幼なじみくん(固有名詞)は一人しかいないけど、ただ幼なじみなだけの子なら他にもいるのよね。もっと優秀なのが。

 私の30点を買った物好きから、しばらくしてメッセージが届いた。30点は無事に着いてくれたみたいで、私は一安心だ。望まぬお金が同封されていたことに怒った買い手は、私のことを通報してきたが、少しアカウントが停止されただけで、特に問題はなかった。この私を凍結させるなんて、おもしれー人間。やっていることだけ見たらマネーロンダリングを疑われかねないから、通報は良識人として当たり前だね。光のお茶目さんっ!


 こんなことなら最初から値上げを断っておけばよかったなと反省して、けれど特に支障があったわけではないので後悔はしない。むしろ、こんなどうでもいい時にわかっておけてよかったくらいだ。若いうちの苦労は買ってでもしろと言うからね、まあ、今回のはただの私のミスなのだけれど。


 もう同じ失敗はしないようにしようと心に決めて、すぎたことはすっかり忘れてお勉強に励む。ハイスペボディのおかげで、とっくに終わってしまった夏休みの宿題。やらなくてはいけないことは、もう全部終わってしまっているが、それならやらなくてもいいことをやればいいだけだ。


 勉強する内容なら、少し探せばいくらでも見つかる世の中。人生は勉強であり、勉強こそが人生である。知識が増えればそれだけ評価が、価値が上がるからね。私自身が失われるキラキラの才能になろうとしている以上、私は勉強を厭わない。上げろ自分の市場価値。


 そんな理由で、私は時間を見つけてはちみちみと資格の勉強を始めたのだ。このハイスペボディなら、少し勉強するだけで簡単に手に入る資格。さすがに○年間業務に従事するとかが取得条件になっているものは取れないが、それ以外のものであればテキストを暗記するだけで一発である。ありがとうママ様。おかげで私は、就活のアピールポイントには困らない。人様に言える趣味として、資格コレクターを名乗ってもいいかもしれないな。まあ、私が真っ当な人様のように働いている未来なんて、これっぽっちも想像できないのだが。適当にもの作って、出来損ない売ってるだけで稼げちゃうからね。仕方がないね。


 くぁあと小さい欠伸を噛み殺しながら、次は何の勉強をしようかなと、アイキャンの雑誌とにらめっこする。直近の試験日と、テキスト代や受験料との兼ね合い。パパ上にオネダリすれば金銭的な問題は解決できるだろうが、ここまで来るとパパ上には頼りたくなくなってくるのだ。資格を取りたいと話した時、ようやく私のためにお金を使えると嬉しそうにしていたパパ上。自力でお小遣い稼いだから大丈夫と伝えた時のしょげた表情は、少しクセになるものだった。この表情がみたくて、ママ様はパパ上を選んだのかもね。ママ様がそんな邪悪な事考えるわけないだろ。ふざけるな。


 娘のためにお金を使いたい欲は、きっと私と同じ中学に一般生徒として入学する灯ちゃんで解消してもらうとして、パパ上の目の前で金策に励む。金策と、パパ上の子犬のような表情と、綺麗な石をくもらせる。やっぱり木工は最高だな、一粒で三度美味しい。一つ難点があるとすれば、ぷにすべお手々維持のために、あまり打ち込みすぎれないことだろうか。私の価値を損ねるなんて、木工とか最低だな。


 お金じゃぶじゃぶ欲を煮詰めているパパ上を放置して、妹ちゃんを探す。パパ上の溜め込んだ欲を解放させるためにも、妹ちゃんにはしっかり頑張ってもらわないといけないからね。ごめんね、お姉ちゃんには、パパを気持ちよくさせることが出来ないの。灯が代わりに気持ちよくしてあげてね。


 まるでパパ上が娘で性欲を発散しようとしているかのような誤解を与える言い回し。やっぱり言葉って面白いね。ここだけ聞けば毎日家族のために頑張っているパパ上が鬼畜ゲス野郎のように聞こえるのだ。そして私は嘘は言っていない。誤解させようとしただけでね。恣意的に誤解させるのは嘘をついていなくても詐欺なんだよ。


