幼なじみくんチョコレート、両思いだと確信している想い人が脅迫文を受け取り、その差出人に“ハジメテ”のものをあげると約束している瞬間を物陰から見てしまった(ほろ苦ビター)味

 大切なおやつくんを味わってから二週間ほどたって、さぁ今日もおうちに帰ろう!と智洋くんを引き連れて下駄箱に向かうと、私の外靴の上に一通のお手紙が乗せられていた。わざわざご丁寧にシールで封までしてあってかわいいね。ラブレターかな?


 まさかこんなにも智洋くんの飼い主アピールをしている私に、まだワンチャンあると思っている愚物がいたとは驚きだ。クラスメイトとかある程度仲のいい人達はとっくに振ったか諦められているかだろうから、大して仲良くもない人に一目惚れでもされたかな?まあまあよくある事だ。ママ様譲りのこのお顔だからしかたがないね。


「ごめんねひろちゃん、ちょっと呼び出されちゃったから行ってくるね」


 横で私が手紙を手に取るところを見ていた智洋くんに、しばらく待っていてほしいと伝えて、ちらりと一目で流し読みした呼び出し場所に向かう。流し読み、とは言っても、書かれていた内容は呼び出しの言葉と、お前の秘密を知っているの一言。差出人も書いていないし、普通なら一人で行くはずのない脅迫文だね。ハートのシールを貼って送ってくるんだから、とてもいい趣味していると思う。仲良くなれそうだね。ワクワクもんだぁ!


 ルンルンしながら一人で呼び出の場所に向かい、差出人がやってくるのを待つ。なんで脅迫文もどきを受け取った私がそんなに余裕かって?書かれていた文字で差出人が誰かわかったからだよ。そうでなかったとしても、私が隠しているような秘密なんて生まれ変わっているくらいしかないし、それがバレているはずもない。つまり変なやつが来たら叫んで人を呼べばいいだけ。それに、一人くらいなら多分何とかできるしね。これでも元カラテ少女なのだ。


 空手をやめてしまった事情に関しては一応水溜まりよりも浅い理由があるので、機会があればその時に回しておくとして、今は手紙の送り主。こんな素敵な脅迫状もらうの、光始めてっ!キュンキュンだよっ!


 そんなことを考えながら待っていれば、少し時間を置いてやってきたのはひとつのメガネ……ではなく、メガネをくいっとする少年。つまりは私の近くで1番キラキラを秘めている聡くんだね。


 さて、送り主が現れたところで、私がこんなに脅迫文を送られた理由を考えてみよう。智くんが知っているという私の秘密と、私が実際に秘密にしていること。……うん、重なるものは何も無いので、私が本気で隠していることでは無いだろうね。となればこの子はそんなどうでもいい理由で完璧美少女に脅迫文を送ったってこと!?……かわいそうに……来世ではいいことあるといいね。


 ……なんてことは冗談として、智くんが知っているという私の“秘密”には心当たりがあるし、それを知ったのであれば智くんがこんな呼び出し方をしてもおかしくないなという認識もある。私はハイスペ転生者だからね。呼び出しの理由に検討がつかないとか、目をつけている子に大した理由もなく脅されるとか、そんな惨めなガバはしないさ。


「あぁ、智くんだったんだね。いきなり変な手紙が入ってたから誰からだったのかちょっと心配だったの」


 さて、そんなことはともかくとして、私に対して変な呼び出しを行って、なおかつ遅れてくるなんて所業を見せてくれた聡くんにはお仕置が必要である。私がガワ通りの美少女で、ちょっと心が弱ければ最悪の展開を考えかねない呼び出し方をしたのだ。多少の罪悪感くらい刻み込まないとバランスが取れないだろう。そんな至極当たり前な理由で、緊張が解けたような、落ち着いたような態度をとる。


 Q.脅迫文みたいな手紙を送った相手が送り主が自分だとわかった途端安心したような態度になったらどう思いますか?

