第3話

 テレビ画面の向こう側の歌奈は、今、もっとも期待されている若手アーティストとして紹介され、ステージへと向かった。眩いスポットライトを浴びながら彼女が歌った曲は、私が、作詞・作曲した曲だった。


 その後のことはよく憶えていない。意識を取り戻した私の周りには、ガラスの破片が散乱しており、テレビの液晶画面はひび割れてお陀仏になっていた。私は、躰中の力を振り絞って叫んでみたが、カチコチと規則正しいリズムを刻む時計の音以外は聴こえてこなかった。私は「声」までも彼女に奪われてしまったのだ。


***

 声を失った私は生きる意味を失った。私は、歌をうたうためだけに生きてきた。それ以外には何もない。何も要らない。廃人のようになってしまった私を皆が憐れんだ。歌奈の裏切りを知り、私に同情し一緒に涙を流してくれた友人も、一年後には、とんと連絡を寄越さなくなった。所詮、友情など、この程度のものなのだと思った。

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