夜のデート。
掲示板と睨めっこ。
昇格試験も突破して、城壁の外の森の奥まで行けるようになった。とは言え、最奥は無理だが、更にランクを上げれば余裕。今は上げる為に頑張ってる。
狼獣人のケールともパーティーを組んでいる。
彼の方がランクが上だから吾輩のランクの上の依頼も受けれるが、単独では己のランクで勝負だ。
頼ってばかりでは、ダメだと思う。自立したいのだ。冒険者になったのも自立した猫獣人になりたかったのだニャ。えっへんッ。
己の身ひとつで金を稼ぐのニャッ。
地道に経験を重ねてランクを上げて、仕送りを増やしたい。
仕送りも出来るようになって順調。当初の目標は達成出来た。
次は宿屋じゃなくて己の根城が欲しい。まだまだ先の話になりそうだが…。
当面は仕送り増額だニャ。
(昼のお仕事は難しいし。気を張ってればやれるかニャ? んー、試すなら、もう少し危険度の低い…。コレだと報酬が見合わない。困ったニャ。ーーーーーおっ、コレなら…)
手を伸ばした紙をすんでのところで上から取られてしまった。背が低いからか?!
フニャーーーッ!と毛を逆立てて見遣ればケールだった。
彼は大型の狼獣人だ。
銀髪のクールな男だ。
「それは吾輩が先に見つけたニャッ」
お国訛りが出てるのも気づかない程慌てて彼の手に持ってる依頼書を取ろうと飛び上がる。
紙はヒョイヒョイと逃げていく。
彼の身体をよじ登って、腕に捕まり手を伸ばすが、小脇に抱えられるように抱き抱えられ阻止される。
「一緒に行こうか」
爽やかに宣われた。イヤじゃないが、ひとりで出来るモン。
ぷーッと膨れて、暴れるのはやめた。
腕に乗っけてくれるように抱き上げてくれて、掲示板から離れた。
壁際に移動した。顔が真横で話がしやすい。
「夜の森は危ない」
心配そうな声。ケールだって、単独で依頼を熟してるのに。今だってその帰りだと思う。
「夜目は利く。それにそんなに深くへは行かないと思う」
植物採取の依頼。ただ夜にしか咲かない花。今の時期の満月を挟んで数日しか咲かない『
花粉から花弁に葉茎根とありとあらゆる部位が素材として使える貴重植物だ。しかもなかなか見つからない希少植物でもある。
なので、報酬も良かった。チラリとしか見てないが。
「場所を知ってるのか?」
声を顰めて訊いてくる。
「うん。多分すぐに見つけれる。夜光花は僅かに音を出すんだ」
吾輩は知ってる。
花を咲く僅かな期間、かの花は月光に呼応するように音を奏でる。
吾輩は夜警の時、何度も風に乗ってきたその音を聴いた事がある。
文献にも僅かに書かれていた事だ。
気になる音はちゃんと調べるのだ。吾輩は出来る猫獣人の冒険者なのだ。
「それに匂いも僅かにするらしい」
こればかりは文献でしか知らない。『月光のような香り』とあったが、コレは分からん。
ケールは改めて依頼書を見てる。
顔を寄せて一緒に見る。頬がぺったりとくっつく。
うん、報酬がいい。
採取への注文が、ちょっと厄介な感じではあるがなんとかなるだろう。
「やっぱり一緒に受けよう。メインはロンで。オレは護衛で」
「護衛はいらない。ひとりで大丈夫」
「この細かい採取では周りの警戒が怠る」
言われてみれば、それもそうか…。
「メインは吾輩だぞ」
両手で頬を潰すように挟んで顔をこちらに向かせる。
「報酬の取り分は、夕食を一緒に、だ」
頬が潰れてるのに器用に喋る。
「はぁ?」
ニッコリ笑顔。イケメンは笑顔も様になる。
「なんだよ。分かった」
顔が熱くなってしまった。
ヒョイッと腕から飛び降りる。受付に向かう。
◇
掲示板の前で不安そうに揺れていたしっぽが優雅に揺れてる。
俺はニマニマと眺めていた。
周りが薄気味悪そうな顔で道を開けてくれるが、俺にとっては些細な事だ。
ロンは可愛い。
強がって頑張ってるところなんて健気でいいだろ?
