18話

 ヒサ子姉の葬儀には、キヨミさんは誰から連絡が行ったのか、いち早く着て、勝手知ったる家の中で、エプロンを用意してきて、細々と動いてくれた。

 私は彼女を目で追いながらも、挨拶もできないままで居た。彼女は以前から陰ひなたの無い人で、そつなく動くので、重宝していた。

 四月になり高校の入学式が迫った頃、田舎の、良く来るおばさんと一人の女の人が来た。家の両親とは話しが出来ていたようで、おばさんに言い含められて、今日から私の家で手伝いをしながら、学校に通わせてもらうらしい。

 名前を幸子といった。私と同じ女子校の家庭科を受験して合格したらしい。どうして、私の家に来たのかしら。

 入学の次の日から、私は幸子さんと学校に行く事になった。

 私が何か話しかけても、小さな声で、要領を得ない。女子校は小学校の少し先で、さほど遠くはない。

 彼女と別れて私だけになれるのは、学校に行っている間で、家に帰れば、朝から晩まで一緒の家、一緒の部屋、寝るのも一緒の部屋、食べるものも一緒、何もかも一緒なのは疲れる。意識しないわけにはいかない。かといって、私と無駄話をするわけでも、一緒に何かを見るわけでもない。たまに映画に行こうとすると、母は幸子さんも一緒に連れて行けという。帰りにコーヒーをと思うが、彼女はたぶん黙っていると思うと、どこへも寄らずに帰る。

 なんだか八方ふさがりのようだ。

 ある朝、学校に行く時間に配達の電話が鳴った。母が電話に出たが、あいにくその朝は、工場の仕事があって、ケーくんも父、兄も仕事で外に出られない。そこで母は

「配達に行って来て。幸ちゃんは自転車で、お前はバイクで―――」という。

 どうして一人で行けないのか。母が苦心して考えているのは分かるけど、私ひとりで行けるよ、と言いたかったけど。歯がゆいなぁ。母が考えた末の事で、反対は出来ない。

 ふたりで向かう道は、学校へ行く人達の道でみんなと向き合う事になる。私ひとりなら、友達と挨拶しながら行くというのもありだろうけど、彼女と一緒という事は、彼女の手前出来る事ではない。本当に身動きが取れない嫌な時間だった。

 学校には母が連絡してくれていて、何の事も無かった。こんな事は一生に一度で沢山だ。

 母に、辛かった事を言おうとすると、

「今朝はごめんね、こんな事はもうないと思うから」と言って、

「実は、彼女がうちに来たのは……」と話し出した。

 幸子さんのお父さんは農閑期の間だけ、東京に、建築関係の仕事で行っていた。いわゆる出稼ぎだ。

 その留守を狙ってか、おじいさんとお母さんが体の関係を持ってしまったという事らしい。怒ったお父さんは、もう子供の面倒は見ないから出ていけ、となって幸子さんは折角入った女子校に行けなくなりそうだった。そこで間に入った親戚の人が、うちにお願いに来たというわけだ。

「だからって!」

「口利きの人は、うちのお得意さんだから仕方なかったんだ。三年間だけ我慢してくれ。」と母は言った。

 商売なら何もかも犠牲にしてまで―――か?今までもそうだったから、仕方ないか。私はもう考えても仕方ないことは考えないように、と思った。

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