13話
兼吉と好男も、なかなかうまくいかない。大学の事もまだわだかまっているのっだろう。
次の日は朝から好男兄の自転車の後ろに乗って、元彼女のところとか、小学校とかを回った。そして私に、学校が終わって東京に来たかった俺のところに来るといい。一緒に住もう、と言ってくれた。が、たぶん私は東京へは行かないだろうと思う。そんな気がする。
そして母は、ヒサ子姉が好きではないのだろう事も、当たっているだろう。なぜなら、母とヒサ子姉の性格は、まるきり同じだから。
たぶん母は、ヒサ子姉のする事なす事、すべて分かっているんだと思う。だから友達に会うのも、映画に行くのも、私がお供をするように申しつけるのだ。
それでも、ヒサ子姉は、黙って家を出ることもある。いない、いないと騒ぎだすのも母だ。
嫁に行ったキミ姉なら、そのへんの事はわきまえているはずである。母の性格も、ヒサ子姉の性格も……。だから?、かどうかは分からないが、自分が巻き込まれないように、一刻も早くこの家を出たいと思っていたのだろう。はたしてそうだろうか?
母がエキセントリックになった事は、何度も目にしたし、耳にもした。
その性格は、多分、兄弟姉誰にでもある。遺伝というものか?
でも、それを抑える力も持っている筈だ。例えば相手が怒り、罵り、すると、私は帰って冷静になれた。小学生の時の鳥越先生の時だってそうだ。先生が熱を入れて私を責め立てれば、責める程、私は冷静さを守れたのだから。
ヒサ子姉が黙って、いなくなった夜、父と母は茶の間に待っていたようだ。頭を抱えてか手ぐすね引いてか、分からないけれど――
夜中に姉が帰ると、二人でえんえんと説教をしている。
ある晩、私は目覚めて階段を降りようとして、その声を始めて聞いた。
母は黙っている。父が言う。ふしだらな、とか、どうして、とか、夜の静けさに声が響く。
多分、姉はもうこんな家にいたくないと思うだろうし、そう思いながら、行く所もないのだろう。
暫く階段の途中に座って聞いていたが、それ以上降りることは出来なく、部屋に帰って布団に入ったが、眠れなかった。
そういえば、姉のいる前で、母は私に、何でもない事なのに、ヒソヒソと内緒話のように話した。そしてその時の母の目は、私ではなく、姉を盗み見ているような目線で―――。
あゝ、それで分かった事があった。それから何日かして、私は店の二階の工事をしている所を見上げていた時、自然と口がだらしなく開いていたのだろう。
声のする方を見ると、姉は弟をつかまえて私の顔を指さしながら、笑った。多分口を開けて上を見ていたからだろう。弟が私の悪口を言おうと口を開けた。
「だらしない―――」とか聞こえたが、私は何も聞こえないふりして、その場を後にした。
姉だって母親が欲しいだろうに、そして、お腹を痛めた親なら、いらない子などいないと思いたいが、私は怖い物を見るような気がした。
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