普段どちらかと言えばクールなロリっ子が羞恥に悶える姿を見ることで得られる|n-《ノルマル》シュウチロリニウム

 さてっ!待ちに待ったお泊まり当日である。事前の準備は完璧、おはようからおやすみまで、ゆりかごから墓場まで完璧なおもてなしをご覧にいれましょう。待ったと言っても2日しか待ってないんだけどね。突発的なお葬式が理由のお泊まり会なんだ。一ヶ月前から計画されていたりしたらそれはもう事件だよ。


「ひろちゃん、いらっしゃい!自分の家だと思ってくつろいでいってね」


 ドナドナと入荷されてきた智洋くんを、玄関でお出迎え。お母さんも妹ちゃんも揃って、同じ顔が三つだね。智洋くんはちゃんと見分けがつくのだろうか。


 楽しみにしてたよ!と純粋な笑顔の妹ちゃん。人死由来の出来事を楽しみというのは配慮に欠けるから後でお話。このままここを家にしちゃってもいいのよ?と微笑むのはママ様。智洋くんが反応に困っているけれど、私たちをくっつけようという意図はよく伝わるので表現点二重丸。ママコンビっていつもそうですよね。私たちのことをなんだと思ってるんですか?


「もうっ!お母さんも灯も、そんなにいっぺんに喋ったらひろちゃんが困っちゃうでしょ。ごめんねひろちゃん、ひろちゃんがお泊まりするのすごく久しぶりだから、二人とも張り切っちゃって。さ、上がって」


 同じ顔のふたりにぷくっと膨れて見せて、すぐに取り繕うようににこっとする。まるで膨れている顔を大好きな人には見られたくない乙女みたいだね。もちろん狙ってやっているよ。


 そのまま智洋くんのお手手を引いて洗面所までエスコートすれば、後ろから聞こえてくるのはお姉ちゃんが一番楽しみにしてたのに……という灯ちゃんの声。それを聞こえていないふりをしつつ歩くふりをすれば私の行動もいじらしく見えるだろうね。……なんで聞こえないふりをしているふりかって?私が本気で聞こえないふりをしていたら本当は聞こえてるって気付いて貰えないからだよ。才能がありすぎるこの身が憎い……うそうそ!大好き愛してるよ!だから泣かないでっ!


 聞こえないふりのふりをしながら涙目になって洗面所に着けば、鏡に映った私のことを見て、智洋くんがハッと息を飲みなんとも言えない表情を浮かべた。きっと涙目の私を見たことによる正体の分からない高揚感と、大好きな人が自分のお泊まりを楽しみにしていたというむず痒さと、謎の罪悪感その他もろもろの感情がぐっちゃぐっちゃになって脳みそがオーバーフローしちゃったんだね。またつまらぬもの智洋くんの性癖を壊してしまった。君の性癖壊れてばっかだな。取り繕うのあきらめたら?


 智洋くんの性癖にまた一つ新たな傷、普段どちらかと言えばクールなロリっ子が羞恥に悶える姿を見ることで得られるn-ノルマルシュウチロリニウムが刻まれたところで、私は表情を隠しおめめを拭く。智洋くんの性癖に大ダメージ!シュウチロリニウムはいずれガンにも効くようになるから、この攻撃力も納得だね。効かないガン細胞を持つ生物は全て私が滅ぼそう。


 惜しむべきは、私が生み出せるシュウチロリニウムがノルマルだけだということだろうか。ツンツンクールロリからのsec-セカンダリーシュウチロリニウムも、無表情クールロリからのtert-ターシャリーシュウチロリニウムも、私には作り出せない。キャラ的に無理なんだ。かなしい。


 再度生まれた悲しみで再びお目目に涙が浮かびそうになったのをぎゅっと我慢して、そのまま私もお手手を洗う。泣かなくてえらいっ!光、つよい子っ!


 好きな子が自分と手を繋いだ直後、それを理由に手を洗うという自体に直面した智洋くんはショックを受けたように固まって、自分が汚いからではなく外から来たからだと自分に言い聞かせている。そんなことはないと頭では理解していても、もしかしたらとつい悪い方向に考えてしまうのが智洋くんの面白いところだね。私は好きだよ。


 不要な智洋くんへのイタズラを挟みつつ、お手手がピカピカになったから気を取り直して手を差し出す。やまとなでしこな智洋くんは私がエスコートしてあげなきゃいけないからね。そんな私の想いとは反対に、私の手を掴むことなくリビングに向かってしまったのは智洋くん。かわいい幼なじみのおててに触るのが恥ずかしいみたい。うぶでかわいいね。


 そんなかわいい智洋くんに先に歩かれてリビングに入る。そこで待っていたのは、私たちがお手手を洗っているうちに戻っていたママ様と妹ちゃんだね。気合いの入ったお出迎えはさっきしたから、ゆっくりしていってねと言いながらおまんじゅうを勧めるくらいで、過度なおもてなしはしない。それをするのは私の役目だからね。


 すぐさまそれに手を伸ばす智洋くんに、 これからご飯なんだからおやつはメッ!と叱って、お母さんもっ!とプンスコしてみせると、二人は揃ってしゅんとしながらごめんなさい……と言った。タベテーと智洋くんを誘っていたお饅頭も、ソンナーと心做しかさみしそうである。おまんじゅうがしゃべるなっ!


