手記2.私だけが偽りの家族
私は孤児であり、組織の息のかかった孤児院で育てられ、組織の一員になった。
組織の任務には忠実であるものの、特に秀でたものも持っていなかった私は、魂喰らいの交渉人エージェントMとして選ばれると同時に、実験体の父親として彼女を育てる事になったのだ。
「特殊な任務だがやってくれるか」
「はい」
上司の言葉に私は即答した。
「戸籍の偽造などはこちらでやっておく。無事、異能をもった娘として成長」
「努力はしますが、できるかどうかは、わかりかねます」
「あいかわらず、正直な奴だな」
上司は嗤った。
ユキと名付けられた実験体はすくすくと育った。
私は苦労しながらも、妻と二人三脚でユキを育てていった。
妻は、ユキを生んだ女であり、かつてサキュバスと呼ばれていた異能使いでもあった。
妻がなぜ母親になることを選んだのか、私は最期まで知らなかった。
だが、おそらく本当のユキの父親である魂喰らいに情がわいたのであろう。
彼は異様な外見と異能をもっているが、数多の人間の記憶と経験を得たためか、中身は穏やかで品性のある男だった。
……少なくとも、組織の命令であれば、ためらいも疑問ももつことなく見知らぬ女と婚姻を結び実験体を育てようとする私よりは、はるかに人として優れているだろう。
子育てには協力したが、妻との仲は進展もせず、平行線だった。
話もするし、笑いあったりもする。
だが、それだけだ。
夫婦らしい営みをすることもない、目的を一緒にした同居人というのが私と妻の正しい関係であった。
私は、妻やユキに対し、見えない壁のようなものを感じていた。
私はいつも思っていた。
私は邪魔者ではなかったのだろうか?
あの静かな場所で、彼と妻とユキ3人で暮らしすのが一番幸せじゃないのかと?
だが、それは無理な話であった。
ユキは実験体であり……
……そして私は組織に忠実な男だったからだ。
伝え聞いたところによると、他の実験体は、ユキが中学生になるころにはすべて死んでしまったようだ。
そもそも、人工授精で子をなせるのか? 半人半鬼で育つことができのか? 育ったとはいえ彼の異能を得ることができるのか?
すべてが謎であり、失敗することが大前提の計画であった。
あるものは流産し、あるものは幼いころに鬼の因子が強くなりすぎて殺すことになった。また、精神が歪んでしまい使い物にならず廃棄されたものもいるとも聞いていた。
それに比べると、ユキはすくすくと育っていった。
しかし、それは泡沫の夢であった。
悲劇、あるいは喜劇はすぐ目の前まで迫っていた事に、私は開演するまで気づけなかった。
ユキも魂喰らいの因子に耐えきることができなくなったのだ。
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