企画参加ネタ:ある酒場にて(異世界ファンタジー)
向かっている先から大きな歓声が聞こえ、しばらくするとその建物――闘技場から次々に人があふれ出てきた。
それを見て、男は間に合わなかったことを悟る。
(さすがに今から行ったら間抜け以外の何者でもないな)
終わる前であれば、自分の実績から優勝決定戦に割り込むことだって不可能ではなかったと思うが、完全に終わった後に、しかもすでに勝者への栄誉の授与まで終わった後に割り込むのでは、もはや道化だ。
別に優勝できなかったからと言って、それで自分の名声に傷がつくわけではない――はず。今回は諦めるしかないだろう。
そうなると、とたんに時間が空く。
むしろ今下手に見られる方が、かえって恥ずかしい。
外套のフードを目深にかぶると、男は周囲を見渡し――闘技場から溢れた人の一部が流れ込んでいる酒場に向かった。
酒場はすでにかなり盛り上がった客であふれていた。
話題はどれも、先ほど終わったばかりの剣術大会のことだ。
男はその喧騒を避けて、一番奥のカウンターの席に陣取る。
ただそれでも、客の話し声は嫌でも聞こえてきた。
「いやぁ、凄かったな、あの白銀の剣士。あんな速い剣は初めて見たぜ!」
「決勝ですら、ほとんど一方的に攻撃してたもんな。相手が反撃しても、それを受け流して鮮やかなカウンター! あれは見ものだったぜ」
興奮気味の話す男たちがいるテーブルに目をやると、四人組が大きなジョッキを空けながら話している。
「しかも美形で、剣は刃が青みがかって見えたよな。あれ、なんかの魔法なのかねぇ」
「どうだろうな。けど、あんだけ強いのに、噂聞いたこともなかったよなぁ。なんつったっけ、名前」
「お前、優勝者の名前忘れるとかないだろ。ベアトゥースだよ。しっかし、陛下からの士官の誘いもあるのに、さっさと立ち去っちまったらしいな」
そういえば、あの大会の優勝者は王国に召し抱えられることが多い。
かつて自分も断ったことがあったが。
「そういえばそんな話もあったなぁ。最近ずっとあいつが優勝してたから、すっかり忘れてたよ」
男は、思わず耳をそばだてる。
「あのルーヴェント団長がなぁ。なんか一回戦の後、急な依頼で以後棄権だっけ?」
「だな。まあ今更優勝に興味もなかったんだろうけど、あんな強い剣士がいるとは思わなかったってのもあるだろうな」
「実際、ぶつかってたらどっちが勝ったと思う?」
「ルーヴェントとベアトゥースか?」
そこで一行は「うーん」と全員で首をひねった。
男としては、そこで悩まれるというのはかなり心外だ。
もっとも、そのベアトゥースという剣士を全く見ていないのだから、文句は言えないが。
「まあわっかんねぇな。あ、ただ、顔は惨敗だよな」
「あっはっは。ちげぇねぇ。少なくとも女性人気なら、百人中百人があっちだな」
思わず手の中のジョッキを握りつぶしそうになる。
幸い、木製の大ジョッキはその程度ですぐ砕けることにはならず、ミシ、という音で男は気付いて慌てて力を抜いた。幸い、割れてはいないようだ。
「まあ、まともに戦えばルーヴェントが勝つんじゃね? あのベアトゥースは強かったけど、なんつーか、試合向きっていうか、実戦的じゃないっていうか」
「まあなぁ。野獣みたいなルーヴェントの旦那の剛剣相手だと厳しそうかねぇ。まあ負けても、女の人気は奪えないだろうけどな」
「むしろ恨まれるんじゃねぇか?」
再び大笑いする男たち。
もっとも、聞く限り本当に美形だったらしいから、そこは――男としては負けてないと主張してもむなしいだけだろう。
少なくとも、自分が美形だと言われる類ではないことは理解している。
刃物で削ぎ取ったように厳つい、などと評されたことすらあるのだ。
「まあでも、見たかったよなぁ。実質、王国一の剣士を決める勝負になっただろうしなぁ」
男たちがしみじみという。
少なくとも、自分の実力が軽んじられてないなら――十分だ。
そう思って、杯を空にしたところで――ふと、店の外に銀色の何かが見えた。
そのまま、店の前を通過していく。
(あれは――)
銀色の輝きは、纏った鎧のもの。
そして、長い亜麻色の髪。顔は見えないが、背はそう大きくない。
一瞬の姿だけで、どこか美形の雰囲気があると思うのは、先ほどの話を聞いていたからか。
(面白い。いっちょ見てみるか)
男は懐から硬貨を取り出し、カウンターに置くと、酒場を出る。
そして――。
「よぉ。あんたが、今噂の剣士さんかい?」
白銀の鎧をまとったその剣士が振り返る。
その姿が思った以上に美しかったのに、男は軽く驚いていた。
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天音 朝陽様の自主企画
【お題 創作】 ハイファンタジーのプロローグ・貴方ならお題を見てどう描く??
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093082003147605
の参加ネタです。
ほとんど言い出しっぺに近いので参加。
短編集の一部で、かつネタは丸ごと持ってきてるのでこれ以上を書くつもりはありません。続きは天音 朝陽が書いてくれると思うので、そちらをお読みください。
果たして雰囲気出てるのかどうか。
なお、ベアトゥースは実際にはベアトリーチェという女性で、かつポンコツアホの子らしいです(ぇ
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