第38話 新たな喰らう者使いと新たな罪
「そんな、ヴェン君は自警団の詰め所にいたはずじゃあないんですか?」
「すまない、牢の中に置いとくのが余りに忍びなかったからな、監視付きで牢の外に出していたんだ。そうしていたら、この盗賊騒ぎで盗賊の奴らに人質にとられてしまったんだ。こうなるくらいなら牢に入れておくべきだった」
自警団の人はそう後悔するが、ヴェン君は人質に取られてしまったのだ。まずはその事実をどうにかするしかない。
「後悔は後です。まずは人質に取られたヴェン君を救出する方を優先しましょう」
アレックスさんはそう言うが、私にはヴェン君を救出する方法が出てこない。アレックスさんは何か策があるのだろうか?
「アレックスさん何か考えがあるのですか?」
「ああ、私がまず隠ぺい魔法を使って身を隠すから、ルナちゃんは奴らの注意を引き付けてくれ」
「注意を引き付けるって、どうやって引き付ければ良いのですか?」
そう言うとアレックスさんは私の顔を指差す。ああ!そうか!
「それじゃあ、頼んだよ」
言ってアレックスさんは隠ぺい魔法を使用する。おおすごいサジさん程とはいかないけど明らかに存在感が薄くなっている。ならば今度は私の番だ
「
イーターを召喚した私はゆっくりと努めて余裕のある表情で盗賊たちの前に出る。すると、盗賊たちの間に明らかな動揺が見て取れた。
「私の縄張りに手を出そうとしたのはお前らか?」
私はいかにもな雰囲気を出しながらそう言った。そう、今私は一姫になりきり、盗賊たちの注意をこちらに向けたのだ。
「な、なんで大罪人カズキ・フタバがここにいるんだ」
盗賊の一人がそう言う。
「そんなのここが私の縄張りだからに決まっているじゃない」
「縄張りだと!?」
「そう、わかったらさっさとこの村から出て行きなさい」
「は!!こっちには人質がいるんだ。そう簡単に諦めてたまるかよ」
そう言って下卑た笑いを浮かべる盗賊たち、しかし今のルナちゃんは大罪人カズキ・フタバになりきっているのだ。そんな脅しなどに屈しないぞ。
「で?」
「でって、だから人質が――」
「だからそれが何なの?」
「手前ぇ人質がどうなってもかまわないってのか!!」
「かまわないわよそんなの」
私のその台詞を聞いた盗賊たちに動揺が広がる。というか、自警団の人たちも明らかに動揺している。芝居なんだからそんな目で見ないでよ。
「そんなのって……」
明らかに動揺した盗賊がドン引きした目で私を見る。いいぞ、このまま盗賊たちの目を引き付けていればアレックスさんがヴェン君を助けてくれるはずだ。私がそれを確信し口の端を歪めると、盗賊たちの後方から一人の男が現われた。
「流石は大罪人、村人一人の命屁でもねぇってか?」
その男はスキンヘッドでいかにも悪そうな人相をした、筋肉質な男だった。
「頭ぁ」
動揺していた盗賊が男に向かってそう言った。なるほど、この男が盗賊たちの頭か。
「なさけねぇ
阿修羅だと?この世界にそんな名前の神はいないはずだ。つまり……
「もしかしてあんた
「もしかしなくてもそうだよ。
男がそう言うと巨大なハンマーが現われる。何!?転生者や転移者の間では盗賊になるのが流行っているの?
「せっかく
思わず本音が出てしまった。
「それを手前ぇが言うのかよ」
「それもそうね」
「ちげぇよそうじゃねぇ」
はて?そうじゃないとはどういうことだ?
「何がよ」
「手前ぇにとっちゃ犯した罪の一つに過ぎないのかもしれねぇがな、俺はほんの数年前までこの国のデスリア領ってところで、いっぱしの兵士として働いていたんだ。家族もいた。慎ましやかな生活だったが確かにその時は毎日が充実していて幸せだったんだ。それを手前ぇがぶち壊しやがったんだ!!俺の幸せも、仕事も、家族も!!何もかも手前ぇが奪っていったんだ!!」
男の言葉を聞き私は何も言えなくなる。今この男はなんて言った。一姫が全てを奪った?それはどういうこと?
「黙ってんじゃねぇよ!!何か言いやがれ」
私が動揺のあまり狼狽えていると、
「ルナちゃん!!」
アレックスさんの声がする。その声の方を見るとアレックスさんが人質となっていたヴェン君を助け出すことに成功していた。
「な!いつの間に、しかもルナちゃんだぁ?まさか手前ぇ」
「私は一姫の双子の妹のルナだよ」
動揺しながらも私は言葉を絞り出すように言う
「は!まんまとやられたって、わけだ。だがなぁ、手前ぇらを倒しちまえば万事解決だ」
「そう言って男は手に持った巨大なハンマーを構える」
「来いよ大罪人の妹。今度は俺が手前ぇの姉ちゃんから、手前ぇという家族を奪ってやる!!」
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