 A.めちゃくちゃ申し訳ない。呼び出すにしてももう少し文面考えておくべきだったって反省するし、怖がらせてしまったことに対する罪悪感で潰れそうになる。……でも同時に、呼び出し人が自分なら安心してくれるところに信頼を感じるし、それが嬉しくもありまた危険(♂)として認識されていないのが悔しくもある。


 聡くんであれば、私の反応に対して考えるのはこんなところかな。私の小さな行動でいたいけな少年たちの感情がグッチャグッチャになる。光知ってる、こういうのカオス理論って言うんだよ!


「……あのさぁ……いや、なんでもない」


 なんで呼び出したのが俺なら安心できるんだよ。脅されて変なこと求められるとか考えないの?なんて言いたそうな聡くんに、秘密のこと、だよね?と言葉をかけることで主導権を握る。向こうのペース、想定している順序で会話が進んでしまうと、演出上の問題が生まれるからね。……誰に対する演出かって?私たちのやり取りをもの陰に隠れながら聞いている智洋くんに決まっているじゃないか。


「それで本題なんだが、お前の秘密を知っている。正確には、お前の秘密を突き止めた。覚えてるか?夏休みの図書館の話」


 私が中学生に不釣合いな財源を持っているという話だ。どんな方法でお金を稼いでいるのかは秘密だから、当てられたらご褒美あげるねってやつ。別に本気で隠してるわけでもない、会話の材料として生まれた秘密だね。まさかそこまで気になって、調べていたとは。……ひょっとして暇人なのかな?


「暇人なのかな?って顔やめろ。勉強くらいしかやることなくて暇だったんだよ。それで、お前の秘密、これだろ?」


 結局暇人だったんじゃないか。そう思いながら聡くんが差し出したスマホを確認すると、そこにあったのはヒカリのアカウント。私が才能ちゅるちゅるのためと出来損ないの作品を売る時に使っているやつだね。一回凍結されたヤツ。


「……正解だよ。よくわかったね。まさかこんなにすぐバレるとは思わなかったな」


 私がそう言って感心してみせると、本当は大して隠すつもりもなかったくせによく言うよ……と聡くんは拗ねてしまった。まあ、隠す気はなかったけど、広大なネットの海から私を見つけるのって簡単じゃないだろうから、感心しているのは本当だよ。


「それにしてもすごいな、これ。みんなにも教えてやったらいいのに。きっと興味持つやついっぱいいるぞ」


「やめてっ!お願いだから、誰にも言わないでっ!」


 全く悪意なく、本心からそう思っているであろう聡くん。それに対して少し強めな拒絶を口にすれば、聡くんはあっけに取られたように黙ってしまう。なにか悪いことでも言ったかな?と自分の中で整理しているお顔、かわいいね。


「いきなり声がでけえよ。……まったく、そんなでかい声出さなくても言いふらしたりなんてしないし、言いふらす相手もいねえよ」


 ごめんね、声がデカイのはわざとなんだ。聞かせたい相手がいるからね。しかし、いくら智洋くんの聴力と居場所を把握しているとはいえ、聞こえて欲しいところしか聞こえないように会話をするのは難しいな。聡くんにバレないようにとなると、難易度ヘルモードだ。ちょうどいいくらいだね。……というか言いふらす相手すらいないのね、かわいそうに。


「絶対、絶対に誰にも言わないでね?絶対だよ。……黙っててくれるなら、お礼と見つけられたご褒美にいいものあげるから」


 あー、ご褒美。そういえばそんな話もあったなぁと思っていそうな聡くんが、何くれるの?と、少しニヤつきながら聞いてくる。美少女からのプレゼントに心踊っているのだろうね。


「わ、私の、ハジメテの……うぅ、ごめんね!もう帰る!」


 なんか意味深なことだけ言って、聡くんところから逃げ出す。待てよとかけられる声に、女の子には色々準備があるのッ!と返せば、聡くんは期待でドキがムネムネだね。


 ところで、この会話、所々しか聞き取れていない智洋くんにはどのように映ったと思う?

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