第39話 動揺

「いくぞ!!」


 盗賊の頭はその巨大なハンマー型の喰らう者イーターを構えて私に突進するように迫る。私動揺する心を無理やり抑えながら、イーターを構えて盗賊の頭を迎え撃とうと身体強化の魔法をかけようとするが動揺のあまり集中が乱れ魔法を発動することが出来ない。


「おらぁ!!」


 盗賊の頭は下から打ち上げるようにその巨大なハンマーを振るう。大振りな一撃だ。本来の私ならば余裕で避けられただろう。しかし、動揺と魔法の不発による影響でその一撃に対する反応が遅れ、余裕で避けられたはずの攻撃を上手く避けられずその攻撃は私の脇腹をかすめる。

 その一撃で私の着ていた服の一部が裂け、肌が露わになる。

 危なかった。あと少しで当たるところであった。相手のエモノはハンマー型、身体強化魔法なしでは一撃当たるだけでも致命傷になりかねない。落ち着けルナ、今は余計なことを考えるな。私はそう自分に言い聞かせ、再度身体能力強化の魔法をかける。今度は上手く発動した。すると、盗賊の頭は二撃目の上段からの振り下ろし攻撃を放つ、間合いが近い、シールドで防御という選択肢もあるが、シールドの強度が甘ければシールドごと叩き潰される恐れがある。ここは距離を取るのが良いだろう。

 そう決めた私は背後へとバックステップ、すると盗賊の頭の攻撃は空振り地面に当たる。が、盗賊の頭が口の端をニヤリと歪めた。それと同時私の危機察知スキルが強く反応する。


吐瀉物ゲロリアス


「おえぇ」


 盗賊の頭が吐瀉物ゲロリアスの呪文を唱えると、ハンマーが叩いた地面から大量の砂礫されき私を襲う。


「シールド」


 私は咄嗟にシールドの魔法を唱え砂礫を防御する。幸いただの砂礫だったようでシールドの防御が崩されることはない、しかしその大量の砂礫の真の狙いは別にあった。


「くそ、見えない」


 そう、盗賊の頭は目くらましのためにこの大量の砂礫を使ったのだ。ということは次の攻撃が本命ということになる。今の位置にいるのはマズイ、私の危機察知スキルもそう言っている。

 私は急いでその場から離れるが危機察知スキルは反応しっぱなし、つまり相手に私の場所がバレているということだ。


「おらぁ!!」


 砂礫の中から盗賊の頭が私の背後から横薙ぎの攻撃を加える。

 その攻撃を私は危機察知スキルのおかげもあってかギリギリで避け反撃に、転じようとするが、盗賊の頭はまたすぐに砂礫の中に入り見えなくなる。


 攻撃されてはギリギリで躱す。そんなやり取りがしばらく続く、くそ、このままやられる一方ではいずれやられてしまう。何で相手は私の位置が正確にわかるんだ?まるで索敵レーダーでもついているみたい――そうか!!

 私は索敵の魔法を発動させる。索敵対象はもちろん盗賊の頭だ。すると私の後方に反応があった。今度はこっちが攻める番だ。

 私は踵を返して後方を向きレーダーに反応のあった場所めがけて疾走する。するとそこには盗賊の頭がいた。


「何!!」


 盗賊の頭は突然現れた私に驚いている。ここがチャンスだ。私は象形魔法を用いてイーターのリーチを伸ばし横薙ぎの攻撃を盗賊の頭の胴体めがけて放ち打つ。


「ぐう」


 その一撃は会心の当たりであった。常人であればそのまま戦闘不能になるはずだ。が、


「効かねぇよそんな攻撃ぃ!!」


 盗賊の頭は健在、


「うそ!?常人なら戦闘不能になってる一撃だよ」


「魔法も体もきたえてるんだ。俺をそこら辺の人間と一緒にするんじゃねえよ」


 私の会心の一撃が効かないととなれば厄介だ。幸い相手の砂礫戦法の種はわれている。今度は急所でも狙ってみるか?


