壊れかけの脳みそを回復させるにはどうすればいい?……某喋るお饅頭はオレンジジュースで回復するよね。つまりはそういうことだ。……幼なじみくんの脳みそはお饅頭である

 ママ様に心配されて、妹ちゃんに心配されて、ついでにパパ上からも気をつけるようにと言われる。みんな光のことが大好きなんだね。心配かけてごめんね、光もみんなのこと大好きだよ。


 お隣のおうちとは対照的な、みんなが優しい素敵な晩御飯。家族がみんな揃って、お互いのことを思いあっている。どこにでもあるような、けど間違いなく素晴らしい光景だ。なおお隣さんは今頃、明らかに体調を崩しているはずの一人息子がそれをがんとして認めず、更には玄関で吐いていた事実までわかってプチお通夜状態だろう。その心配事、明日には解決してあげるから安心してね。……え?智洋くんが精神を病んで大変なことになるとは思わないのかって?やだなぁ、彼の許容範囲くらいしっかり理解しているし、十分にマージンも確保している。たしかに今回のことは予想外だったが、工場生産で言えば管理値を超えたくらいのもの。SPEC値には収まっているから、今後調整すれば問題ない。


 品質保証には余念がない私の想定を越えることなんて、先ず起こりえないさ。もし越えたとしても、智洋くんは自分の中で理解を固めるより先に、私に確認を取ろうとする。多分お隣ママを私が手にかけて、それがカメラに映っていたとしても直接私から聞くまで受け入れられないんじゃないかな?だいぶ重症、盲目的だね。でもそれくらい一途な方が扱いやすくて便利だよ。


 そうやって余裕をこきながら楽しい家族の団欒の時間を過ごして、2日連続木工をして疲れたおててを休めるために、のんびり宿題を終わらせる。あとついでに妹ちゃんのお勉強を見るのもね。


 やることが終わればのんびり才能探しをして、ついでに偶然想い人から木彫りの顔とメガネを貰った少年のアカウントを見つける。フォローして見ているぞと送ってもいいけど、こうやって普通に呟いているということは隠れる気がないか罠かのどちらかで、そのどちらであってもこの場で普通に反応してしまうのは面白くないのでスルー。そんな頭おかしい人間がいるわけないだろ!とかリプが送られているの、見ていて面白いね。いるんだよ、そんな頭がおかしいTS美少女が、ここに。


 そんなことを考えながら、大したものが見つからない探し物を終わりにする。いつも代わり映えのないネット、なんだか寂しいね。そろそろ何か面白いことでも起きればいいのに。代わり映えしなくてもそこそこ満足できるのは面白いおもちゃがある現実くらいだよ。そう考えると、やっぱり私に対する智洋くんの活躍ってすごいね。私が暇していないのはだいたいこの子のおかげなわけだし、ちょっとくらいお手入れをしてあげてもいいかもしれない。おもちゃは定期的なメンテナンスによって寿命を伸ばすからね。長持ちしてもらうためにも、そうするべきだろう。


 そうと決まれば、明日はただ誤解を解くだけではなく、もう少しなにか別のものもあった方がいいだろう。ちゃんと私が智洋くんのことを大切に思っていると伝わるような何か。うーん、手作りのものはもう何度かあげているし、お菓子を作るには少し時間が遅い。ちょっとした小物くらいならできるだろうが、そうなると聡くんに贈り物をした時の匂わせぶりな様子と矛盾が生まれてしまう。


 なかなかに、難題だ。全ての要求を満たして、かつ私が智洋くんとの関係を直接的に決定つけるものではないもの。……なんだよそれ。そんなもの本当に実在するのか?


 しかし、思いつかないからと諦めるのもTS転生者の名折れ。ピンク色の脳細胞をフル搾りして何とかアイデアを出し、智洋くんへのご褒美なんてお手手繋いであげれば十分じゃね?と結論付ける。サイゼで喜ぶ云々どころではなく、手をつなげば脳が回復する智洋くん。どこまで私に都合のいい少年なのだろうな。


 というわけで方針を決めれば、翌朝には心配して送ろうとしてくれるママ様を大丈夫となだめて、お隣のおうちへGO。よくなったって言ったのは嘘じゃないのよ。ちゃんと、昨日みたいに支えが必要だったり、立ち上がる時に掴まる必要があったりな状態は脱したの。まあ必要ないだけであった方が楽だから使いはするのだけどね。だからママ様に心配かけるんだよ。反省しろ。


