手記6.ニセモノとして……
ユキの死体を前に、私は気分を落ち着かせるために煙草を吸った。
怪我の状態からして山の斜面を滑落して死んだのだろう。
斜面を見上げると、花が咲いていた。
あの花を取りに行こうとして滑ったとしても、それほど急な斜面ではない。
生きていればなんとか体勢を立て直すことはできるだろう。
だから、おそらく彼女の死は墜落死ではない
命が尽きた。
ただそれだけだったのだろう。
私がじっと倒れるユキを見ていると、遠くから私たちを見る彼の姿があった。
私は彼に近づいた。
彼は何かを堪えるかのような表情を浮かべ、ユキの死体を見ていた。
おそらくユキを食べたいという衝動に駆られているのだろう。
私は彼に近づいた。
「彼女は死んでいる」
「わかっている。お前は大丈夫なのか? あの女とは知り合いだったようだが、悲しくはないのか……」
「さて、どうでしょうね……」
私は曖昧に答えた。
彼はじっとユキを見つめていた。
ユキと半月ほど暮らしていたが、名前などは聞いていないようだ。
とはいえ、ユキに全く興味がなかったわけではないようだった。
おそらく、無意識のうちにユキが自分に近しい存在だと気づいているのだろう。
それとも……
「喰らうのか?」
私が尋ねたが、彼は答えず、じっとユキを見つめていた。
私は煙草を吸い、彼の回答をまった。
「……俺は弔いたい」
「そうか……だが、そのためにあの女の体を元通りにしたい」
「
組織の息のかかった医者は使えない。
組織にバレればユキの死体は回収されるだろう。
そして、切り刻まれ実験され、その一部は標本になるだろう……
そんな姿にユキがなるのは耐えられなかった。
だから、私は彼に協力する事にした。
ユキが本当に弔う事になるのか、それとも彼が喰らうのかはわからない。
それは彼自身が決める事だ。
だが、ユキも彼と、本当の父親と最後の時を過ごすのなら覚悟していたはずだ。
だったら、彼がユキの最後を見届ける事は彼女の望みだったはずだ。
それならば、ニセモノの父親として最後にできることを全てやり遂げよう。
まずは、死体修復の技量を持つ者、死体修復者を早急に選定しなければならない……
私の手記は此処で終わりだ。
この曖昧で荒唐無稽な話を信じるか信じないかは、この手記を読んだ人が判断してほしい。
だが、私はこのような内容であっても、誰かに知ってほしかったのだ。
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