第5章~罰の所在~

第36話 仇

 月日は飛んで1週間後、私たちはウラッド領を出て、次の領地である。ベアハッグ領の街の手前にある村にに来ていた。

 今は村に入るための手続き中、当然私は馬車の中、そんな対応には慣れっこだ。


「こうして、ロレーヌとも喋れるしね」


「なんですか、突然」


「ううん、何も」


「変なルナ」


 ロレーヌはクスリと笑う。そんな姿も素敵だよ。私がそんなことを思いながらロレーヌとの楽しい時間を過ごしていると、ガルシアさんが馬車の扉を開いて私に向かって言う。


「ルナ、ちょっと出て来てくれ」


「なんですか?顔の確認ですか?」


「それもあるが、村の自警団の者が伝えたいことがあるそうだ」


「伝えたいこと?」


 それは一体何だろう?私はそんなことを思いつつ馬車の外に出て自警団の人の前に立つ


「こいつがカズキ・フタバの妹ですかい?」


 自警団の人がガルシアさんに訊く。


「ああそうだ、ルナ、フードを取ってくれ」


 言われて私は被っていたフードを取る。すると自警団の人が目を丸くする。


「本当にそっくりなんだな、俺、双子なんて見たのは初めてだ」


 自警団の人は私の顔を間近でジロジロとみる。そんな自警団の人の不躾な視線に耐えつつ、私は言う。


「それで、私に用事って一体何ですか?」


「ああ、そうだった。あまりにそっくりすぎて言うのを忘れてた。あのな悪いことは言わないからあんたは

村外れにある家には近づかないようにしてくれ」


「それって、一姫関係のことですか」


「そうだ」


「また、私の姉が何かしちゃったんですか?」


 冗談めかして私がそう言うと、自警団の人は、


「それはとても俺の口からは言えねぇ、どうしても訊きたけりゃあ、村長に訊いてくれ」


と、真顔で返してくる。一姫の奴一体何をしでかしたんだ。不安になるじゃないか


「村外れ以外は歩いても別にいいんですよね」


「ああ、今他の奴がふれ回っているから大丈夫だ」


「わかりました。それじゃあガルシアさん今日宿も村長の家でしょう。早速村長の家に行きましょう」


 一姫の奴が何をしでかしたのかわからないが、自警団の人が村長に訊けと言うのであればそうすることにしよう。


「わかった。ルナ、お前も歩いていくのか?」


「駄目ですか?」


「自警団の者が許可しているから大丈夫だが……あまり進めはしないな」


「それはまた何故?」


「いいかルナ、この村でカズキ・フタバが何をしでかしたのかわからないが、少なくとも今までとは明らかに違うことをしでかしたんだ。おそらくお前は村人の好奇な視線を受けることになる。それに耐える自信はあるのか?」


「正直言ってありません……けど、この先も向けられる視線ならば今のうちに慣れておかなくてはならないと思います。幸いこの村はそこまで大きくない村ですので視線の数も少なくて済むと思いますし、大丈夫でしょう」


「わかった、お前がそう言うのであればそうしよう」


 ガルシアさんがそう言うと私たちは自警団の人の案内の下、村長の家まで向かう。

 しかし、その途中10歳くらいの一人の少年が私たちの行く手を遮った。


「うごくな!!」


 急いでここまで来たのか少年は息をあげているのだが、その手に一本の包丁を構えている。これはマズイ、ロレーヌの乗る馬車の行く手を遮るだけでも不敬罪になりかねないのに、包丁まで構えている。これはガルシアさんたちに斬られても文句は言えない状況だ。

 すると、私たちの案内をしていた自警団の人が慌てた様子で少年に言う。


「ヴェン、何をしてるんだ!!早くそこをどけ!!」


「いやだ!!父ちゃんの仇の妹がそこにいるんだろ、そいつを出せ」


 父ちゃんの仇だって!?一姫、あんたはついにこの村で殺人を犯したのか?思わぬ身内の悪行に私は驚愕し言葉がでない。


「ヴェンお前は一体何をするつもりだ」


 自警団の人が少年――ヴェン君にそう言うと。


「父ちゃんの仇を殺しておいらと同じ思いをさせるんだ!!」


 ヴェン君はそう言って私の方を見る。私は動揺のあまりどうしていいかわからず、狼狽えていた。


「お前だな!!」


 そう言ってヴェン君は私に向かって包丁を構えながら突進してくる。すると、ガルシアさんが私の前に出て剣を抜き、ヴェン君に向かって剣を振るう。


「やめっ!!」


 すると、ガルシアさんはヴェン君の持っていた包丁だけを狙っていたのか、ヴェン君は持っていた包丁を叩き落とされる。そしてヴェン君は自警団の人に取り押さえられる。


「どけよ、あいつをおいらに殺させろ!!」


「ヴェン、暴れるな!!」


 言いながら暴れるヴェン君は、そのまま自警団の人に自警団の詰め所まで連行されていく。

 私はその様子をただただ見つめることしか出来なかった……

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