第5話 身の振り方

 あれから数時間後、私たちは目的地であるロディキウムの街のすぐそばまで来ていた。


「あそこに見える街がはじまりの町、ロディキウムです」


「へ―はじまりの町って言っても立派な防壁があるもんだね」


 私がロディキウムの街を囲う立派な防壁を見て素直な感想を言うと、ロレーヌが何とも言い難そうな顔をしていた。まさか


「この立派な防壁の原因ってまさかうちの姉にあるの?」


 ロレーヌが何も言わず首肯のみで返す。

 マジか~、姉よ本当にこの世界で何をやらかしたというのだ。怖くて聞きにくくなるじゃないか。


「実はその……私の公務の原因もルナのお姉様にありまして……」


「マジなの?」


 ロレーヌが再び首肯のみで返す。


「今回の私の公務はルナのお姉様であるカズキ・フタバによる被害の確認及び、それからの復興状況と次以降のカズキ・フタバの襲撃に対する対策の確認をすることなのです」


 私は額を覆いながら天を仰いで馬車の天井を見る。そして決心するようにロレーヌに訊く。


「ちなみにだけど聞いていいかな?」


「はい」


「今のところ私の姉による被害ってどんなものなの?」


「いまところ、と言われましても私が王都を旅立ってからまだ日が浅く、最初の町であるロディキウムにもまだついていませんので詳細な被害についてはわかりません。ただ」


「ただ?」


「ルナがカズキ・フタバの悪事の責任をどうしても取りたいというのであれば、それなりの覚悟が必要かと」


「そんなにかぁ~」


 私は再び馬車の天井を仰ぎ見る。そして考える自身の身の振り方を。よし、決めた。


「ロレーヌ」


「はい、何でしょう」


「ロレーヌにお願いが一つあるのだけれど、良いかな?」


「お願いですか?」


「そ、お願い」


「それは一体どのようなお願いなのでしょう?」


「私をロレーヌの公務に同行させて欲しいんだ」


「それはまた何故」


「私が管理者アールに言われたことは姉のやらかしたことの責任を取れってことだったでしょ」


「そうですね」


「なら、私がロレーヌの公務について行けばその被害状況もわかるってものでしょ」


「はい」


「管理者の奴は一姫のことを〇せって言ってたけど、正直私はそんなことしたくないし、出来るなら被害回復くらいは協力したいと思ってるんだ。だから――」


「私の公務に同行したいと」


「ホントのところは女の一人旅って色々危ないじゃない。だから同じ女の子で、ましてやお姫様のロレーヌと一緒にいられたら安心、安全かな、っていう打算的なところもあるんだけどね」


 そう言ってお茶を濁す私に、ロレーヌは微笑みを浮かべながら言う。


「ルナ、貴女は真面目で親切な方なのですね」


「どこが!?」

 

 真正面から言われたせいか、おどけるように私は言う。


「そういうところがです」


 ロレーヌは花のように笑う。

 うん、ロレーヌには敵わない。私はそう結論づけた。


「それで同行の件だけど……」


「わたくしはかまわないのですが……」


 言いながらロレーヌは私の隣に座るガルシアさんを見る。なるほどロレーヌの公務の全権を握るのは護衛隊長でもあるガルシアさんか、さてどうやってこの人を説得するか……私がそんなことを考えていると、ガルシアさんが口を開く。


「よろしいですよ」


 まさかの即答、


「本当に良いんですか?」


「なんだ、反対して欲しかったのか?」


「いや、そういうわけではないのですが、ガルシアさん、貴方仮にも一国の姫の護衛隊長でしょう。そんなに簡単に許可していいことなのですか?」


「一応お前の人柄とか、脅威になりうるかとか総合的に判断した上での決断なのだがな」


「つまり、私はロレーヌの脅威になりえないということですか?」


「そこよりもお前の人柄だな、打算的なところもあるが考えるべきところはちゃんと考えているし、基本善人なお人好し。どうだあながち間違っちゃいないだろう?」


 私はガルシアさんの分析能力に舌を巻く。なぜならいつも友人たちに言われる私の性格とほとんど同じであったからだ。


「その顔は間違いないということであっているな」


「――はい、私ってそんなに分かり易い性格なのかな?」


「そこは、私の経験による部分も大きいから何とも言えんがな、それに同行を許したのはルナの人柄だけで判断したわけではないぞ」


「というと?」


「その顔だ。いくらお前自身が善人であったとしても、同じ顔をした大罪人がいる以上、お前を一人で活動させるより我々と共に同行させた方が領民たちも安心して生活が送れるというものだろう?」


 そう笑いながら言うガルシアさん。くそう実に領民想いの発想に、ぐうの音も出やしないよコンチクショウ。だが、ロレーヌの公務への同行をすんなり許してくれたのはありがたい。後は……


―――ロディキウムの街


「ひい~カズキ・フタバだ~!!」


 とビビりにビビりまくる番兵さんの警戒を解かなければならない。

「あの~」


「ひい~」


「ちょっとお話を~」


「助けてお母ちゃん~」


「聞いてくれないですかね~」


 そう言ってガルシアさんは私の頭を軽くはたく。いやだってこの番兵さんの反応があまりにも面白いものだから……


「それに貴様もだ馬鹿者。これが本物のカズキ・フタバであったのなら貴様は番兵としての任務を放りだして逃げていたのか?」


「え……本物ってことは……」


「私カズキ・フタバの双子の妹のルナ・フタバと申します」


「双子って、マジでか?」


「大マジです」


 私と番兵さんは見つめ合い、しばらくの沈黙の後、


「おのれ、カズキ・フタバここであったが100年目、ロディキウムの街の平和は私が守る!!」


言ってキリリっと大見えを切る番兵さん。なれば私も、


「ハハハハハ!!この私を止められるものならば止めてみるが良い」


と、どこぞの魔王のような演技をする。すると番兵さんが、


「ええい!!」


と装備していた槍を、大上段の構から私に向かって振り下ろす。その動きはスロー、テレフォンパンチ以下の一撃だ。


「なんのこれしき」


 私はそんな一撃を右手に持ったイーターを用いて華麗にさばく。そんな見え透いた演技の応酬2,3度繰り返されると、


「いい加減にせんか!!」


と、ガルシアさんに叱られた。ロレーヌはクスクスと笑っている。ロディキウムの他の兵隊さんたちに漂っていた剣呑な空気も雲散霧消。やったねルナちゃん作戦成功。番兵さんもありがとう。皆の空気を和ませてくれて。

 そんな視線を番兵さんに送ると、番兵さんにウィンクで返された。まさか貴方最初からわかっていて、あえて私の作戦に乗ったのか、番兵たりとて油断ならぬ街ロディキウム。

 私の異世界生活最初の拠点その一日目がこうして始まった。

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