【短編小説】夢を抱く少年たち

遠藤良二

夢を抱く少年たち

 僕は嬉しい夢をみた。それは、彼女ができて更に、小説を書いて新人賞を取った、というもの。実際の僕には彼女はいないし、新人賞もまだとってない。


 彼女は欲しいし、新人賞をとって小説家としてデビューしたい。僕の名前は夏目勇三なつめゆうぞう、15歳。受験生だ。僕は地方のレベルの高い高校に行こうと考えている。両親に話したら、「合格できそうなら受けてみろ」 と言っていた。


 父の力強い励ましの言葉。ありがたい。なので、僕は一生懸命、勉強した。小説を書くのは、受験が終わってからだ。高校に入学してから書こう。 小説家デビューは僕の夢だ。中学校1年生から書いている。書いているジャンルはさまざまだ。恋愛、SF、日常、ファンタジーなど。書けないのはミステリー。難しい。小説家でミステリーを書ける人は凄いと思う。尊敬に値する。


 父は、「何でも挑戦してみろ!」 と言う。小説の題材にもなるから。 父は、凄く前向きな人だと思う。負けず嫌いだし。 でも、母はそこまで前向きではない。後ろ向きではないけれど。母は優しい。よく気がつくし。清潔感に溢れている。いつも掃除をしている印象がある。だから、常に家の中は綺麗。母は専業主婦。父は会社役員と聞いている。父も母も凄い人たちだ。


 聞いた話しだと、あまりにも親が偉大だと子どもがだめになる、と。僕は僕なりに頑張っているけれど。無理のないように。無理すると疲れてしまうから。なので、受験勉強は中学2年生になってすぐに始めている。1日の中でも休憩をはさんでやっている。1時間勉強したら15分休憩とか。僕は公立を受験しようと考えている。


 僕は受験生だけれど彼女が欲しい。僕の書く小説の題材にもなるし。題材のために付き合うのか! と彼女になった女子に怒られるかもしれないから言わないけれど。それもあるが、純粋に異性には興味はあるし下心もある。それが男子たるものだろう。まあ、最近ではLGBTQってのがあって一概に男子たるものとは言えない時代になったと思う。


 今日は日曜日。予定では午前中に受験勉強を2時間やって、午後から友達の川瀬裕二かわせゆうじと遊ぶ。彼は同級生で市立の高校を狙っているらしい。「受験勉強なんかまだしなくていいよ」 と言っている。 呑気なものだ。大変な思いをするのは自分なのに。そんなこともわからないなんて馬鹿だなぁ。 何をして遊ぼうか。昨日、親に買ってもらったゲームしようかな。ゾンビが出てきてそれをやっつけていくゲーム。なかなか面白い。


 僕は去年、親にスマートフォンを買ってもらった。凄く嬉しい。欲しかったから。でも、親は何かあったときのために買ってくれたらしい。だから、課金はできない。そんなことをしたら、すぐにバレる。連絡先を川瀬と交換した。彼はすでに持っている。川瀬の母は甘いと思う。欲しいと言えば何でも買ってくれるらしい。でも、反対に父は厳しいようだ。それで、必要のないもの、つまり、ゲームとかを買って父にバレたときは、夫婦喧嘩が始まると川瀬は言っていた。両親の喧嘩は本当に嫌だ。喧嘩の理由はさまざまで、おかずが悪い、とか米がかたいとか、ほんの些細なことで争いがおきる。


 川瀬とは一緒にゲームをしよう。ゾンビをやっつけていくゲームだ。暗いけどなかなか面白い。現実にはゾンビなどいないけれど、もし、いたら襲われそう。今回は僕の部屋でゲームをする予定。


 13時を過ぎて川瀬がやってきた。そして、「ごめん、1時間くらいしかいれない。急用ができて」 と言って申し訳なさそうな表情をしていた。僕は、「そんな暗い表情するなよ。今度はたくさんやればいいさ」 そう笑顔で得意気に言った。「夏目はポジティブだな。そういう思考でいられるのはうらやましいよ」「そんな大したことじゃないぞ」 川瀬は僕の顔を見詰めて、「ぼくにとっては大したことなんだ!」 と怒鳴った。「おいおい川瀬、そんなに怒るなよ。悪かったな」 僕が謝ると、「思ってもいないくせに」 そんなことを言ってきたので僕も腹がたった。「思ってるから言ってるだろ! もういい! 今日のところは解散だ!」 そう言うと、川瀬は僕の顔すら見ずに出て行った。何であんなことを言うんだ。あんなやつだったかな。様子がおかしいのでメールをしてみた。<川瀬、今になって思うけど何だか様子がおかしいぞ? 何かあったのか? あったなら聞くけど> だが、メールは返ってこない。まだ、不機嫌なままなのか。


