第31話 急転直下 

「標的が動いたって、今どこにいるのです!?」


 早く動かなければ、また新たな犠牲者が出てしまう。


「ルナちゃん落ち着いて、標的――ウラッド卿はまだ自分の屋敷から出て間もない。どこに移動するか見定めるのが先だよ」


 確かに、動いたからと言って犯行場所の予測を間違えてしまっては元も子もない。ここは先にガルシアさんたちに報告すべきだ。


「私、ガルシアさんに報告してきます」


「わかった。お願いね」


 私は自分たちが泊まっていた部屋を出て隣のロレーヌの部屋に移動する。するとその部屋の扉の前でダグラスさんが番をしていた。


「ダグラスさん!標的が動きました!!」


「わかった。ガルシア隊長には俺から言っておく、ルナは標的の追跡を頼む」


「お願いしまます」


 言って私は自分たちの泊まっていた部屋に戻ろうとすると、そこからサジさんが出て来る。


「サジさん、犯行場所の予測が出来たのですか?」


「うん、貴族の住む区画に移動しているみたい私たちも急ぐよ!」


「わかりました」


「ルナちゃん念のため隠ぺいの魔法をかけておいて、ルナちゃんの練度でもないよりはましだから」


「了解」


 言われて私は隠ぺいの魔法を発動させる。しかし、サジさんは隠ぺいの魔法をかけていないようでその存在感はそのまま感じとれていた。


「サジさんは隠ぺい魔法をかけないのですか?」


「もうかけてるよ、ただルナちゃんを隠ぺいの対象から外しているだけだよ」


 流石はサジさん。そんなことまで出来るのか。


「さ、行こう」


「はい!!」


 私たちは宿を出て、貴族街へと急ぐ。私は走りながらサジさんに訊く。


「まだ人を襲ってはいないですよね」


「そこまで細かくはわからないけど、標的はまだ移動をしているから獲物を見定めている最中なんじゃないかな」


「わかりました。急ぎましょう」


「うん」


 やがて私たちは貴族の住む区画に着く、すると遠くの方で一人の人が歩いているのが見えた。


「あれが標的ですか?」


「いや、あの人じゃない。けど、しかも標的はあの人のじゃないみたい」


「それじゃあ今どこに――」


「ついて来て」


 言われて私はサジさんの後についていくと、サジさんは貴族の住む区画にある一軒の屋敷の前にやってきた。


「どうやらここみたいだね」


「どうします?このまま踏み込みますか?」


「そうした方が良さそうだ。標的は今屋敷の中にいるからね。もうだれかを襲っているのかもしれない」


「標的はどの辺にいるんです?」


 言われてサジさんは屋敷の二階にある窓を指差す。


「あの部屋だよ」


「わかりました」


「ルナちゃんどうやって入るつもり?」


「そんなの決まってます」


 言って私は全身に魔力を充填、身体強化魔法を発動させてジャンプする。高さは十分あとは、更に私は象形魔法を使って足場を形成し、入室のための土台を創り出す。


「ダイナミック……」


 そして屋敷の中に人がいることを確認すると、


「入室!!」


 飛び蹴りの恰好で屋敷の窓をぶち破り、勢いそのまま中に見えた人影に飛び蹴りをぶちかます。


「ぐえぇ」


 すると人影は私の蹴りにより見事に吹っ飛ばされ、屋敷の壁に激突する。よし、先制攻撃成功。ってあれ?吹っ飛ばされた人を見ると、でっぷりと太った男性が気絶していた。


「あれれ?」


 ウラッドさんじゃない。これはまさかハズレか?


「ルナちゃん。ルナちゃん」


 ぶち破られた窓枠からサジさんの声がする。振り向くとそこにはサジさんがいて、呆れた顔をしながら指を差していた。私は嫌な予感を感じつつサジさんの指差す方を見る。するとそこにはウラッド卿が赤色のレイピアをもって、唖然とした表情でそこにいた。


「ということはつまり……」


 やっちまった。標的と間違えて被害者の方に会心の飛び蹴りをかましてしまった。


「ああ、ごめんなさいおじさん」


 私は吹っ飛ばしたおじさんに謝りの言葉を言うが、既におじさんは完全に沈黙、一応生きてはいるようだが返事はなかった。。


「フフ、突然の闖入者ちんにゅうしゃが誰かと思えば。あのカズキ・フタバの妹ではありませんか。やはり血は争えないということですかね」


 そうウラッドさんが笑いながら言う。ちくしょう、今の状況では何も言い返せない。


「そう言う貴女はこんな夜更けに他人の家に何用なのですか?」


 何も言えない私の代わりにサジさんが言う。


「間引きと粛清、それに救いだよ。その男は領の予算を横領していてね。その粛清のためにここに来ていたんだ」


 事の善悪は置いておいて一応理由があるようだ。しかし、


「では、これまでの被害者も何か不正を犯した人間たちなのですか?」


「いいや、粛清は今回が初めてだ。今までの行為は間引きだよ」


「間引き?」


「そう、この領に必要のない人間を間引いていたんだ」


 必要のない人間を間引いていた?この人は一体何を言っているんだ?


「必要のない人間って何を根拠に」


「この街に住む者は皆私のために毎日汗水を流して働いてくれている。が、そんな者たちの中には何もせず怠惰に過ごす者達もいる。私はそんな人間を間引き、この領を理想郷に近づけているんだ」


 要は自分にとって有益な人間のみを生かし、それ以外は殺して回る。とても常人の思考とは思えない。


「貴女は自分の言っていることを理解しているのですか?」


「何か問題でもあるのかい?」


「問題だらけに決まっているでしょう。人を間引くなんて到底許される行為ではありません」


「ならばどうする」


「貴女が大人しくお縄につくなら、穏便に事を進めることができます」


 そうサジさんが言うと、ウラッドさんは「フフフ」と笑い右手に持ったレイピアを構える。


「そうするつもりはないようですね」


「ああ、私は私の理想のため、それを阻む者たちには容赦しないと決めているんだ」


「残念です」


 言ってサジさんと私は自身の持つイーターを構える。ここにウラッド領の運命をかけた戦いが始まるのであった。

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