 家中を探しても、妹ちゃんが見つからなかったので、パパ上に行き先を知らないか聞いてみると、お友達と遊びに行ったと言われた。どうりで靴箱の中にも浴槽の中にもいないわけだ。妹ちゃんがそんなところで見つかったことはないけどね。猫ちゃんじゃないんだから。


 私のことを置いて遊びに行ってしまった妹ちゃん。お友達と遊ぶことが少ない私と違って、私といる時以外は大体誰かと遊んでいる社交的な子だ。まあ、お友達よりも私のことを優先するシスコンちゃんなんだけどな!


 そんな妹ちゃんとは違っていつもだいたいお家にいる私は、ちょっと寂しくなっておうちを出る。光だって、お友達がいないわけじゃないんだから!ただちょっとお友達よりもほかのことを優先してばかりで、人付き合いが得意じゃないだけなんだから!人付き合いが苦手で、趣味と性癖が才能ちゅるちゅるでろくでもなくて、将来的にも働くつもりがない。酷い社会不適合者だな。今度から笑い声をシャーッフッフッフとかに変えるべきだろうか。いや、ママ様に貰った体でそんなことはできない。


 しかしまあ、そんな社不な私が無計画に家を飛び出たところで、今日は素敵な休日!とはならない。そりゃあそうだ。こんなふうに馬鹿みたいに暑い夏の日に、意味もなく外に出ているのは頭が外気温よりも温かい素敵な人くらいである。自己紹介かな?


 家を出た瞬間から帰りたくなりつつ、行き先がないのでひとまずコンビニに入る。ぺたっと汗でくっついた肌着が、クーラーで冷やされて気持ち悪気持ちいい。


 中学生には有り余る財力でアイスとジュースを買って、呑気なお散歩を再開する。いや、あまりにも暑いからお散歩は終了だ。クーラーの効いた図書館に行こう。少し古いけれど資格のテキストだって置いている、素敵な建物だ。


 そうと決まればアイスを食べ切って、頭をキーンとさせながら図書館へ。さっきまでと比較して、随分体が楽になったのは体が冷えたおかげか、水分補給のおかげか。考えてみれば今日はお昼ご飯行こうお水飲んでなかったから、脱水状態だったのかも。多少無茶をしても問題なく動く体のせいで、私はちょくちょく水分補給を忘れてしまうのだ。うっかりさんだね。死にたいのか?


 スポーツドリンクを一気して、お腹をきゅるるとさせながら、図書館に入る。蔵書の管理のために、一年中適温で保たれているこの建物は、節約志向の大学生やレポートの締切に追われた大学生……ではなく、一日中家にいるなと追い出された中高生がいっぱいだ。節約するような一人暮らしの大学生は概ね大学の近くに住んでいるし、それなら大学の図書館の方が近いから、少ないのは仕方がないね。


 一年中いるおジジやおババのことはスルーしながら、あっ、近所のおばちゃんこんにちは!飴ちゃんくれるの?ありがとう。でも図書館でお菓子食べちゃめっ!なんだよ?……スルーしながら、古いテキストの所へ向かう。多少古くても、書いてある内容にはほどんど差がないからね。新しいものの方が傾向とか色々調べられているのだろうが、私の体であればそこまでする必要もない。


 そんなこんなでポケットに黒糖の飴ちゃんを隠しなら、どれにしようかなとテキストを選ぶ。比較的新しいものか、見るからに古そうなものか。いっそ大学なんかで教科書として使われていそうな、分厚くて高いもので一から勉強するのも面白いかもしれない。どうでもいいけど、黒糖って食べると下にべっとり残るよね。本当にどうでもいいな。


「……なにやってんだ?こんなところで」


 あれもいい、これもいいと、私が優柔不断を体現したような動きをしていると、奇妙なものを見るような目で私を見る目が二つ。隻眼の人が二人現れたわけではないのでこんにちはしたのは一人だね。