 翌日、川瀬裕二は学校を欠席した。何でだ? 休んだ理由の見当がつかない。メールも返ってこないし。 学校から帰宅してパソコンデスクに向かった。小説を書くためだ。お父さんにこの前最新式のパソコンを買ってもらったばかりで使いこなせていない。まあ、小説を書いて応募するだけだから、そんな高性能なパソコンはいらない。せっかく買ってくれたからありがたく使わせてもらうけど。 そのとき、メールがきた。見てみると川瀬からだったので開いてみた。<昨日は急にかえっちゃってごめんな。特に何もないよ。心配してくれてありがとな> ときていた。僕はすぐにメールを返した。執筆の作業もあるから。<いやいや、いいんだけどさ。何もないならいいけどよ> 川瀬からは、<うん、大丈夫だ> というメールがきた。


 僕はミステリー小説を書こうと思っている。難しいとは思うけど。でも、このジャンルは人気があるはずだ。そこを狙って書き進めていこうと思う。小説の執筆は楽しい。読書も楽しいけれど。ミステリー小説を書くためにプロの小説家が書いたミステリー小説を読んで勉強している。そして、わからない言葉は徹底的に調べて理解し、覚える。これが楽しい!


 この前、喫茶店で知らないおじさんに声を掛けられた。その男性は痩せていて、不精髭を生やし、白髪でニタニタいやらしい感じの笑みを浮かべていた。僕はその時、ノートパソコンを家から持ち出し、そこで小説を書いていた。「おにいちゃん、何をしているの? 勉強かい?」と。 僕は正直に言った。「小説を書いています」 すると、白髪のおじさんは、「小説!? おにいちゃん、真面目に言ってるのか?」 僕は内心、なんだこの人、と思った。でも、その質問に答えた。「真面目ですよ」 するとおじさんは大笑いをし、周りのお客さんは迷惑そうにこちらを見ている。マスターも不快な表情だ。「君、小説家にでもなろうとしているのか? 面白いおにいちゃんだ!」 言いながら馬鹿にしたようにまた笑っている。僕はそう言われてムッとした。でも、何も言わずに我慢しているとマスターがやって来て、「ちょっとお客さん、他のお客さんに迷惑かけないでくれよ。酷いようだと警察呼ぶよ」 僕はマスターが正義の味方に感じた。でも、おじさんの発言で心に傷を負った。マスターは僕に話しかけてきてくれた。「おにいさん、ごめんね。私も気を付けて見てるから」 僕は、「はい、お願いします」 と言った。これ以上、からかってくるようなら帰る、と思っている。でも、おじさんは、「ケッ! ガキが」 と、言って出て行った。僕は何も言えない自分が悔しくて泣いてしまった。マスターはまた話しかけてくれた。「おにいさん。ほんと、ごめんね。さっきのおじさんはもう来ないと思うけど、もし来ても出入り禁止にするから。だから、また気が向いたら来てね」 マスターは優しい言葉を掛けてくれた。それがまた泣けてくる。ボックスティッシュを差し出してくれたので、そこから1枚取り、涙を拭った。それから僕はお礼を言った。「ありがとうございます、また気が向いたら来ます」 と言い、「今日のところは帰ります」 そう言い残し店を出ようとするところにマスターの声が聴こえた。「ごめんねー」


 帰宅して、夜になり、僕は今日の出来事を家族に話して聞かせた。お母さんは、「そういう人もいるんだね、嫌だいやだ」 と首を左右に振った。お父さんは、「何だ! そんなやつがいたのか! ろくでもない親父だな」 そう言ってくれた。 妹の愛子あいこは、「怖い! そんなおじさんいるんだ!」 と、言い顔を歪ませていた。 お父さんは家族全員に向かって言った。「世の中、どんなやつがいるかわからないから、充分気を付けるように」 僕は、「うん」 と、返事をし、 妹は、「はーい」 と、言った。 お母さんは、「確かにそうね」 気を引き締めたようだ。


 翌日。僕は気持ちを切り替えて、登校した。学校にはパソコンを持っていってもいいという許可をもらっているので、昼休みに小説を書いている。他の生徒は外でサッカーをしたり、体育館でバスケッとボールやバレーボールをしている。僕はスポーツは苦手だし、興味がない。その反面、妹の愛子はスポーツが好きなので、昼休みに友達と体育館でバスケットボールやバレーボールをしているらしい。そして活字が苦手のようだ。僕とは正反対だ。僕は小説ばかりを書いているせいか、たまに落ち込む時がある。でも、愛子は健康体に見える。きっと、スポーツをしているからだろう。そんなことくらいわかっているけれど、したくない。