「しっかし、まさか手前ぇも索敵魔法が使えるとはな、喰らう者イーターの形状からしてまだこの世界に来たばかりだと踏んだんだが、良い師匠にでも弟子入りしてんのか?」


「まあね、あんたなんかよりよっぽど強い師匠だよ」


「そりゃあ良かった見たところその師匠はこの場所にはいないみたいだしな」


「何でそれがわかるのよ?」


「そんなもん俺の勘と言う名の危機察知スキルに決まってるだろうが」


 なんと、こいつも危機察知スキルを持っていたのか。


「ちなみにだが、お前との戦いが始まってから一度たりとも反応してねえがな」


 盗賊の頭の発言に私はカチンとときたが、努めて冷静さを保つようにする。戦闘では冷静さを欠いたものが〇される。それはさっきの動揺から学んだ大事な教訓だ。死んでないけど。


「だから何?私にも奥の手くらいあるんだよ」


 そんなものないが一応ブラフとして言っておく、相手を警戒させるにこしたことはないからね。


「だったらさっさと出した方がいいぜ、じゃねえと奥の手を出す前にやられちまうからなぁ」


 盗賊の頭はまるでこの戦闘を楽しんでもいるような物言いをする。


「なにそれ?体験談なの?」


「ある意味でな、まあ兎に角、本気はさっさと出せってこった」


「御忠告どうも」


 とは言われたものの私に残された手札はあまりない。打撃が効かないとなると今度はブレードを使用しての攻撃を試すしかない。だけどそれは……


「迷うなルナ」


 イーターがそう言った。


「迷うなって言われても……」


 ブレードの使用は相手を死に至らしめることになりかねない。出来ればそれは避けたいところだ。


「相手に通常の攻撃が効かない以上、より効果的な攻撃をするしかない。幸いルナにはその攻撃方法がある。相手がルナを殺しにかかってくる以上、こちらも相応の覚悟を持って戦わねば殺されるぞ」


「……わかった。ブレード」


 私はブレードの魔法を唱えてイーターの付与する。


「お!やっと本気になったみたいだな」


「……」


 ここからは完全に命のやり取りになる。獣相手のやり取りなら何度もあるが、人間相手は初めてだ。私のイーターを持つ手が緊張のあまり震える。その様子を盗賊の頭は見逃さない。


「なんだ手前ぇ、人間相手は初めてか?」


「うっさい」


「はは、マジかよ、なら――」


 盗賊の頭は両手を大きく広げ、無防備な体勢をとる。


「斬ってみな」


「な!?あんた本気?」


「本気も本気だ。さあ最大のチャンスだぜどうするんだ?」


 コノヤロウ、完全に私をなめている。けど――


「まさか無防備な相手は斬れないなんて言い訳するわきゃないよなぁ」


 そう言って嘲るように私を嗤う盗賊の頭。


「覚悟を決めろルナ!!」


 イーターが私を叱責する。わかったよコンチクショウ!!

 私は盗賊の頭めがけて再度の疾走、そして盗賊の頭めがけてイーターを袈裟切りに振るう。

 しかし、その刃は盗賊の頭を切り裂くことはなかった。


「な!?」


「言ったろう鍛えてるって」


 確かにブレードは発動している。現に盗賊の頭の服は切り裂かれている。しかし、その体そのものは切り裂かれることなくそのままの状態で残っていた。


「鍛えるにしても限度ってモンがあるでしょ」


 呆れながらそう言う私に、盗賊の頭は言う


「これもカズキ・フタバに復讐するためだ」


「復讐って……」


「当たり前だろう?俺はすべてをカズキ・フタバに奪われたんだ。それを奪い返さなきゃ俺は前に進めねぇ。だからルナ・フタバ悪いがお前の命も奪わせてもらうぜ」


 言って盗賊の頭は自身の喰らう者イーターを構える。

 これはまずい。私の攻撃は何も聞かないということになる。このままでは確実に〇されてしまう。盗賊の頭は私にゆっくりと近づいて来る。さながらそれは死へのカウントダウンのように感じた。そんな盗賊の頭から逃げるように私はじりじりと後退させられる。

 考えろ、考えろ、考えろ……駄目だ打つ手がない。

 私が、絶望しかけたその時だった。


「ルナ決めたぞ」


 イーターが私に語りかける。


「何をよ」


「覚悟をだ。ルナが覚悟を決めたのに私がいつまでも覚悟を決めないのはおかしいだろう?」


「だから、何の覚悟を決めたのよ?」


「形態変化するぞルナ」

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