2枚目

 私は先ほど自分が「選んだ」道、という書き方をしましたが、正直なところ私は「選ばなかった」から今こうして悩んでいるのだと思っています。選択するチャンスはいくらでもあったのですから。


 例えばピアノの先生に「○○本気で音大目指してみない?ピアノは副科でもいいから」と言われた9歳の秋。例えばお世話になっている先輩に誘われて見に行った吹奏楽強豪校の定期演奏会に感動し、自分も行ってみたいと思った14歳の春。例えば地球物理学者の父親に「○○は裁判官とか向いてると思うけどなぁ」と言われた文理選択時17歳の秋。


 結局ピアノを本気で続けることはなかったし、吹奏楽も人生をかけるとなったら怖気づいて、部活はほどほどの別の高校に進学した。文系より理系の方があとで「潰しが効く」と聞いたから理系を選んだ。



 私は19歳にもなってようやく気づいたのです。自分が「選択しない」ことをいつの間にか「選択していた」ことに。選択を後回しにすることは選択しないことと結局同じだということに。


 積極的に「この職業にはならない」と決めたわけではないのに、気づいたらピアニストにもスポーツ選手にもなることは難しくなっていて。私がしてきたはずの可能性を多く残すための選択は、何かを切り捨てる選択にもなっていたのでした。

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