第30話 変化なき日々
私たちがウ ラッドの街についてから4日が経った。私とサジさんは昼夜逆転の生活を送りながら容疑者であるウラッドさんの同行を観察し続けていたのだが、
「今日も動かないですか~」
「今のところいつもと同じ動きだね~」
ウラッドさんは動かない、やはり私たちの存在を警戒しているのだろうか?
「ロレーヌの公務もそろそろ終わりそうですし、このまま動かないかもしれませんね」
「その可能性も大いにありえるね」
「公務が終わっちゃたら、私たちだけでものこりますか?」
「それこそ余計に怪しまれちゃうよ」
「ですよね~」
となればもうこの件から手を引くしかなくなるのか?個人的には手を引くことはしたくないが、まあその辺はロレーヌたちも考えているだろう。
「ところで、ルナちゃん、隠ぺい魔法の修行は進んでる」
「一応、昼間の暇な時間には座禅をしたりしてるんですけど、中々難しいですね」
「ふっ、それだけマナが未熟ということだろう。因みに俺は何か悟りを開けそうな感じになって来たぞ」
「イーター、別に訊いてないことまで報告しなくていいよ」
「別に良いではないか、もしやルナ、修行が順調に進んでいる俺に嫉妬しているな」
イーターが何かよくわからんことを言っているが、無視。そもそもイーターが修行をしたところで何が変わるというのだろう。
今のやり取りでもわかるように、私とイーターは昼間に時間を見つけては魔力操作と隠ぺい魔法の訓練も兼ねた座禅をしているのだが、これが中々思ったように進まない。自分の体内に流れる魔力は感じ取ることが出来るのだか、体の外側に存在する魔力が中々感じ取れないのだ。
「外側に存在する魔力っての中々感じとれなくて、苦戦してるんです」
「そう?ルナちゃん魔力感知のレベルもそれなりにあるから、外側の魔力も感じ取れてると思うんだけどね――ルナちゃん一回目を瞑ってみて」
「はい」
言われて私はいつもの座禅の要領で目を瞑る。
「ルナちゃん、今あたしルナちゃんのことを見ているんだけど視線を感じる?」
「うっそだ~、自慢じゃないですけど私、人の視線に敏感なんで――あ!今見ましたね!」
そう言って私が目を開くとサジさんは私のことを見ていた。ドンピシャ正解やったねルナちゃん。
「うん、やっぱりそうだ。ルナちゃん魔力を感知出来てるよ」
「なんですと!?」
「魔力が意思に反応するモノだってのは知ってるよね」
「はい、ガルシアさんたちに習いました」
「それじゃあ一つ質問。視線ってなんで感じるんだと思う?」
「なんでって言われると困りますね。なんとなく感じてるものですし――もしかしてそれが魔力だって言うんですか?」
「そのとおり、視線には何かを見ようとする意思が存在するんだよ。つまり、その意思に魔力が反応してルナちゃんの周囲に魔力が集中するんだよね。それをルナちゃんは感じとっていたんだよ」
「でも、その言い分だと私の元いた世界にも魔力が存在することになりますよ」
「おそらくだけど、魔力が存在してるんじゃないかな、私の元いた世界にも実は魔力が存在していたみたいだし」
「それはどうしてわかるのですか?」
「イル――私の元いた世界の管理者から直接聞いたの」
「イル……なんか聞き覚えがあるような、ないような……」
「そう?もしかしたら私たち同じ世界から来たのかもね」
アールの奴は誰かと交換留学生感覚で自分の管理する世界の人々のやり取りを行っていた。その可能性も十分ありえるだろう。しかし、
「そうですね。まあもう戻ることもないでしょうし、今考えても仕方のないことです」
もしかしたら私がアールの頼みを完遂したら、元の世界に戻してくれる可能性もあるが、今のところ私は一姫を〇そうとは思っていない。であれば元の世界に戻ることはないだろう。
「それもそうだね」
「サジさんは元の世界に戻りたいとかは思ったことはないのですか?」
「う~ん、あたしの場合、天寿をまっとうしてからの転生だったからね。帰りたいとは思ったことはないかな」
「だけど、なんだかんだ言っても元の世界の方が便利じゃなかったですか?」
「それは確かにね、でもそれも慣れだよ。ここはそういう世界なんだって割り切ることが出来れば住めば都てねこの世界の方が楽しいと思えるよ」
「そんなものなんですかね?」
「そんなもの、そんなもの」
私は趣味の漫画やゲームがないことがかなり痛いのだが、サジさんはもう割り切ってしまっているようだ。そりゃ何十年もこの世界にいたらそう思えるか。サジさんが何歳なのか知らないけど……
「兎に角、魔力の正体も分かったようだし、後は訓練あるのみだね」
「ありがとうございます。これで明日からの訓練にも身が入ります」
そう私が言った時であった。サジさんが何かを感知したようにハッと表情を変えた。
「サジさん?」
私がそう言うとサジさんがニヤリと口の端を曲げて言う。
「ルナちゃん、どうやら標的が動いたようだよ」
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