 いっけなーい!と頭の中で考えながらお隣をピンポン、お隣ママに迎えられて、智洋くんの調子が良くなさそうだけど何か知らないかと聞かれる。うん!光知ってるっ!ひろちゃんは今脳みそグッチャグチャにされてるんだよっ!……なんて言えるはずもないので、わかりませんと心配だから今日はよく見ておきますねを伝える。昨日まではちょっとやることがあったからあまりひろちゃんのこと見てられなかったんです、と申し訳なさそうに言えば、私以上に申し訳なさそうにいつもごめんねと謝るお隣ママ。元凶よりも申し訳なさそうにしているその姿は、やはり素敵な親なのだろう。ママ様が一番だけどねっ!


 少しして、降りてきた智洋くんを見れば、二日くらい断食したのかな?と思うほどげっそりしていた。そういえば昨日の朝は食欲がないと言って食べていなかったし、給食のシチューはゲーゲーしちゃっていた。その状態で晩御飯をまともに食べられるとは思えないし、まるっと一日は抜いていると考えてよさそうだ。……今日も元気に学校に行く気があるようでよかった。私がテコ入れできないと少し危なかったかもしれないからね。


 朝も食欲がないと言っている智洋くんを前に、お隣ママとアイコンタクトで会話を済ませて、歯磨きと着替えの間におにぎりを用意しておく。朝から美少女幼なじみの手作りおにぎりが食べれるなんて、智洋くんの果報者めっ!とはいえ今作ったから食べろと言っても無理だろうから、食べさせるのは私の仕事だね。智洋くんが戻ってくる前に、ペットボトルのお水と一緒にカバンの中に忍ばせて、戻ってきた智洋くんと一緒にお隣宅を出る。


 少し足を庇うように歩く私と、それを見て脳破壊が促進される智洋くん。そろそろ回復させないと性癖に後遺症が残りそうなので、急いだ方がいいな。……ダメよ光っ!いくらギリギリまで楽しみたいからって、チキンレースに手を出すのはっ!智洋くんの性癖は後遺症が残ったら取り返しがつかないのよっ!……へっへっへ、取り返しがつかないからこそ興奮するんじゃないかっ!一度きりしかない瞬間、目の前で迎えて欲しいだろう?


 頭の中で悪魔と天使が言い合っているのを聴きながら、智洋くんがアクションに移るのを待つ。私から昨日は何もなかったよ!ってアピールするのは簡単だが、そうするとどうしても不自然さが残ってしまうからね。智洋くんに聞かれて、私が答える。そうあるべきなのだ。


「……昨日、何してたの?なんで、歩き方がおかしいの?」


 ポツリと、顔を下に向けたまま、つぶやくように、咎めるように聞いてくる智洋くん。その質問を待っていた!ちょっと聞き方がしっとりして、粘度が高くて気持ちいいね。いいよ、私はそういうのが大好きだ。


「昨日?……昨日は一緒に帰れなくてごめんね。ちょっと聡くんと約束があったの。その時にちょっとはしゃいで転んじゃって、実は太もも打撲しちゃったんだ」


 ここで拒絶するようなことを言ったり、距離をとるようなことを言えば智洋くんは壊れてしまうので、おやつを長く楽しみたい派の人はやめておこうね。私も、“ひろちゃんにはそんなこと関係ないでしょ!”とヒスって見せたい気持ちを我慢して、智洋くんの誤解を解くために話していく。私は長女だから我慢できたけど、次女だったら無理だったかもしれないね。


 スカートの端をつまみながら、ちょっと青痣になってるんだよ、見る?と誘うように聞いてみると、純朴な少年は少し顔を赤くして目を逸らした。やっぱり期待通りの反応を見せてくれる智洋くんは最高だね。


「……その、約束って何?僕がいないところで何をしてたの?」


 智洋くんが一番聞きたいのは、私が手篭めにされたんじゃないかというところ。けれど普通に考えて、大好きな幼なじみに対して素直に、“お前あいつにヤられたの?”なんて聞けるはずもない。直接聞けないから、こうやって迂遠に質問するんだね。私はそれを理解してあえて回答をそらそう。性格悪いね。