コツコツと堅実に依頼を熟して評判も上々だ。採取の仕事は丁寧だから、そろそろご指名もあるかもしれない。
そんな頑張るロンを俺は応援したい。
夜のデートをゲット出来て俺は上機嫌だ。
仕事も一緒。飯も一緒。その後も…いや、宿屋まで送り届ける。まだ酒が飲める歳じゃないからな。
満月の夜を決行日にした。
文献には満月が一番開花するとあったからだが、ロンの記憶も後押しした。満月の風に乗って流れてくる微かな調べは、毛がソワソワしてしまうのでよく覚えているとか。
ソワソワか…。
俺も満月はソワソワしてしまうな。
ケツの穴がしまるような緊張と心臓が踊るような昂ぶりを覚える。
気を抜くと遠吠えをしそうになる。
耳をそば立ててるロンの邪魔はしてはいけない。俺の仕事は、ロンの採取中の周囲の警戒。森の奥深くへは行かないとは言っていたが、場所が定かではないので、用心を怠らないにこした事はない。
ロンの足取りはしっかりしている。
ピンと立った耳がぴこぴこ動いて可愛い。
鼻をヒクつかせてる。
俺も匂いには気を配ってるが、『月光の香り』とは抽象過ぎて…よく分からん。
ロンも言ってたが同感だ。
気が合った事に嬉しくなっていた。
ロンの足取りが速くなる。近いのか?
鼻を擽ぐる僅かな香り…。水?爽やか?スーッとするような…なんて言えばいいんだ?夜露の香り?
ーーー『月光の香り』としか言えない香りが僅かにする。
ロンの向かう方向からだ。
猫獣人も鼻は利くがコレは分からない僅かな香りだな。狼獣人の俺にしか分からないだろう。
森が開けた。
白い花が咲き乱れて、キラキラした花粉を風に乗せて揺れていた。圧巻だ。
早速採取準備に入るが、一応、文献との一致を検分。特徴が『夜光花』で間違いない。
花粉に花弁など部位の採取に、小ぶりな株を土ごと採取して渡されていたケースの入れる。
ロンは手早くマジックポーチにそれらを次々収納して行く。
周りを遠巻きに魔獣がいるのを感じる。不思議とこちらに気づいてるようなのに、襲ってくる感じがないし、逃げる訳でもない。
まるで、そう、順番待ちでもしてるような…。
「ケール、終わったよ」
囁くように声を掛けてきた。
「魔獣がいる。数も多い」
俺も静かに返す。
ロンも気づいてたようだ。気づいていても俺を信頼して採取に集中していたようだ。
何も言わずに、ロンの手をとると、そっと引き寄せた。
ロンの跳躍としなやかさがあれば、難なくここを離脱出来るが、この『夜光花』は身体を重くする作用があるようだ。
途中気づいた俺は呼吸を浅くして警戒していた。花にもなるべく近づかないようにしていたが、花粉が舞ってる空間では、限界がある。護衛の範囲ギリギリで留まっていた。
ロンは採取の為、接触は致し方ない。花粉も大量に吸い込んでしまったと思われる。例え呼吸を浅くしていたとしても。
ロンは何も言わずに俺にしっかり捕まってくれた。本人もよく分かっているのだろう。しっかり抱き抱えて、魔獣の包囲網の切れ目を探りながら移動する。
向こうも争う気はないのか、気味が悪くなる感覚で道を開けてくれた。
余裕が出て振り返ると、花を食べてる影が見えた。食べてないものもその場で寝そべっている。薬に使われる事もある素材だ。なんらかな薬効でもあるのだろうか…。
「ケール、身体が痺れるみたいに重い。花粉に痛みとか緩和する作用があるのかも」
怠そうにロンが告げてくる。俺にしがみつく指が解けてきてる。しっかり抱えてるから問題はないが眠りそうだ。鎮痛効果がとか書かれていたが、ここまでの影響が出るのか。
そうか。月光の下では効果が大きいのか。
城壁越えたら、近くの共同の洗い場に向かった。
旅で汚れた荷馬車や外で採取してきた野草などを洗ったり、馬に水を飲ましたりするところだ。
ロンには悪いが頭から水を被せる。身体に着いた花粉を落とす方法が洗い流すしか思いつかなかった。大量に街に持ち込むのも不味いと思ったのだ。俺自身もザバザバと被る。
暫くすると、プルプルと水を振り飛ばしながら、ロンが笑っていた。これで良かったようだ。
俺が細っこくなってるとケタケタ笑ってる。
俺の自慢の尻尾が痩せていた。
ブルルと水気を振り飛ばしても乾かない事には見窄らしいな。
「さ、さっさと納品して風呂入ろうか」
いくらマジックバッグで時間が停滞してるとは言え、月光が関わってるようだから、日中の移し替えで薬効などの効果が下がっては、依頼主も残念だろう。
「ケール、水も滴るいい男だな」
くすくす笑ってる。
「そうだろッ」
胸を張る。
惚れてくれよ。と心で呟きいながら、ロンの可愛い笑顔を見ながら、夜道を手を繋いで歩く。
こういうデートも悪くない。
この猫、子猫、誰の猫? アキノナツ @akinonatu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます