第12話

 触れてほしい。この人にめちゃくちゃにしてほしい。舌を一瞬唇の外に放ってしまうと、あっという間に彼の熱い舌に絡め取られてしまう。


 ペロペロと舐められる度に翻弄される舌。もっと、もっと……と目に見えない私の何かを求める声が聞こえそうなほど、強く吸われる。


 まるで生まれたばかりでどう生きればいいのかわからない、途方に暮れた小動物になってしまった気がする。


 いや今まで何人経験あるんだよ、どうしちゃったの自分。


 でも女はいつでも、初めてする男に対しては初めての女になってしまうのだ。相手が強くてしたたかで、脅威を感じる相手であればあるほど。


 そこへ音もなくカーテンが開かれ、見覚えのある顔が入ってきた。一か月前の花火大会の日にクルーザーにいた、キモオヤジAだった。雅哉に目配せしたように見えた。


 いつの間にか起業家Bが、私の背後にきて私の両胸を揉み始めた。雅哉が気を使っている様子なので、お尻を撫で回しているキモオヤジAも無下にはできない。


 起業家Cまでやってくると、雅哉は私を一瞥することもなく、選手交代のようにカーテンの外に立ち去ってしまった。いつもなら私の姿が見えなくなるまで、見送ってくれるのに。


 私の心と身体は置いてけぼりのまま、目の前の世界が流れていく。途中で数えるのを放棄したくなるほどの交尾を繰り返された私は、酔いが一気に回り、目を閉じた。



 さざなみのように折り重なる吐息。


 肉と肉がぶつかり合う幾つもの音。


 足の間をぴちゃぴちゃと舐められる感触で目が覚めた。


 白いシーツの海に横になり分厚い枕に身を傾けている私の下腹部で、ウエーブがかった男の黒髪が小刻みに揺れている。


 長くしなやかな左右の指で薄い皮を広げ、露わになった朱色の蕾を、子猫がミルクを飲むときのような音を立てて舐めている。


 いや子猫ではない、欲に飢えた性獣だ。シーツはあたり一面に広がり、あちこちでオスとメスが互いの性器を舐めあったり、正面や背面で交尾を繰り返している。


 複数の前で全裸になり足を広げて身体の中心を丸出しにするなんて、数時間前の私だったら考えられないことだったのに、今は相手が誰であれ私の薄ピンク色の泉からは、容易に透明な液体があふれるようになってしまった。


 私の右胸をショートカットの女が執拗に触りながら、左乳首を軽く噛んだ。

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