 夜8時頃。お父さんは書斎で小説の執筆活動をしている。その時、不意に呼ばれた。「勇三!」 居間にいた僕は大きな声で返事をした。「なーにー!?」 お父さんも大きな声で言った。「ちょっとこーい!」 何の用だと思いながら書斎に行った。「お前は短編と長編どっちが得意だ?」 そういえばこの話しをしていなかったな。「ジャンルに寄って短編でも長編でも書けるよ」 お父さんは笑みを浮かべた。珍しい。厳格な人だからあまり笑った顔を見たことがない。「そうか。どのジャンルが得意なんだ?」 それはすでに決まっている。「現代ドラマだね」 お父さんは首を傾げている。「ヒューマンドラマとは違うのか?」 今度は僕が首を傾げた。そしてこう言った。「まあ、似てるね」 お父さんは頷いた。「だよな」と。 僕はこう言った。「今はミステリー小説にチャレンジしたい」 お父さんは眉間に皺を寄せた。「ミステリーか。難しいぞ」 僕はめげずに言い返した。「ネットや本にミステリー小説の書き方入門みたいなのがあるから、それを読んでみる。それからだわ、書くのは」 お父さんは笑顔になった。「そうか、頑張れよ」「うん、がんばる!」


 ところで妹の愛子の夢は何だろう? お父さんに訊いてみた。「愛子の夢はなんなの?」 するとお父さんはこう答えた。「あいつはスポーツが好きだからな。今のところ、聞いてないな。お前もだが、愛子はまず高校に入ることが先決だ」「そうだね」 お父さんは言った。「愛子を呼んできてくれ」 そう言われたので、2階の自分の部屋にいる妹に声を掛けに行った。 2階に来て、「愛子ー、お父さんが呼んでるぞ」 と、ドア越しに言った。「今、行くー!」「降りて来てよ。僕は居間に行くから」「わかったー!」 妹とのやり取りを終えて僕は居間に戻った。


 愛子は勢いよく階段を降り、お父さんのいる書斎に向かった。妹はお父さんに話しかけた。「お父さん、来たよ。何か用?」 父はパソコンを見ながらしゃべった。「愛子、お前は将来なりたい職業はあるのか?」 妹は即座に答えた。「トリマーになりたい!」 お父さんは、「お! それは初耳だな。お母さんには言ったのか?」 と訊くと、愛子は、「友達にしか言ってない。どうなるかわからないし」 お父さんは、うんうん、と頷きながら「女の子だから現実的だな。確かにどうなるかわからないな。勇三にも言ったが愛子、お前もまずは高校に入学することが第一の目標だ」 妹はきょとんとした顔で言った。「それはわかってるよ」 そう言われてお父さんは苦笑いを浮かべた。「そうか、がんばれよ!」 と、言うと、「うん、頑張る!」 元気な笑顔で愛子は答えた。


 僕は1つ思い出した。友人の川瀬裕二はどんな職業につきたいのだろう。訊いたことがない。明日、学校に行ったら訊いてみよう。先々のことを予測しながら生活したほうがいいかもしれない、と思った。もしかしたら、川瀬のことだから、何も考えていないかもしれない。適当なところもあるし。それが楽な気持ちになれる秘訣かもしれないが。


 翌日の昼休み。僕は川瀬を呼んで質問してみた。「なあ、川瀬。川瀬は将来どんな職業に就きたいんだ?」 彼は苦笑いを浮かべながら言った。「そんな先のこと考えてるのか。ぼくは、そんな先のことは考えていない。その通りになるかわからないし」 川瀬の意見も一理ある。「でも、先のことを予測したほうがよくないか?」 彼は顔をしかめた。「どうだろう。先のことと言っても限度があるだろ。2、3日後のことなら考えるけど、数年先のことはぼくは考えない。事情は変わるだろ」 なるほどな、と思った。でも、「受験勉強とかは2、3日先の話しじゃないけど、考える必要はあるんじゃないか?」 それに対し川瀬は言った。「それは物事によるだろ。でもな、ぼくもなりたい職業は1つあるぞ」 何だなんだ、と興味が湧いた。彼は言った。「獣医だ。ぼくは動物が好きだからな」 僕は笑みを浮かべながら、「何だ、夢があるじゃないか。ああでもない、こうでもないと言ってる割には」 と言うと、彼は笑いながら、「ぼく、そういう理屈っぽいところがあるのかもしれない。母さんに言われたし」 僕はやっぱり、と思い、「だよなー、言われるよなー」 川瀬は頷いた。 妹の愛子、友人の川瀬、僕、それぞれ目標や夢がある。だからがんばっていきたいと思っている。夢が叶ったとき、達成感に満ち溢れるだろう


                                     終

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【短編小説】夢を抱く少年たち 遠藤良二 @endoryoji

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