第10話

 摺鉢状に形成された街には石造りにカラフルな瓦屋根の街並みが乱立していた。中には建物と大木が同化しているものも見受けられる。

 その形成上風が吹き込みやすいのか船体が大きく傾いた。

 バランスを崩し痛みに備えて身を縮こまらせていれば鼻腔にはウッド系のにおいを捉える。少し遅れて嘆息が頭に降ってきた。

「大丈夫か?」

「……え、ええ」

 声を追えば割と近くから顔を覗き込まれていたことに気づいて礼を述べて距離を取る。

 注意喚起のアナウンスが鳴り乗客はしばしの足止めを求められた。

 再び船外に目を向けると坂の途中には机と椅子が並び食事をとる人々や洗濯物を干す人、バルコニーでお茶を楽しむ者はたまた男性の首を掴み怒り狂うご婦人の姿も見えた。港町らしい光景なのか、そろいの制服を着た筋骨隆々の男性が歩く姿も見受けられる。

 その光景を下へ下れば線路が横切り海沿いを扇状に行く手を伸ばしている。

 港からは駅が併設されて乗客のほとんどはそちらに進んでいく。

 例にもれず私たちもそちらに進んでいけば船から吐き出された乗客たちで列車内にはすでに満席なようだった。

「こっち」

 公爵様はそこから数両先の車両扉前で待機していた駅員に声をかけると駅員は敬礼をして扉を開けてくれた。

 車内は駅ホームから階段数段分高くなっていて駅員の手を借りて登っていく。

 車内は車両ひとつを丸々個室としてあてがわれる形でベットやソファーをはじめトイレやお風呂までついていて一種の宿泊施設にも思える造りとなっていた。

 窓際の座席に腰を下ろせば発車のベルの音がけたたましく鳴り響きガコンと一際大きな音が座席下で聞こえたのを合図に窓の外の風景が後ろへと流れはじめた。

 先頭車両の煙突からは蒸気が大陸に水をもたらすため線路を植物が育つらしい。

 確かに窓から見える線路脇では花々が縁取っていた。

 カサミラーニュまではまだまだ先だという。

 考古学者には会えるだろうか。

 どうかまだいますように。

 期待と不安が入り混じる胸中を抱えて列車は速度を上げた。

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