第27話 デートのお誘い

「あの感じなら今後はもう俺の前に現れなくなるかもしれないな」  


 そういう結末を期待しながら自室に向かうと、俺のスマホがピロンっと鳴った。


 以前だったら着信音を聞くだけで、反射的に体が強張っていた。

 でも、もうこのスマホに花火から怒涛の圧迫メッセージが届くことはない。

 今、俺にメッセージを送ることができる唯一の人は、雪代さんだけだ。

 俺は自室に向かって私服に着替えてから、メッセージを開いた。


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【雪代さん】 一ノ瀬くん、さっきは送ってくれてありがとう

もうおうちに着いたかな?


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 雪代さんは一発目のメッセージでいきなり罵倒してきたりしない。

 これが普通で、今までがどれだけ異常だったのかを改めて思い知る。


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【雪代さん】 今日、打ち明けてくれたこと……きっと話すの辛かったよね

私、一ノ瀬くんの力になりたい

すぐ傍にいるのに一ノ瀬くんの苦しみに気づけないなんて、もう二度と嫌なんだ

だから、何か困ったことがあったらいつでも相談してね

一ノ瀬くんがしてくれたのと同じように、私は何があっても一ノ瀬くんの味方だよ


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「……っ」


 言葉を失った俺は、口を手で覆った。

 雪代さんのくれた言葉は、まるで宝物のようにキラキラ輝いて見えた。


「……やばい。俺……今、めちゃくちゃ感動してる」


 押し寄せてくる感情がうまく処理できなくて、髪をわしゃわしゃとかき回す。


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【雪代さん】 それから……私の告白も聞いてくれてありがとう

本当はまだ隠しておくつもりだったんだけど

衝動に駆られて言ってしまったのでした笑


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「しかもかわいいこと送ってくるし……」


 少し前まで一度も話したことのなかった隣の席の女の子が、自分の中でどんどん特別な存在に変わっていく。

 雪代さんとやりとりをするのが楽しくて、気づけば俺たちはそのまま何往復もメッセージを送り合っていた。


 どちらかが一方的に言いたいことを押し付けるんじゃなくて、ちゃんとコミュニケーションになっている。

 それがこんなにわくわくするなんて、今まで知らなかった。


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【雪代さん】 実は私、普段はあんまりメッセージでのやりとりってしないの

する相手もいないし


【雪代さん】 あ! 今の励まされるの待ちの自虐とかじゃなくて単なる事実の話だから気にしないでね!?


 ――それも含めて振りだって受け取ればいい?


【雪代さん】 ちーがーいーまーす!笑


 ――ごめんごめん、冗談

 ――俺も同じだからわかる


【雪代さん】 一ノ瀬くんはあんまりこういうの好きじゃない?


 ――まあ今まではいいイメージなかったかな


【雪代さん】 今は?


 ――雪代さんとだと楽しいよ


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 テンポよく返信がきていたのに、そこで少し彼女の応答が途絶えた。

 既読マークはついているので不思議に感じていると、真っ赤な顔で照れているうさぎのスタンプがピポンという音とともに送られてきた。


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【雪代さん】 ……いきなりそういうこと言うから、今心臓がバクバクしてるよ


 ――なんで? 思ったこと伝えただけだけど


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 本気で首を傾げながらそう伝えると――。


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【雪代さん】 だって一ノ瀬くんは私の好きな人だよ?

好きな人から、私とだと楽しいなんて言われたらドキドキするよ

ちょっと特別扱いしてもらえたような錯覚を覚えちゃうし

一ノ瀬くんは意外と悪い男ですね!


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 今度はうさぎがかわいく怒っているスタンプが届いた。


「……そ、そっか。俺の事好きなんだよな、この子」


 忘れてたわけじゃないけど、どうしても自覚の足りない発言をしてしまいがちだ。


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【雪代さん】 ところで一ノ瀬くんにお誘いがあるの


 ――お誘い?


【雪代さん】 うん

今週の土曜日、もしよかったら私とデートしてくれないかな?


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「デート……」


 驚きの提案をされて、思わず呟く。

 生まれて初めてデートに誘われてしまった。


 まさかこんな日が来るなんて……。


 花火の都合で、花火の行きたいところに連行されるだけの行事を花火は『デート』と呼んでいたけれど、あれが本来のデートではないことぐらい、もう俺は気づいている。

 あれは単に荷物係をさせられていただけだ。


 俺が返事をする前に、再び雪代さんがメッセージを送ってきた。


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【雪代さん】 一ノ瀬くんのことが好きだから、二人でお出かけしたいのです


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 やばい……。かわいい。


「って早く返事しないと」


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 ――俺でよかったら是非


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 硬すぎか?

 でも他になんて言ったらいいのかわからなくてそう返すと、今度は即座に返事がきた。


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【雪代さん】 うれしい……!


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 やっぱり雪代さん、かわいいよな……。

 思っていることを素直に伝えてくれるところも含めて。


「世の中にはこんな女の子も存在していたんだな……」


 花火のせいで、花火以外の女子のことがまったく視界に入ってこない人生を過ごしてきたけれど、こうして雪代さんと親しくなれて本当によかった。


「デートって、事前に何か準備しとくべきなのかな」


 行く場所は男が考えるものなのか。

 二人で相談したほうがいいのか。

 わからないことは山ほどあるけれど、俺と雪代さんはこのツールで繋がっている。


「無理に格好つけて失敗するより、相談したほうがいいか」


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 ――デートの仕方が全然わからないので、教えて欲しいんだけど


【雪代さん】 私も初めてのデートだよ?


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「わ、そうなのか」

 だったら尚更、俺の責任重大だ。

 楽しんでもらえるようがんばらないと、そう思った直後――。


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【雪代さん】 一ノ瀬くんに楽しんでもらえるよう、がんばるね!


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 同じ時に同じことを考えていた感じが、なんだかくすぐったい。

 俺たちはこのあとさらに話が弾んでしまい、結局、二時間近くかけてデートの内容について相談しあったのだった。

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