 玉こんにゃくを焼けたフライパンに押し付ける音が無性に聞きたくなりつつ、でも今回の晩御飯には玉こんにゃくを使わないから諦める。お昼ご飯に使うか……?しかし残念ながら私のレパートリーに玉こんにゃくを使うお昼ご飯はない。そもそも冷蔵庫の中にもないしね。


 諦めながら軽めにサンドイッチを用意するため、使う野菜を一通り冷蔵庫から出す。その様子を見て、なにか手伝うよと名乗りをあげる智洋くんと、灯も灯もっ!と手を上げる妹ちゃん。ここで、君らがいても役に立たないでしょ?と言って曇らせるのはまだ二流だ。総曇り量で計算すればそこそこの数値を出せるけれども、失うものが多すぎるからね。好みもあるから一概には言えないが、お礼を言いつつ劣等感をチクチクするくらいがちょうどいい。


 というわけで二人にはレタスをちぎるのとゆで卵を潰すことを頼んで、その横で私は手際よく野菜を切る。智洋くん、気にしてくれているかな?自分はこんな簡単なことしかできないのに……って思ってくれているかな?


 そう考えつつちらりと横顔を伺うと、リズミカルな音を奏でる私の包丁を複雑そうな表情で見つめていた。智洋くんは包丁使うの苦手だから、こんなに早く正確に切れないもんね。大丈夫、私、専業主婦のママ様より料理得意だからっ!どんなに料理が得意でも調理中に包丁から目を離すなよ。


 テキパキと調理を済ませて、サンドイッチを形にする。私は六枚切りの食パンを半分に切って使うのが好きなんだ。同じ量の食パンで、具をいっぱい食べるた方が嬉しいからね。けど8枚切りは切りにくいのでいや。一度凍らせてからにすれば矩形性くけいせいよく加工できるけど、やっぱりそうするのも面倒くさいからね。必要がなければしないよ。


 食べやすい大きさにちぎってくれてありがとう!と智洋くんを褒め、ちょうどいい潰れ具合だねっ!と灯ちゃんを褒める。チョロい妹ちゃんはえへへと喜んでいるが、智洋くんはお世辞のように感じてしまってあまり喜べていないね。むしろ、自分がやらない方が早かったんじゃないかという表情だ。正解っ!


 そんなことを考えつつ、私が本心ではそう思っていると思われないようにする私はやはり一流だな。健気ハイスペ幼なじみ美少女の演技をさせたら私の右に出るものはいないのかもしれない。役に立ちたくてお手伝いしようと思ったのに無能感だけ刺激された智洋くんかわいそうだね。かわいいよ。


 そうして四人一緒に仲良くお昼を食べて、黒一点の智洋くんが少し気まずそうにしているのを楽しむ。性別だけじゃなくて顔も一人だけ違うから、異物感すごいね。パパ上はいつもこんなところでご飯を食べているのか。


 ちなみに、休日なのに不在のパパ上は楽しい休日出勤。息子の世話すら任せてもらえなかったお隣パパは捨てられた……わけではなく、長期出張。パパたちはお仕事忙しいんだね。おかげで私たちは豊かな生活だ。パパも嬉しそう。


 まあ、パパ上に関しては、明日はお休みだと聞いているからいいだろう。智洋くんもパパとのこんにちはに今から緊張しているようだ。昔からよく知る仲だろうに、何を緊張しているのやら。


 パパ上もひろちゃんに会うの楽しみにしていたわよと微笑むママ様と、それを聞いてどんな顔をして会えばいいのか……と悩んでいる少年。昔オムツ替えてくれているパパ上の顔におしっこぶっかけた少年がそんなことに悩んでいるなんて、実に感慨深い話だな。


「だいじょうぶ、お父さん優しいし、よっぽど変なことしなかったらおこらないよ。おしっこかけたりしたらさすがにもう怒ると思うけど」


 そんなことするわけないでしょ!?と言う智洋くんと、思わず吹き出してしまうママ様。そしてそんなママ様の反応に、どうしたのかとおめめを白黒させる妹ちゃん。そうだよね、君はまだ生まれてもいない頃の話だから、知っているはずないよね。むしろ智洋くんと同い年でそれを記憶している私がおかしいのだ。


 困惑する妹ちゃん、生暖かい目の私、そして肩を震わせ続けるママ様。それを見ながら僕そんなにおかしいこと言ったかな?おしっこなんてかけないでしょ?と当たり前のように言う智洋くんと、その発言でトドメを刺されるママ様。やったんだよ、かつての君は。

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