第37話 一姫の罪

「そうですか、そんなことが……」


 ヴェン君が起こした騒動の後、私たちは村長の家まで着き、村長にことのあらましを話していた。


「ガルシアさんヴェン君はこれからどうなるのですか?」


「通常であれば不敬罪もやむなし……であるのだが」


「幸い、誰も被害を受けていないことですし、そのこまでする必要はありません」


「姫様もこうおっしゃっている、しかし、無罪放免と言うわけにもいかんし、夜中にまた押し入られてもこまる。だから明日我々がこの村を出るまでの間、自警団の詰め所にある牢屋で反省しておいておらおう」


「そうですか、姫様の寛大お心に感謝いたします」


 村長さんがそう言ってロレーヌに深々と頭を下げる。


「あの、村長さん一つ訊いても良いですか?」


 私が村長に訊く。


「何でしょう」」


「その……ヴェン君のお父さんについてなのですが……」


「ヴェンの父親についてですか?」


「はい、ヴェン君のお父さんはどういった経緯で一姫に殺されてしまったのかなと……」


 身内の悪行がどういった経緯で行われたのか、出来れば偶発的な事故であって欲しいという気持ちが私にはあった。


「あれは一年半ほど前のことだったでしょうか、まだ、カズキ・フタバが罪人として手配されておらず、この村にも自警団など存在していない頃のことでした。そんな時、カズキ・フタバが旅人としてこの村にやってきたのです。この村は御覧のとおり、農業を主体として細々と暮らしている小さな村です。そんな村に旅人がやって来たということは、その日の内に村中に知れ渡り、カズキ・フタバは客人としてもてなされ、ささやかながら宴も開きました……だというのにカズキ・フタバ宴の最中に突然暴れ出し、それを止めようとしたヴェインの父親を殺めてしまったのです……」


 村長は暗い顔をしながらそう言った。しかし、一姫は何故突然暴れ出したのだろうか?


「突然暴れ出した原因はなんだったのですか」


「それはわかりません。ただ繰り返すようにこう言っておりました。うるさい、黙れ、私はこの世界に復讐するためにいるのだ。と」

 

 復讐とはおそらく私がいない世界に突然連れてこられたことに起因するものだろう。だからと言って人殺しなんて行為に及んでいいはずがない。それに復讐すべき対象はアールであるはず、これではただの八つ当たりだ。


「……そうですか、ありがとうございます」


「いえ、お心お察しいたします」


「ありがとうございます」


 沈黙がその場を支配する。そんな時、家の外から村人たちの騒ぎ声が聞こえて来る。

 なんだ?何かあったのか?


「外で何かあったのでしょうか?」


 村長がそう言うと、護衛隊のダグラスさんが口を開く


「俺がちょっと見てきます」


 そう言って部屋を退室するダグラスさん、そして、ややあってからダグラスさんが慌てたように部屋に戻って来た。


「隊長!大変です!!」


「どうした、何があった?」


「賊です。盗賊がこの村を襲ってきました!!」


「なんだと!?それで状況はどうなんだ?」


「今は村の自警団の者たちが対応していますが、いかんせん自警団の者達は人数も少なく、実力もそこまであるわけではありません。このままではやられてしまうでしょう」


「ならば、この場は私とサジ殿で姫様の護衛を引き受ける。他の者達は盗賊への対応をしてくれ」


「「了解!!」」


 言って私たちは盗賊に対応するべく、村長の家から外に出る。すると外の状況はまさに阿鼻叫喚、村人たちは悲鳴をあげながら逃げ惑っていた。


「アレックスさん私はどうすればいいですか?」


「ルナちゃんは私と一緒に村の入り口の方に行こう。他の者たちは村の中にいる盗賊の対処をしてくれ」


「「了解」」


 言って私はアレックスさんの後に続き村の入り口まで急ぐ、まだ村の中に入っている盗賊の数は少ない。おそらくはまだ自警団の人たちが持ちこたえてくれているからだろう。

 私たちが村の入り口にたどり着くと、自警団の人達が槍を構えて盗賊たちと対峙しているのだが、どこか様子がおかしかった。


「応援に来ました。盗賊たちの状況はどうなのですか?」


 アレックスさんが後方にいる自警団の人にそう尋ねると、


「おお!ありがたい、しかし、状況はあまり良くない」


「そんなに人数がいるのですか?」


「いや、ここにいる盗賊の数はせいぜい10人程度だがな」


 そう言って自警団の人は顎で盗賊たちの方を指す。私は指された方を見ると驚愕した。


「ヴェンの奴が人質にとられてしまった」


 

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