを確保すれば、布団から飛び出ている頭に顔を近付ける。どこからどう見ても不健全だね。


 私の長い髪がこぼれて、智洋くんの顔に広がる。サラサラでふんわりいい香りがして、こそばゆい感覚。一瞬ムズがるような表情になった智洋くんはすぐに目を覚まし、乱暴されかけた生娘みたいに声にならない悲鳴をあげた。


「おはよう、ひろちゃん。早く起きないと学校遅れちゃうよ?」


 こういうイタズラは、ベッドに潜り込んでやってもいいのかもしれないが、私の中の基準では特別な関係でもない男女が七歳を超えて同じお布団に入ることはけしからん不健全行為なので我慢。というか上乗りになるだけでこの反応をする智洋くんにそんなイタズラしたら壊れちゃうだろ!……もう壊れているか。


 きっと頭以外のものも起きてしまった智洋くんに追い出されて、仕方がないのでお隣ママとのお茶の時間を楽しむ。お隣ママ、お隣パパが忙しすぎてあんまり構ってもらえていないせいか、ちょっと未亡人っぽさがあるんだよね。とてもエッチだ。


 うんうん、それはお隣パパが悪いね。光ならそんな思いさせないのになー、と相談に乗っているうちに、野生の智洋くんがご飯を求めて巣穴お部屋から降りてきたので、続きはまた明日ねとお隣ママをオアズケにしてご飯を食べさせる。まったく、そんなに急がなくても卵かけご飯は逃げないよ。時間になったら私は逃げる先に行くけどね。


 置いていかれないように急いだ智洋くんを連れて学校に向かい、これまでの校舎の隣に入る。私立エスカレーター進学校くんは学校の場所が変わらないから楽でいいね。ついでに新しい学友も半分くらいは内部進学だから、緊張感もない。人間関係に悩みがない人からしたら最高の環境ではなかろうか。


 自分のクラスを確認するために掲示板を見て、もはや呪いかのように毎度同じクラスになる智洋くんと一緒に教室へ向かう。学校側に何かしらの圧力をかけるとか、そういうことはしていないのにいつも同じなの、面白いよね。多分私以外に友達らしい友達がいない智洋くんに気を使っているんじゃないかな。この子、私と別のクラスになったら学校来なくなりそうだもんね。


 高所の外見や内装やらはほとんど中等部と変わらないため、迷うこともない廊下を歩いて、目的の教室に着く。私は顔が広いから、クラスの半分は知り合いだね。内部進学の人が半分だから、知らないのは外部から来た人たちだけである。


 高校でもよろしくねー!とキャッキャしながら挨拶を済ませて、指定された席に着くと、どこからが現れたひとりの少年が私の席の前に立った。知り合いじゃなさそうだし、ホームルームが始まる前から告白だろうか。みんなの前でだなんて、随分恥をかきたいようだな。それとも体格が立派だから、私が怖がって言うことを聞くとでも思ったのだろうか?


「……真白光っ!俺と決闘しろ!」


 なんて断れば一番角が立たず、勝つ脈ナシであることを伝えられるかなと考えていると、目の前の少年はそんな突拍子のないことを言った。周りもびっくり、智洋くんもびっくり、私もびっくりだ。なんだコイツは、頭でもとち狂っているのではないか、それとも決闘と結婚を言い間違えたのかな?どちらにせよ狂ってやがるぜっ!と考えたところで、私はある事実に気がつく。


 この子、私がカラテ少女だった頃に、いつも敗北の味を教えていた将太くんだ。

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