毎日会っていたい。
おまけのような短いお話♪
二人の日常のひとコマ。
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「ロン!」
耳としっぽがピコンと立ってしまうような気迫のこもった声。
「ひゃいッ!」
びっくりしたので返事が変になっちゃったよ。
夜警から帰って来て、食堂で焼きたてのパンに齧りついてたところだったので、許して欲しい。
「ホント騒々しいねぇ〜。ケールなんだい?」
「女将には関係ない」
「アタシは、ここの主人なんだから関係…もういいよ。コーヒーここに置くよ。ごゆっくり…」
宿屋の女将は、ふさふさしっぽをゆらゆらさせて調理場へ引っ込んで行った。
「ロン…」
切ない声で呼ばれた。なんだかきゅっと胸の辺が詰まるというか、苦しくなる。
ムシュっとパンに齧り付く。
狼獣人のケールに後ろから抱きつかれてる。グリグリと頭にほっぺたを擦り付けられてる。禿げるからやめて欲しい。やめて欲しいけど、けど…あったかいから…いい。
許す。
ケールは、抱きついたまま器用にベンチ型の椅子を跨ぐようにして、吾輩を脚の間に据え置いた。
完全ホールド。
無言でケールにされるまま、グリグリ、ぎゅぅぅううに耐えているとケールが情けない声で呟き出した。
銀髪の大柄の狼獣人。クールな男が台無しじゃ。
「泊まりがけの仕事が入った。ロン、寂しいだろうけど、泣くなよ?」
「泣かぬが?」
もきゅもきゅ食しながら応える。
「寂しいだろ? 泣いてくれていいんだぞ? 慰めてやれんが」
頭を撫でられている。
子供扱いは、そろそろやめて欲しい。
もうちょっとで昇格試験じゃ。半人前卒業。
一人前の手前というところかの。
「遠いのか?」
「あっ、ちょっとな。出来るだけ早く帰るが、無理はするなよ?」
コーヒーを飲むのも吾輩を抱き込んだまま。あったかいからいいんだが…。顔が熱い。よく分からんが、コレは…て、照れるのじゃ、多分。よく分からんがッ。
何故か知らんがッ。
手に持っていたパンをケールの口に突っ込んだ。
イケメンでモテモテで、キリッとした表情のケール。
「ちゃんと食って行け。空腹はいかんと言ってただろ」
吾輩が突っ込んだパンはあっという間に消えた。
「覚えてくれてるんだ。ロンもちゃんと食べろな」
笑顔が眩しい。
ついっと視線を外す。照れる…。
「もちろんじゃ。しっかりの」
唇が尖って、ブーブーと拗ねた物言いになってしまう。
毎日会ってるから、明日会えないと思うと…。
◇
長いしっぽが俺の身体をしゅるりと撫でる。
撫でて、絡んでくる。
言葉は強がっているが、『寂しい』としっぽが語ってくれる。
去り際はかっこよく決めていくかな。
惚れろよ?
良からぬ輩が寄ってこないように念入りに匂いつけしていく。
つむじに唇を寄せる。
耳にも。
口づける度に、腕の中の小さな体の温度がポンと上がる。
耳がピクピクしてる。
可愛いなぁ〜。
しっぽはピーンと立ってしまった。
ちょっと刺激が強かったかな?
「コレ持って行きなぁ〜」
そろそろ行こうかと思ってるところに女将が昼飯か、何かの包みを持って来た。
「おお、サンキュッ。行ってくるな」
席に取り残されたロンが、ぽけっと見上げてる。半開きの口の端にパンの欠片。しっぽが所在なげにゆらゆら…。
可愛いぃぃぃいいいい!
思わず顎先に指を添えると、そのぷっくりした頬にチュッとキスした。
ロンは「ひゃうぅ」と言ったきり、全身の毛が逆立ってるように固まってる。
「行ってきまーす」
さっさと仕事終わらせてくるかな。
手をふりふり宿屋を出た。
『いってらっしゃい。頑張って。無事に。早く帰ってきてニャ』
小さな呟きを俺の聴覚が拾った。
ガンバっぞ!!!!
周りの目も気にせず、ガッツポーズ!
空が青い!
眩しいゼッ!
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