貰っても困るような贈り物を喜んで受け取ってもらう方法がある。TS美少女になって贈ることだ。

 木になっているところ


 誤字はエピソードの元(╹◡╹)


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 ハイスペTS美少女である私が、自らの秘密を知られたことで差し出すご褒美、口止め料とは、一体どんなものだろう。一つだけ間違いないのは、乙女にとって準備に時間のかかるもので、私にとってハジメテであること。うん、つまりは木工だね。……えっ?貞操?あのさあ、普通に考えて、どこの世界に木工細工の趣味がバレただけで貞操を捧げる美少女がいるわけ?そんなのがいるとしたら間違いなく最初からそれを口実にしようとしている痴女だし、その理屈で言えば私のハジメテの相手はママ様になるよ。……どうしよう、ちょっと悪くない気がしてきた。


 そうなると二人目は妹ちゃんで、三人目がパパ上になるのか……と考えたところで、ママ様以外にうつつを抜かすパパ上とか生きている価値がないなと冷静になる。ついでにそのシチュエーションを想像したことで、パパ上への好感度ががくんと下がった。いつも家族のために頑張って働いているのに、現実って理不尽だね。


 盗み聞きをしていたせいで、待っていてと言った下駄箱にいなかった智洋くんのことを放置しておうちに帰り、早速木工作業に取り掛かる。ぷにすべおてて維持のために決めたルールには背くことになるが、約束したのだからなるべく急ぐのは当たり前である。


 用意するのは、聡くんへの贈り物。言葉の通りちゃんとハジメテで、それでいて木工趣味バレにはちょうどいいくらいのもの。まあ、つまりは木工作品だね。別にお絵描きでもいいけど、それだといまいちしっくり来ないだろう。


 というわけで今回作成するものは、1/5スケール聡くん人形(木製、顔のみ)である。分かりやすくてちょうど良くない?……よくない?もらっても困る?うるさいなぁ、私がいいと思えばそれが最適解なんだよ。部外者は黙ってろ。


 なお、1/5スケールなのは手元にある木がそれくらいしか無かったから。もう少し小さいサイズで良ければ全身分作れるのだが、そこまでするのは少しとても面倒くさいし、それ精密な作業が必要になるからやだ。大きいってことは大雑把でも大丈夫ということだからね。ちっちゃいって素晴らしい。つまり小柄なママ様かわいいし私と妹ちゃんの将来は約束されている。


 とはいえ、いかにハイスペな私でも、一日で人の顔を作りきることなんてできない。……本当に一日あれば余裕でできるけど、放課後の時間って結構少ないからね。そうなると自然と、何も用意できていない状態で会わなきゃいけないことになるわけだね。


 一睡もできていないのか、目の下にすごいクマがある智洋くんを、少しよそよそしく起こして、学校に連れていく。智洋くんは何か聞きたそうにしていたけれど、私がそれを聞いてあげる義理はないから放置。酷いやつだな、私。ちなみに話をそらす時はちゃんと裏垢バレて脅されている美少女が好意を寄せている幼なじみに隠そうとしているムーブを継続しました。かわいいな、智洋くん。


「……おはよう真白、昨日のことな」


「その話、今はやめよ?今日数学の小テストあるし」


 いつものきっしょい挨拶をすることなく、朝私が教室に入るなりすぐに声をかけてきたのは聡くん。その話の途中で遮るように、顔を少し背けながら答えると、友達からそんな態度を取られたことのない聡くんは何も言えなくなってしまった。私がこれまで優しく明るく接してきたおかげで、他に友達のいない聡くんはお豆腐メンタルなのだ。よわよわだね。なお、そのやり取りをすぐ横で見ていた智洋くんは脳みそが壊れるのを嫌がるように小さく頭を左右に振っていた。受け入れ難い現実と壊れそうな脳みそ をレッツ・ラ・まぜまぜ!おいしいおやつ!できあがり!気分は本人にバレないように脳みそを横から味見する宇宙人。なんかそういう寄生虫いたよね。……TS転生美少女は寄生虫だった?こんなかわいい子に寄生されて養分になれるなら本望だろっ!喜べよっ!


 今にも死にそうな顔をしている智洋くんに内心喝を入れつつ、実際に喜ぶのはこの子にはまだ難しいだろうなと冷静に判断する。だってまだ寝とられ性癖持ってないもんね。将来のことを考えると開発しておいた方が良さそうなのだが、変に開発してしまうと妹ちゃんに払い下げる時が心配なのだ。脳破壊でしか気持ちよくなれないパートナーを受けいれた人はだいたい尊厳を失うからね。私は愛する妹ちゃんをそんな目に遭わせるつもりはない。寝取られるなら私が寝とる。


 そんなことをかんがえつつ、聡くんに言い訳した手前普段はしない数学の小テストの準備をする。準備と言っても教科書を眺めるくらいで、普段予習復習をしっかりしている私には必要のないものなのだけどね。まあ、聡くんと話さないようにするための言い訳だから仕方がない。


 普段なかなかないレベルの無駄な時間を過ごしつつ、あの真白さんが用意するなんて今回の小テストはやばいんじゃないか……?と教室の空気を引きしめる。ごめんね、たいした意味はないの。でもこの空気なら聡くんもより話しかけにくいだろうし、OKです。


 その空気のまま授業が始まって、4時間目は件の小テスト。なんかみんなやる気十分で面白いね。なお、私に対抗心を持った教科担当のせいでやたらと難易度が高かった小テストは、私以外満点なしという結果に終わった。先生はぐぬぬ顔、普段なら解けたであろう聡くんはデバフの効果をしっかり受けたようで、2問ミスだ。君は学力だけじゃなくてメンタルも鍛える必要があるみたいだね。つまり私の完全勝利である。いえーいっ!……中学生と本気で張り合って恥ずかしくないんですか?私は少し恥ずかしいけど、先生は羞恥心なさそうだね。


 小テストが終わればお昼ご飯と午後の授業で、それ以外は何も無く学校は終わる。今日の収穫は智洋くんの脳みそがまぜまぜされただけだね。つまりいつも通りの学校風景だ。日常って素敵。


 今日一日欠片ほども授業に集中できておらず、なんならホームルームが終わったことにすら気がついていない智洋くんを連れて、またもや話しかけてきた聡くんから逃げる。ハイスペ美少女として、約束していたものも用意できていないのに普通の顔して話すとか恥ずかしいじゃん。恥ずかしいでしょ?まぁ、実際はこうして距離をとることで智洋くんの脳破壊と、聡くんのよからぬ期待を促進させるのが目的なのだけれどね。寝かせて熟成することで脳みそは美味しくなるのよ。覚えておきましょうね。


 智洋くんをおうちにお届けして、ママ様が待っているおうちに帰れば私のやることは一つ。昨日の時点で荒削りが終わっていたから、今日は仕上げだね。荒削りと言っても既に聡くんだとわかるのは、私のスキルの高さ所以だろうか。だろうな。つよつよすぎる才能ちゃんがこわい。……うそうそ泣かないでっ!全然怖くない、むしろかわいいから!


 泣き出した才能ちゃんが聡くん人形のお目目をくり抜こうとするのをなだめつつ、ご機嫌をとって仕上げをする。さすがにプレゼントで目をなくした人形(自分の顔)とかあまりにも趣味が悪すぎるからね。ドールアイとか埋め込めばまだリカバリーがきくかもしれないが、無駄な出費と時間がかかるのは望ましくない。


 何とか完成まで漕ぎ着けた聡くんの頭部を 持ち運び用のおがくずに埋めて、ついでに本体であるメガネの作成をする。削り出すのと、ライターで炙りながらの変形。匠の技が光ります。プレゼント完成っ!あとはそれぞれにお手紙を入れておけば、用意は完璧っ!我ながら最高の出来だな。どこからどう見ても木になった聡くんの生首である。芸術の勝利だっ!


 あまりにも見事な出来に、どこの家庭にでもある塩素酸ナトリウムを染み込ませておきたくなりつつも鋼の意思で自らを律する。自分の木像が目の前で爆発したら、きっと聡くんは素敵な表情を見せてくれるけど、今はまだだめだ。未完成なキラキラである聡くんを、こんなところで失うのはもったいない。そう自分に言い聞かせることで何とか我慢をして、聡くん像爆発事件は未遂のまま幕を閉じた。


 そうして無事なままの聡くん像をカバンにしまい、ウキウキのまま翌日学校に行く。智洋くんは昨日に増してクマが酷いね。悪い夢でも見ているのかな?


 まるで無理をしているかのような不出来な笑顔をかわいいお顔にペったり貼り付けたまま智洋くんを心配してみせて、自分の体調よりも私のことを心配してくれた智洋くんになんでもないと言って拒絶してみせる。


「私の悩み事は、ひろちゃんにはどうしようもない事だから気にしないで。そんなことよりひろちゃんの方が心配だよ。顔色もこんなに悪いし、体調が悪いなら休んでいた方がいいよ」


 その時の智洋くんの表情は、さすが私のおやつくんだ。光、色々つまみ食いしてるけど、やっぱりひろちゃんの味が一番落ち着くな。これからも末長くよろしくね。


 学校について、聡くんに放課後時間をくれと言う。ちょっとだけ頬を赤くしながら、照れるように言う姿はきっと周囲から見たら不健全だろうね。ただ顔を赤くしてるだけなのに不健全に見えてしまうのは、普段の行いである。清楚な子が恥ずかしそうにしているのはそれだけでえっちいのだ。


 例によって智洋くんの脳に追い打ちをかけつつ、そのまま一日の授業を終えて、今日は一緒に帰れないから先に帰っていてととどめを刺す。もうやめて!智洋くんのライフはゼロよ!


 壊れちゃったおやつをその場に残して、聡くんと一緒に教室を出る。おやつくんは後で修理するから無問題、聡くんはなにか不健全な期待をしてしまっているらしく、見るからにそわそわさんだね。連れていったのは空き教室。誰も中に入ってこないように鍵を閉めて、カーテンを閉めればムードはバッチリだ。


「聡くん、ちょっとだけ、目を閉じててくれる?」


 恥じらうように言って、目を閉じたのを確認したら衣擦れの音を出しながら贈り物を用意する。ここにありますは箱がふたつ。決して半裸の美少女なんかじゃあありません。残念だったね、聡くん。


 もういいよとつげて、目を開けた少年は豆鉄砲を食らったように呆けて、自分がとんでもない勘違いをしていたことに気がつき赤面する。私は先程までの雰囲気を捨て去って、にっこりいつもの笑顔だ。かわいいね。


「……ハジメテっていうのは、これのことなのか?」


 何かもやもやする気持ちを隠しながら聞いてくる聡くんにイエスと返し、さあ開けてと催促すると、少年は小さい方の箱を先ず開けた。


「聡くんのメガネ、1/5スケールで作ってみたの。記憶だけを頼りにミニチュア作るのはハジメテだったんだ」


 普段はモデルが目の前にあるか、それか最初から想像だけを元に作っているからね。嘘は着いていない。ついでにメガネおきも作ったの!と大きい方を開けるよう催促すれば、聡くんはなんとも言えない表情のまま包みを開く。


 中からこんにちはしたのは、メガネ台こと聡くんの頭部。本体よりもずっと時間と手間をかけた、私も納得の出来だ。


「……メガネ置き?」


 宇宙を背負った猫みたいな表情になりながら、自分の頭部を凝視する聡くん。実は首の下には私のサインが掘られている。作製者として、サインを残すのは当然の権利だからね。……つまり見方によっては、この聡くんは私のモノ!と美少女が主張しているということか?最高だな!よろこべ聡くん。


「よろこんでくれたみたいでよかった」


 にっこり笑いながらそうつぶやくと、聡くんは宇宙を見るような目で私を見た。うんうん、喜んでいるね。喜んでいなくても、どうせ好きな子から手の込んだプレゼントを貰った少年は、喜んでいるように振る舞うしかないのだ。おやつも美味しいけど、やっぱり偏食は良くないよね。

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