第4話 喰らうモノ
「なんぞこれ」
「何とはルナ、もしかして貴女初めてイーターを具現化させたのですか?」
しまった。棍棒というあまりに意外な武器の出現に素の反応をしてしまった。
さて、どうするか。このまま嘘をつき続けても意味はないだろう。それに正直に話した方がロレーヌの好感度的にもよろしい気がする。
「実は……」
私はロレーヌとガルシアさんに、今現在に至るまでの経緯を包み隠さず正直に話す。そうしたところロレーヌはとてもショックを受けた様子で言う。
「そんな……大罪人とはいえ、その責任を実の妹にとらせるなんて管理者様は一体何をお考えなのかしら」
大罪人て、姉よ、本当にこの世界で何をやらかしたのだ。私は姉の所業に呆れつつもロレーヌの意見に同意する。
「だよね、だよね。あんの童女今度あったらただじゃおかねえ」
「管理者様は童女なのですか!?」
ロレーヌが意外なところに喰いついた。
「そうだよこのくらいの身長の可愛い子供。名前は確かアールって言ってたかな、ロレーヌはアールのこと知らないの?」
「はい、管理者様は歴史の節目に現れる神のようなお方ですから」
「げ!マジで!?」
なんだよ、童女姿だったから神の使いかなんかだと思ってたのに神そのものとは、もう少し媚びておけばよかったか?だけど、
「その神様がくれたモノがただの白い棍棒とは……もっとマシなモノをくれても――」
「誰がただの棍棒だ!!」
突然メチャクチャ渋いおじさんの声が聞こえた。私はロレーヌを見るがロレーヌは首を横に振り、それはガルシアさんも同様であった。
「じゃあ一体誰が……」
外にいる他の兵隊さんという線も考えられるが、二人の様子からその線は無いように思える。
私が難しい顔をしてそうこう考えているとロレーヌが私の持つ白い棍棒を指差す。
「え?嘘、この棒!?」
「だからただの棒なんかじゃねえと言っている」
「異世界から転移、転生された方々の持たれているイーターは知性ある武器――インテリジェンスウェポンなのですよ」
マジか、インテリジェンスウェポンと言えば、よくゲームとか漫画に出て来る武器だ。
私は手に持った白い棍棒もといイーターをまじまじと見る。うん、私にゃどっからどう見ても白い棍棒にしか見えない。これはハズレを引かされたか?
「お前今、この紳士をつかまえておいて、ハズレを引かされたとか思ってないか?」
白い棍棒がズバリと言い当てる。流石インテリジェンスウェポン、インテリとついているのは伊達じゃないらしい。だがしかし、
「そりゃそうも思うでしょ。せめて剣とか槍とかならまだ使い道も色々あるだろうにただの棍棒だよ、それならまだ知性のかけらもないナイフの方がましってもんだよ」
「なんだぁ手前ぇ」
「なによ」
私と棍棒の間に気まずい剣呑な空気が流れ始める。すると、
「お二人ともそこまでです」
見かねたロレーヌが割って入る。
「イーター様」
「なんだい姫さん」
「ルナはまだこの世界に転移したばかりで、頼る人もなく、心細い思いをしている女の子なのですよ。イーター様が紳士を名乗る素晴らしいお方であるのならば、ルナに優しく手を差し伸べてあげて然るべきではないのですか?」
「う、うむぅ」
やーい、やーい、叱られてやんの。そう私が思い口の端に笑みを浮かべていると、
「ルナ」
今度は私に矛先が向いた。
「突然見知らぬ土地に飛ばされ、心細くなる気持ち、私には想像し難くその心境も測り知ることしかできません。だからと言ってですね、何を言っても許されるかと言えばそうではありません。知らなかったとはいえ、イーター様は知性を持つ武器、つまりは一つの意識を持つ人であるとも言えるのです。そんなイーター様を貴女はただの棍棒と称し侮辱したのです。それは謝って然るべきだと私は思います」
「うぅ」
ぐうの音も出やしない。仕方ないここはひとつ謝ると――
「フッ」
あ、今鼻で笑いやがったコノヤロウ。
「ゴメンロレーヌ、謝ってやろうと思ったけどやっぱ無理。このクソ棍棒一回シメてやらないと私の気が済まない」
「誰がクソ棍棒だこの小娘」
「へっへん、小娘ですがそれが何か?」
「グ、ぬうぅ……」
クソ棍棒が二の句をつげないでいる。この棍棒口喧嘩がそこまで強くないと見た。さてどうやって料理してやろうか。私はそんなことを思いながら邪悪に笑っていると、
「マナ!!」
「ひゃい!?」
「わたくしの言ったことの意味理解していましたか?」
ロレーヌが静かに微笑みを浮かべる。だというのにその纏う雰囲気には怒りが感じ取れる。直視することが出来ないほどに怖い、これが世に聞く王族の威光による圧力というやつか。
私は居住まいを正してただ、ただ、ロレーヌのお説教に耳を傾けることしかできなかった。
―――十数分後
「というわけでルナ、ちゃんとイーター様に謝りなさい」
「はい……ゴメンよイーター、白い棍棒なんて言っちゃって」
「イーター様」
「う、うむ、わかれば良いのだ」
「それだけではありませんよね?」
「グッ、我もすまないと思っている」
「ルナ」
「良いよ、許してあげる」
「はい、これで仲直り」
ニッコリと花のような笑顔に戻るロレーヌ。ああ、ロレーヌ、君にはやっぱりその笑顔が一番似合うよ。
「それでイーター様に一つ質問があるのですが」
「なんだ姫よ」
「イーター様は何のイーターなのですか?」
私とイーターが疑問符を浮かべる。
「そうです、例えばカズキ・フタバは魂を喰らうソウルイーターというイーターを所持しております。このようにイーターにはそれぞれ属性、食癖とでも言いましょうか、これだけを食するという癖のようなものがあるのです。だから――」
「こいつの食癖も確認しておきたいと」
それは私も興味がある。
「我はこいつなどという名ではないわ。ちゃんとした名がある」
「あんた名前なんかあったの?」
「先程から姫さんは言っているではないか」
「イーターってやつ?でもそれって仮称でしょ」
「そうだが我はその名が気に入った。これより我の名はイーター、それで良いしそれが良い」
「了解、それじゃあ私もそう呼ぶことにするよ。それでイーターの食癖って何なのよ」
「分からん」
「は?」
今なんて言ったこの棍棒。へし折ってやろうか。
「だから、わからんと言っている」
「自分のことなのに?」
「自分のことであったとしてもだ」
私はロレーヌの方を見る。ロレーヌも困り顔をしている。
「つっかえね~」
私の異世界転移、前途多難過ぎやしないかい?
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