「約束については、私から言えるのは変な事じゃないってことくらいかな。それともひろちゃんは、私に秘密も守れないひどい子になれって思う?」


 苦虫を噛み潰したような表情になる智洋くん。何から何まで分かりやすくて素晴らしいね。そのままいくつかの質問に答えて、ハジメテ云々以外の誤解を一通り解く。それに伴い下がっていく湿度と粘度。あっさりさっぱりが好みの人はこっちの方がいいのかもしれないけど、私としては少し物足りないね。


 さて、これで誤解は解けてみんなハッピー!まさかそんな勘違いをしていたなんて、ひろちゃんってばお茶目さん。光も今度から勘違いされないように気をつけるね。……なんて、終わってしまってもいいのだけれど、どうしても終われない理由が智洋くんにはある。そう、私のハジメテ発言についてだね。私の調教のおかげできっとユニコーンには育っていない彼だけど、それでも好きな子の貞操を心配するのは仕方がない。誤解が解けるにつれて、今度はそっちの心配の方が大きくなるのもまた、仕方がない少年心だろう。私だってママ様の貞操には興味があるからね。きっとママ様は純潔を守っているはずなのだ。パパ上?誰のことだろう。ママ様は処女懐胎で私たちを産んだんだよ。だから私たちはママ様そっくりなんだ!……そうか、私は無性生殖の賜物であったか。


「……ちなみに、その、ハジメテって言ってたのは大丈夫なの?やっぱりひどいことされたんじゃないの?」


 私が自らの体に流れている血の半分を否定しようとしていたところで、ようやく勇気を出したらしい智洋くんが、ずっと気になっていたであろうことを聞いてくる。とりあえず、“……どこで聞いてたの?”と返して、空気をピリつかせる。そりゃあ当然だよね。私が呼び出された時と、私が呼び出した時、そしてお家の前でしか言っていない言葉を、その場にいなかったはずの智洋くんが知っているのだ。私は知られていたことも知っているが、そうでなければプライバシーの侵害である。……どちらにしても盗み聞きだったね。智洋くんっ!アウトっ!


 慌てた智洋くんが、お出かけのために家を出ようとしていたら偶然聞いてしまったんだと弁明する。表情の感じを見るに、嘘をついているわけではなさそうだ。ということは昨日の偶然は、智洋くんのお買い物によって生み出されたことだったんだね。そんなのもう、運命じゃないっ!やっぱりあなたは、なるべくしてこうなっているのよっ!


 呼び出し分の盗み聞きは隠すつもりなのだなと理解して、けれども私がそれに言及することも出来ないので、そのことはスパッと忘れる。1、2のポカンっ!光ちゃんはどうでもいいことを忘れた。そして何も覚えなかった!


「……ハジメテって、ひろちゃんが想像しているような変なものじゃないよ。ただ、私の趣味が智くんに知られちゃったから、口止めのためにこれまで他の人にはあげたことがなかったものを作っただけ」


 何を上げたのかはひろちゃんにも秘密だよ、でも!もしひろちゃんが気付けたら、その時にはひろちゃんにも同じものをあげるね。そう言うと、智洋くんは緊張の糸が切れてしまったみたいに肩を落とす。そんなに緊張していたの?あと、私の秘密と言って期待しているみたいだけど、アカウントを見つけたところで送られるのは1/5スケールの君の頭だよ。……そんなに欲しいか?


 ところでこの言い方だと、私が趣味でエッチな動画でもネットで公開していたのなら、智洋くんの想像通りのものを聡くんにあげていたということになるよね。そして私はそのことを直接否定していないから、仮にそうだったとしてもこれで智洋くんのことを騙せたわけだ。光ちゃん、いいこと覚えちゃった!


 安心したらお腹がすいちゃったという智洋くんに手作りおにぎりを食べさせて、ついでにお水も飲ませる。おみずおいしい?おいしいね。よかったね。あとはちょっとメンテすれば、また智洋くんで遊べるくらい回復するな。


「ひろちゃん、私で変なこと考えた罰として、今日は一日私の杖になってもらいます。実は見てのとおり、まだ歩くとちょっと痛いんだ。……いや、かな?」


 そう言って、智洋くんのお手手をぎゅっと掴むと、少年の脳みそは回復した。よかったね。また遊ばせてね。

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