第11話

 列車に揺られて着いた先には煉瓦造りの建物を縦に広げた瓦造りの趣のある建物が乱立していた。

 著名な建築家が携わった街のシンボルが永遠という歳月をかけてやっと完成したとかで街は賑わっていた。

 道路脇にテントを張った行商人が客を呼び込み大道芸人が花を撒き散らしながらその間を練り歩き口からは火を吹いている。子供を連れ立って歩く姿はさながらパレードの中へと迷い込んだようだった。

 カサミラーニュへと吐き出された私たちは日暮れに伴い部屋を探してその間を抜けていく。

 人の熱気で賑わう通りは暖かく見たこともないものが飛び出しては消えていくたびに目を奪われる。甘い匂いが鼻をくすぐればお腹が鳴ったがそんなものは人々の歓声掻き消えていく。

 喧騒を抜ければ酒場が軒を連ねていた。

 通りを挟んだ向かいでは抱き合わせの如く宿泊施設が並んでいる。

 街はどこも満室であったらしく困り果てた結果行き着いたのは現状にはあまりよろしくないハートマークが飛び交う建物だった。

 野宿よりは、野宿よりはマシだと言い聞かせて足を運ぶ廊下ではベットの軋む音や様々な声や音などがもれなく聞こえ繋いだ手には汗が浮かびいたたまれなくなる。

 耳を塞いで頭を抱えたい心境だった。

 それは部屋に着いても変わることはなくもう泣いてしまいそうだった。

 私は出てくる。と言われ部屋を後にしようとした公爵様に半ば縋り付く形で掴みかかる。

 置いて行かないで。

 耐えられません。

 こんなところにひとりで残していくのはあんまりです。

 口にはできない思いが伝わればとじっと瞳を見つめる。

「ベラ、悪いが少し離れてくれるか」

 頭を振って拒否してからひとりだけ逃げさせはしないと公爵様を握る力を強めた。

 盛大な溜息をついた公爵様は口元を手で覆いもごもごと口の中で呟いてから逸らしていた顔をこちらに向けた。

 何を言っているかは聞き取れなかったが「野宿でも構わないか?」と諦めたように口にした言葉に首を縦に振って同意した。






 先日訪れた時はもう少し静かだったんだが。

 ひとまず食事を取ろうと足を運んだ先で注文した後に公爵様がぽつりとこぼした声が耳に届いた。

「すまない」「いえ」と顔を逸らして受け応えていたところに「なんだい痴話喧嘩かい?」料理を運んだ女性が現れた。

 レストランは地元の郷土料理が味わえると掲げられていた。湯気とともに運ばれてきたスープに唾液がたまる。

「あーいえ。今日泊まるところがなくて途方に暮れていたところで」

 苦笑いを漏らすと女性は瞬きを繰り返して、

「なんだいそんなことかい。よかったらここの二階が空いてるが泊まるかい?」

「いいんですか」

 提案してきた言葉に思わず前のめりになる。

「ああベットはひとつしかないがくっついて寝れば平気だろ」

 待ってください、それは今色々あれなんですけど。とは言えず公爵様に助けを求めるように視線を移せばスープに口をつけていて話を聞いていないようだった。

「なああんた構わないだろ?」

「⋯⋯あ? ああ。いいんじゃないか」

 話をふられた男性が厨房から顔だけを覗かせて了承してから「そこがバスルームだから好きに使いな。じゃああたしは店に戻るから」気がつけば閉められた扉に立ち尽くしていた。

 同じ部屋やひとつのベット眠ることはあった。

 けど、あの場所を訪れた後とでは状況がちがう。

 公爵様が入ったあとにシャワーを使う。

 時間を稼ぐように湯船にお湯を溜めて使ってみたがのぼせだして冷水をかける。

 もう仕方ない。

 どんなに引き伸ばしても状況はかわることはない。

 身体と髪を保湿して寝巻きに着替えていく。

 散々な1日だと思った。

 髪を解かす理由をつけてバスルームからでる時間を引き伸ばしていたが諦めて部屋に戻ると公爵様はすでにベットに横になっていた。背を向けた公爵様の顔が窓に映り込んでいる。瞼は下ろされて寝息が薄ら聞こえていた。すでに眠っているようだった。

 息を吐き出してその横にそっと潜り込んで背中を向けて目を瞑った。

 心臓の音が聞こえるのではないかとも思ったけれど旅の疲れが溜まっていたのか意識が徐々に薄れていくのがわかってその微睡に身を任せた。

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