 こんなところ、と図書館さんに対して失礼な物言いの彼は、私のクラスメイトである聡くんだ。小学校の頃からの顔なじみである、キラキラ候補の一人だね。終業式の時以来だから、大体30日ぶりくらいだ。細かい時間を計算すれば、18時間と……


「31日と18時間32分。あとはだいたい15秒ぶりかな?久しぶりだな、真白。こんな暑い日にこんなところで何やってるんだ?」


 チラリと、手首の時計を見た聡くんは、すぐさま時間を計算し、メガネをくいっとする。キッショ、なんで秒単位で覚えてんだよ。それに言われた言葉は全てブーメランである。妹ちゃんがおうちにいなくて寂しくなった私でもなければ、まともな中学生ならこんな日はお家でのんびり涼んでいるものだ。にもかかわらずわざわざ図書館にいる避暑地に来ているということは、もしやこの子の家にはエアコンがないのだろうか。


「おい、その家にエアコンがないかわいそうな子を見るような目はやめろ。うちにだってエアコンをつける金くらいある。ないのは好きなだけ本を買える金だよ」


 私同情が伝わってしまったのか、声に出すことなく会話を成立させてしまう聡くん。生意気なんだよォ!天然物ナチュラルが読心能力など!……考えてみたら非言語コミュニケーションはコーディネーターじゃなくてニュータイプだな。生意気だけど許してやるか。


「あはは、終業式ぶりだね、聡くん。でも残念、エアコンがない子を見る目じゃなくて、ジュースを変えない子を見る目だよ」


 非言語コミュニケーションを取ってくる相手に、内面のドブ臭さを隠し通せている私は、さては擬態の天才なのではなかろうか。そんなことを考えていると、聡くんは何か言いたげな表情でこちらを見つめていた。


「どうしたの?お前もそんなにお金もってないくせに……じゃないね。お前は何でそんなに稼いだんだみたいな目で見つめちゃって」


 会話の流れと、聡くんの思考パターンなら考えそうなことをひとつ。途中で、この子ならもう一つ先まで考えるだろうと思って言い直せば、聡くんは豆鉄砲でも食らったみたいに目をぱちくりさせた。ふんっ!私のお目目の方がぱっちりしてるもんね!


「なんでそこまでわかるんだよ……俺はお前が怖いよ」


 なぜと言われても、ママ様譲りの素敵な脳みそで思考パターンを予測しているだけである。普段から話していればいるほど精度は上がるから、妹ちゃんなら9割5分、智洋くんなら8割5分、聡くんなら6割強くらいの確率で当たるね。あとははったりをきかせたり、いっぺんに2パターンくらい用意しておけばどちらかは当たる。


 外した時に印象に残りにくいような振る舞いをすれば、当たった時のことばかり覚えられるという小手先テクニックを交えて、それっぽく振る舞うだけならそれほど難しいことでも……いや、難しいな。言葉にしてみてようやく自分が気持ち悪いことをしていると認識できた。言語化って大事だね。


「ちなみに、気になっているところ悪いけど、金策の手段は秘密だよ。ヒントは合法且つモラル的な問題もないことです。当てられたらご褒美あげるね」


 にこっと笑ってあげると、ほんのり頬を赤くした聡くん。TSハイスペ美少女の微笑は、それはそれは魅力的なものだろう。だってママ様譲りだからね。ところで私はひとつ思い出したのだが、我が愛しのママ様は少し頭が残念な方だった。そうなると、私の素晴らしいしわしわ脳みそはどこから生まれたのだろうね?間違いなく生まれ変わる前よりスペックは高いし、不思議だ。突然変異かな?……“変異は変異でも、がん細胞みたいだね、人類種の腫瘍だからピッタリだ!”とか言うなよ。泣いちゃうだろ。


 突然泣き出す情緒不安定な姿を見せたら、聡くんは何を勘違いしたのか慌てに慌てて、私にジュースを奢ってくれた。少ないお小遣いの中からわざわざありがとうね。お礼にたこ焼き奢ってあげる。



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 あたおか一人称は書いてて楽しいし楽だしいい事づくめなんだけど、気を抜くと自キャラから精神汚染を食らうのよね(╹◡╹)

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