第5話

 超高難易度クエスト、琥竜の雄叫び実装から一ヶ月半。俺とメリィちゃんが決死の覚悟でクリアしてから半月が経過した。


「いよいよ、バランス調整が入るらしい」


「長かったね~。バランス調整まで」


 明日の定期メンテナンスで、ついにクソ難易度とプレイヤーに言われかけている琥竜の雄叫びの難易度が変更されるようになった。それと同時に、何やら新イベの実装告知もあるみたいなのだが……?


「一ヶ月半経って、クリアペアが私たち含めて三ペアしか居ないのは異常だよね。ちゃんとデバックやったのかな運営の人」


「やった上でこれなら、トッププレイヤーの名誉は運営さんにあげるべきだと俺は思う」


 流石にやっているはず。……やっている、よな?


 ちなみにだが、俺たちの他にクリアしたペアは、名実共にこのゲームのトップに立っているハナミさんという人のペアと、こちらも俺らほどでは無いが中々のコンビプレーを見せるアイナというプレイヤーさんのペアだけだ。それ以外は軒並みギミックにやられるか、時間切れのどれかである。


 流石にプレイヤーからの『ムズすぎ!』という苦情が相次いだのか、運営はこの定期メンテナンスで難易度調整を行うようだ。


「今回の対応はいつもより遅かったね」


「運営もプレイしながらどこを調整するか案を出してたんじゃない?」


 どれくらい簡単になるのかは分からんが、せめてもうちょっとクリア確率が上がるようにして欲しい。


 今までで、合計47回この琥竜クエに挑戦したのだが、クリア回数はなんと驚きの7回である。メンタルボッコボコにやられたよね。


「あ、琥竜のどこを調整するのか、具体的なお知らせが来たよ」


「ほんとだ。どれどれ」


 えーなになに?ギミックの難易度低下、敵全体の数を修正、敵全体のレベルの減少、攻撃力の見直しや防御力の低下……なに!?ドロップ率は変わらないだと!?


「ふぁ……あ」


 暫く話していると、耳元でメリィちゃんの欠伸が聞こえた。チラッと時計を見たら、針は既に11の文字を越していた。


 そろそろ、寝る時間かな。俺も眠くなってきたし。


「あ、あはは……ちょっと恥ずかしいね、欠伸聞かれると」


「とんでもない。可愛いからもっと聞かせて欲しいか」


 Vtuberのくしゃみは可愛いのと原理は一緒だ。もっと欠伸して。


「……みゅう……みぃくん、そんな簡単に可愛いと言うところ、私イケないと思うな」


「何で」


「みゅ!……ぅぅぅ……」


 可愛いものに可愛いと言って何が悪い。それに、好きな人には気持ちを正直に伝えたい。


「……そ、そんな人に可愛い可愛いなんて言ったらダメなんだからね!勘違いしちゃうから!どうせ、みぃくんは他の人にもそんなこと言ってるんでしょ!」


「……?いや、こんなことはメリィちゃんにしか言わないが」


「~~~~っっ!!」


 声にならない悶えが聞こえる。残念なことに、リアルでは女友達はいないし、恐らく顔を合わせたら緊張と恥ずかしさでこんなこと言えないぞ。


 俺が臆面もなく言えるのは、顔を合わせてないから、こんな無敵な人みたいな感じになってるだけで。


「み、みぃくんのおばか!」


 もう切るね!おやすみ!と言ってブツん!と通話が切れると同時に、ゲームからメリィちゃんのキャラも消えた。


 ………ふむ。


「はぁ……慌てて照れるメリィちゃんも可愛い……」


 照れるメリィちゃんからしか取れない栄養素が恐らくある。まだ発見されていないが、いずれ癌にも効くようになるだろう。俺限定だけど。


 とりあえず、この調子だったら明日の通話の一言目は「つーん」で確定なので、L〇NEでしっかりと謝っておこう。


╭─────────────────╮

|ごめんね、ちょっと褒めすぎちゃった >

╰─────────────────╯

 ╭─────────────╮

< もー!謝る気ないでしょ!! |

 ╰─────────────╯


 そんなことはない。ただ、もうちょっとメリィちゃんの可愛さを眺めていたいなぁとは思ってるけど。


 次の日、メンテナンスが思っているよりも長引いているため、ゲームではなくスマホで通話をしているのだが……。


「……メリィちゃん、どうしたら機嫌治してくれる?」


「つーん」


 と、やはり昨日の俺の予想通り、構って欲しいけど、昨日のは許してないんだからね!というふうな態度を取られている。


「……可愛いよ」


「うひゃあ!!」


 こんなやり取りが10分くらい続いた。

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