第35話 仲間

 領主の屋敷を出た私たちは宿泊所である宿屋のロレーヌの泊まる部屋で今後についての会議をしていた。

 

「ガルシアさん次の領まではどれくらいかかるのですか?」


「2週間といったところだな」


「今までの倍じゃないですか、結構遠いんですね」


 2週間も野宿をしなければならないことに私は辟易とする。


「何を言う、この先には移動だけで一か月もかかる場所があるんだぞ。それに比べれば2週間なんて良い方だ」


「マジですか、うわ~それは嫌だな~」


「嫌でも行かねばならんのだ。我慢しろ」


「うぅ~了解~」


「ははは、身辺警護員も大変だねぇ~」


 そう他人事のように笑うサジさん。まあ実際他人事なのだからしょうがないけど――そうだ!!


「サジさん、折り入ってお願いがあるのですけれど」


「突然何?」


 サジさんが警戒色強めに訊いてくる。


「その~ロレーヌの身辺警護に興味はございませんか?」


「ない」


 サジさんは私のお願いに感付いたのかスパリと切り捨てるように言う。だがこのルナちゃん、そう簡単には諦めないぞ。


「サジさんがロレーヌの身辺警護員を一緒にしてくれると私とっても嬉しいのですけど」


「何?それがルナちゃんのお願いなの?」


「駄目ですかね」


「やだ」


 サジさんがそう言った瞬間、私は素早く土下座をきめる。


「どうかそこを何とか」


「ルナちゃん、土下座なんてやめてよ」


「サジさんがいいと言ってくれるまでやめません!!」


 伊達に村で一緒に過ごしてはいない、サジさんは押しに弱いタイプの人だ。であればこのまま土下座していれば良いと言ってくれるはずだ。

 私はそんなことを思いながら、サジさんに見えないように口の端をニヤリと歪める。すると、ガルシアさんがペシンと私の頭をはたき、私は宿屋の床に額をぶつける。


「やめんか阿呆」


「あた!」


 そしてガルシアさんは私の襟を猫のを持ち上げるように掴み持ち上げる。わーおパワフル。


「すまないサジ殿、この通りだ」


 言ってサジさんに頭を下げるガルシアさん


「ガルシアさん頭を上げてください、あたしは別に怒っているわけではないので。それにルナちゃんのこういうところは嫌いじゃないので」


「ガルシアさんサジさんはそうおっしゃってますが」


 私がそう言うとガルシアさんは短くため息をついた後頭を上げ、私を床に降ろす。


「まったく、ルナそういう話はまず私に話を通すのが筋ではないか」


「でも、ガルシアさんもサジさんがロレーヌの身辺警護についてくれる方が安心するんじゃないですか?」


「それは……確かにな」


「でしょ、でしょ、だからサジさんに頼みましょうよ~」


「あのねルナちゃん本来なら身辺警護員なんてそう簡単に決められるものじゃないんだよ」


「でも、私の時はすんなり決まりましたよ」


「それはルナちゃんが特殊な立場だからでしょうが」


「うぐぅ」


 それを言われたら何も言い返せない。しかーし!私は諦めないぞ。


「でもでも、これまでの行動でサジさんが悪い人でないことはわかっているでしょう、ね、ガルシアさん」


 言って私はガルシアさんの方を見る。するとガルシアさんは何やら思案顔をして、ややあってから口を開く。


「実はな、私もサジ殿をルナの師匠兼姫様の身辺警護として雇おうと思っていたのだ」


「な!」


 ガルシアさんの思わぬ言葉にサジさんは驚きの表情を見せる。


「ほら、ほら、ガルシアさんもこう言ってますし、お願いしますよ~サジさん~」


「そう言われてもな~」


 困り顔をしながらそう言うサジさん、この感じ、もう一押しだ。


「ロレーヌもサジさんが一緒に来てくれたら嬉しいでしょ?」


 私の突然のトスにロレーヌはびっくりしたような表情になるが、ロレーヌならこのトスを確実にきめてくれるはずだ。


「はい、わたくしもサジさんが一緒に旅をしてくれるのなら、こんなに心強いことはありません」


「報酬もはずみますので是非」


「うぅ」


 ロレーヌとガルシアさんの援護射撃にサジさんは陥落寸前だ。


「わかった。わかりました!!ルナちゃんの師匠兼姫様の身辺警護員として雇われてあげます」


 落ちた。やったねルナちゃん。大勝利だ!!


「その代わり、報酬のははずんでもらいますからね」


「それはもちろんです」


「やたー」


 私は両手をあげて喜び、そのままサジさんにハグをする。


「ちょ、なに突然」


「何って歓迎のハグですよ。ほら、ロレーヌも」


「わたくしもですか!?」


「いいじゃない別に減るものじゃなしに。ほら」


 私がそう言うと、ロレーヌは恐る恐るといった感じで私に近づいて来る。ええいもうじれったい。

 私はロレーヌの手を強引に掴み手を引く。


「キャッ」


 そして私はロレーヌとサジさんの二人をまとめてハグした。


「まったくこの子は――」


 サジさんは呆れた顔をしているが、まんざらでもなさそうだ。

 こうして、私たちの旅路に新しい仲間が増えたのであった。




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